春の竹富島95/3/17


竹富島滞在記pt.3

8/12晴れ
その3

彼の名前は日比君といった。お互いに名前は覚えていた。思わぬ再会である。京都の大 学で入った放浪サークル(?)で、先日まで西表に行っていたのだという。現地解散と なって、西表と石垣で過ごした後、ふと思いつきで竹富に来たという。もし思いつかな かったら擦れ違っていた訳で、凄い偶然だ。そもそも春の時もそうだった。那覇の宿で 西表から戻ってきた人と話をしたときに、これから西表に行くのなら日比という高校生 がいる筈なので、もし会うことがあったら宜しく伝えてくれるよう頼まれた。そして、 西表の宿でいきなり、偶然にも同室になったのだった。不思議な縁を感じない訳にはい かない。Hさんに紹介し、いきさつを話す。

夕食後に例の庭先で、3人でビールを呑む。春のようになることを期待していたのだ が、今回は波照間や、春に竹富で一緒だった人達とは客層が違うようだ。夏のせいか若 い客が多い。同じ部屋に、海で背中を焼きすぎてザックが背負えなくなってしまい、移 動できずに宿泊しているというキャンパーの男の子がいたのだが、彼が中心になって何 人かがトランプに興じている。

つまらないので、3人で懐中電灯を持って遊びにいくことにした。西に少し進むと集落 の真ん中のちょっとした丘にあるなごみの塔がぼんやりと見える。5メートル位のただ のコンクリートの柱の上に、1メートル四方ほどの台がのっかっているだけのもので、 急な階段で登るようになっている。よく今まで台風などで倒れなかったと思うくらいの 非常にスリリングな塔である。当然灯りはない。度胸を出してこれを登ろうということ になった。懐中電灯でお互いに足元を照らし合いながら、一人ずつ順番に登る。
こわごわと辺りを見渡すとまわりの島の明りが見える。石垣の街灯りはやはり目立って いる。同じくらい大きい西表島は逆に灯りが少ない。西表島唯一の交通信号が見える。 足元には月明りに青白く照らし出された赤瓦の屋根が広がっている。どこかのカラオケ が鳴り響く。風景に不釣り合いの演歌をがなりたてている。南西には遠浅の砂浜コンド イビーチが見える。そこまで行こうということになった。

登るより降りるほうがこわい階段を何とか降りて、夜道を更に西に向かう。亀甲墓の脇 を通る。島を一周する道に出て、南に進む。道の両脇は行けども行けども薮が続き、ビ ーチの入り口は現われない。通りがかりの軽トラに、ハブに気をつけるように言われた 後で、道を何か得体の知れない生き物がうごめきどきっとする。巨大なカニであった。 いつハブが出てくるかとひやひやしつつ、ようやくコンドイビーチに着いた。砂浜の白 さが月明りを反射して、辺りが見える。先客の学生のグループらしき声が遠くから聞こ える以外は穏やかな波の音だけがする。砂浜に座り込み海を何とはなしに眺める。夜の 海には近寄り難い恐怖感と同時に、原初的な安心感があるように思える。波のリズムが 誘惑する。生命と死の両方が感じられる。
十分時を過ごして戻る。行きに比べるとあっという間に着いた。しりとりをしながら歩 いていたせいかもしれないが。
戻ったのは午前1時近く。キャンパーが、ハブを見たと騒いでいる。しばらく話して寝 る。

つづく

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