一周道路に戻ってちょっと進むともう製糖工場のそば、ニシハマの入り口だ。一周して
しまった。喉が乾いたので、西の集落の売店に向かう。「おめ〜」という声にどきっと
する。なんだとおもったらやぎの鳴き声だった。先日、同宿だった人が山羊の声を人の
呼ぶ声と間違えたと言っていて、本当かい、と思ったのだが、確かに不意に鳴かれる
と、よく似ている。
売店は閉まっていたが、自動販売機でシークヮーサージュースを買うことができた。売
店のそばにある小さな広場では年寄り達がゲートボールをしている。よく見るとそばの
木陰でHさんが子供2、3人と話していた。
島の中心に戻り、ガソリンスタンドで給油して原付を返す。信号はおろか横断歩道のひ
とつもない島にガソリンスタンドがあるのは何だか奇妙な感じがする。
まだ時間があるので、集落を散歩する。祭の日とはうって変って静まり返っている。荒
く積まれた石垣の向こうから生活の気配がする。フクギの木陰をつたって歩く。子供が
父親と一緒に山羊をつれて歩いている。
集落の外れに発電所があった。近代化した町工場、といった感じだ。火力発電である。
郵便局で手紙を出し、西集落の宿に戻って港まで車で送って貰う。いよいよこの島とも
お別れだ。
港の待合室は島で一番立派な建物だ。空港の建物より大きい。中に昼だけやっている軽
食コーナーがあったので、八重山そばを頼む。店員の女の子は『みのる荘』のヘルパー
らしい。
そばを食べ終わると船が着いていたので乗り込む。なんとか座ることができたが、行き
と同じく込んでいて、身動きがとれない。Hさんや、玉城先生、その娘さんが来るのが
窓から見える。昨日の子供達が何人かHさんを見送りに来ている。
船が港を離れる。ニシハマが見える。3日前、あの浜から、港を出ていく高速船を見た
のを思い出す。
島は徐々に小さくなっていく。やがて、船は波照間に背を向け、島は見えなくなった。
行きとおなじくらい海は穏やかで、船は一時間で石垣に着いた。ぎゅうぎゅうの船を吐き出されるように降りると、見慣れた離島桟橋がずいぶん都会に見える。コンクリートの照り返しがきつい。ここでお世話になった玉城先生父娘に別れを告げた。こうして波照間島での日々は終った。
HONDA,So 1995,96