入管・難民法改正に向けたフォーラム

徐々に出てきた難民制度改革案
〜政府案の水準にとどまらない大規模な改革が必要〜



 
 

 5月のシェンヤン事件の衝撃は、「難民鎖国」日本にとって、いわば「黒船」のようなものだったということができます。中国官憲に対して、日本がまともに対応できなかった背景には、難民や庇護希望者を厄介者扱いする日本の外交官の体質があり、その背景には、日本が一貫して敷いてきた「難民鎖国政策」があったことが、誰の目にも明らかになったのです。
 これに対して、市民側はすぐに「日本の現在の亡命希望者・難民受け入れ制度はもう限界〜法改正による抜本的な見直しを!緊急提言〜」をまとめ、関連の国会議員などに対してロビーを開始しました。一方、政府や各政党も、非常に速いスピードで難民制度改革の検討に入りました。政府は古川貞二郎:官房副長官(三人いる官房副長官のうち、ただ一人の官僚側)を軸に検討会を設け、法務省・外務省との調整に入りました。自民党は、中山太郎元外相を軸に検討部会を設け、法務省は出入国管理政策懇談会(法相の私的懇談会)に部会を設け、国際人権法の権威である横田洋三・中央大教授を座長に検討を開始しました。与党内では、公明党が早急な検討に入り、野党でも、民主党・社民党などが積極的な検討の動きを見せました。
 そして2ヶ月後の現在、政府・自民党は検討結果として「わが国の取るべき難民政策の基本的な方針」(新聞記事はここから)を発表。一方、公明党も「難民政策の見直しに関する政策提言」を発表しています。
 政府・自民党のものも、公明党のものも、見る限り、それなりに高い水準の改革案を打ち出してきています。これを、市民側の提言と見比べてみましょう。

(1)在留資格を持たない難民申請者への在留資格の付与について

 7月12日付毎日新聞は、在留資格を持たない難民申請者に対して、法務大臣が一定の在留期間を指定して「定住者」に準ずる資格を与えるとの政府方針を報道しています。もしそうであれば、これはきわめて画期的なことです。
 しかし、実際の自民答案を見ると、この資格の付与は「保護施設への入所」が前提である、と報道しています。この保護施設については、東京・大井町にある「国際救援センター」(アジア福祉教育財団難民事業本部の管理:活動はhttp://www.rhq.gr.jp/know/man_bd.htm参照)になると思われます。
 もちろん、「国際救援センター」はこれまでインドシナ難民に関する活動実績があり、少なくとも牛久収容所や国際空港近くの上陸防止施設のようなものではありません。空港や港で難民申請を求めてきた人が、一定の手続の上、在留資格を得てこうした施設に入所するのは、一つのあり方として適切かも知れません。
 しかし、一方で、難民申請者の中には、たとえば在留資格をもたないまま、かなりの期間日本で生活し、一定の生活基盤を作り上げてしまったところで、母国で戦争が起こったり、対立する勢力が政権を確保して迫害の恐れが強まったために難民申請をせざるを得なくなった、という人や、母国での迫害により、国家権力に恐れをなして難民申請できないまま長期間過ぎてしまった、という人もいます。こうした人々が、すでに日本国内に一定の社会基盤を持っているのに、それを捨てて入所しないと在留資格が与えられない、というのでは困ります。原則として、在宅を希望する難民申請者には在宅で在留資格が与えられるべきであり、施設への入所は条件となるべきではありません。

(2)60日条件の緩和について

 政府・自民党案は、60日を180日に延長する、というものです。しかし、これは、これだけに終わるならば、言ってみれば「目くらまし」のようなものです。180日は延長期間としては中途半端であり、せいぜい「60日ルール」が「180日ルール」に変わるだけの話です。
 この点で重要なのは、現行で堂々と行われている難民条約違反の行政手続き、すなわち、単に60日、(もしくは180日)を過ぎてから難民申請したという理由だけで、その人の難民該当性をすべて切り捨てて難民不認定にするというやり方が、明文で禁止されるかどうかです。
 そもそも、現行法ですら、難民認定の判断を行う側がまともであれば、難民条約に則った難民認定が出来るわけです。法改正の要点は、難民認定に当たる行政官の側が、難民条約に違反した行政処分を行うことが出来ないように、いかに法律で縛りをかけておくか、ということです。その点、公明党の案は「期限超過のみを理由とする不認定の原則禁止を明確化」することを明言しており、適切であるといえます。

(3)その他の点

 それ以外に、一定評価すべき点として、政府・自民党案においても「第3者機関」の設置がうたわれていることが挙げられます。これについては、しかし「第3者機関」をどの省庁に設置するのか、どの程度の独立性を確保するのか、委員に条約難民自身やNGO、難民問題に携わってきた弁護士など、当事者として意見を述べたり、またはそれを代弁できる人が就任できるのか、といった点について、今後攻防を繰り広げていかなければなりません。
 一方、市民側の「緊急提言」に述べられていることで、政府・自民党案および公明党提言のいずれにおいても触れられていないことがあります。それは、法務省が現行でとっている「全件収容主義」をどうするかです。
 積極的な難民受け入れ政策を採っている欧米諸国でも、難民認定率は全体の1〜2割です。日本が一定、積極的な難民受け入れ策に転じたとしても、本来難民であるにもかかわらず難民不認定処分となり、定められた在留期間を超過しながら裁判に突入するという場合はあり得ます。こうした場合に、現行の「全件収容主義」が手つかずで維持され続けていると、当然、こうした難民申請者は収容の対象となり、現行よりはずっと少なくはなるでしょうが、収容されながら裁判闘争を闘い続けなければならないという事例は続くということになります。このように、政府・自民党案、および公明党提言は、いずれも不十分な点があります。
 一方、不気味なのは法務省です。法務省は政府内部でも、積極的な改革を打ち出したがっている外務省に対して、制度改革に非常に消極的であると言われています。年末に、「出入国管理政策懇談会」の部会から答申が出されると思いますが、この内容がどのような水準になるかがポイントです。
 こうしたことに鑑みれば、政府・自民党案が、期待していたよりも高い水準の内容を含み、さらに高い水準を公明党提言が維持していたとしても、難民申請者およびその支援に携わる市民側としては、それを受け入れるのではなく、より高い内容を含む提言を社会に提起し続けることが必要であろうと思います。

 

 
 

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