PC処世術 - 専用機との関係を考える

パソコン vs 専用機の構図 - 回想編

 パソコンは汎用機(広義。汎用的に使える機械の意)であるが故に、Webブラウズやゲームもこなせばワープロ・表計算もこなし、なおかつデータ蓄積装置としても利用できる機械である。その一方で専用機と呼ばれるものが存在し、専用であるが故にパソコンよりも簡単な操作で同一の機能を提供できたり、あるいは小型・安価であったり、あるいは安定であったりといった特長を売りにしてきた。そして、その専用機が提供する機能はパソコンに期待される機能と競合することもままあるため、商品としてのパソコンにとっては常に競争相手となってきた。ここではまず、過去に登場した専用機としてゲーム専用機ワープロ専用機を挙げ、パソコンとの関係がどうなっていったかを回想してみたい。

ゲーム機:
 所謂ファミコン以前の時代から、パソコンはゲームの出来る装置,或いはゲームを開発できる装置として市民権を得てきた。8bit 時代からゲームはパソコンの主たる機能の一つとして期待されてきたわけである。そして、機能をゲームに絞ることで価格を低減し、テレビ・ゲームをPCを趣味としない一般消費者にもたらしたゲームマシンが専用機として出現した。ファミコンやドリームキャスト,ニンテンドー64, プレイステーション,PS2, …といったゲーム専用機が大挙して現れ、ゲームをするのであればパソコンよりも専用機のほうがメジャーという状況が続いて久しい。
 その一方で、PCに対するゲームという機能への期待が衰退したわけではない。PCならではの高精細画面や高速な処理,ネットワーク接続,ストレージ容量などにより、ゲーム専用機には実現が難しいゲームが出現し、パソコンに期待する機能としてのゲームは益々盛んな気配である。パソコンの性能は年々向上するものであり、パソコンは年々高まるゲームが要求する処理能力をいち早く満たし得る存在であり、ゲームという機能にとってPCの存在意義は失せることはなかったようだ。一方でゲーム専用機もPCの進化に合わせるようにして性能が向上することで,PCに駆逐されるようなことはなくその存在価値を維持しているようである。

ワープロ専用機:
 パソコンの機能としてビジネス・アプリケーションの類が定着していなかった8bit 時代頃からビジネスアプリを使うことが当たり前になった16bit時代に、文書の清書装置として活躍したのがワープロ専用機である。モニタ/キーボード/ディスク装置(ストレージ)/プリンタにワードプロセッサ・ソフトを備えたそれはほぼPCであった。キーボードには「網掛け」「倍角」「保存」「印刷」などの専用ボタンを有して簡単な操作で文書作成が可能であったし、プリンタも専用でドライバやソフトのインストールやOSという概念とは無縁であったことがPCに対するメリットであり、ワープロ専用機の存在意義はそこにあった。そして、一般消費者の視点では「ワープロといえばワープロ専用機を指し、パソコン用のワープロソフトなどはマイナー」という程度までの一時代を築いたのである。
 しかし、2004年現在の市場を見渡してみると、ワープロ専用機は絶滅しているようだ。絶滅危機の頃,その理由として将来性やら拡張性などが言われ、インターネット対応ワープロなどが現れたこともあった。しかし、少々乱暴ではあるが、「文書作成などはパソコンで行えば済む」という時代が到来したことがワープロ専用機絶滅の理由と筆者は思う。思えば、ワープロ専用機が駆け抜けた時代は、PCにとっても専用機にとっても文書作成というミッションが機械の性能に対してバランスしていた時代であり、美しい清書を得るために, あるいは楽に文書作成を行うために機械の性能が向上してきた時代でもある。しかしながらPCは新たな機能を求めて性能向上が進み,文書作成などは全く苦も無くこなせるようになってしまった。しかもPCは新たな機能によって、その使用に対する障壁を低いものにしてきた。その一方でワープロ専用機は性能を向上する口実を失って、高価な単機能装置に成り下がってしまったのである。
 ワープロ専用機は、文書作成という機能を提供する装置として一時代を築くことができたが、PCの能力向上とその普及に伴って存在意義を失ってしまったようだ。

 こうしてみると、結果としてパソコンによって駆逐されてしまった専用機はワープロに代表されるように確かにあるようだ。逆に、ここではゲーム機を代表例として挙げているが,最終的に専用機の方がが便利という場面は依然としてあるとしても、専用機によって駆逐されてしまったパソコンの機能というのはあまり見当たらないように思う。
 なお、過去に起きた専用機vsパソコンの構図は、今回紹介したワープロやゲーム機のみには留まらない。アナログからデジタルへの潮流の中で、パソコンおよびそれに付随すべきデジタル機器に取って代わられたものは少なくない。
 そして、現在もなお専用機vsパソコンの構図は存在しつづけている。専用機とPCとの関係を考察することは、今後どのような機能が主としてPCに求められられてゆくかを考える上で重要なことだと筆者は考える。いずれ、現在ホットな戦い(?)を繰り広げている専用機とパソコンとの関係を眺めてみたいと思う。 (9. May, 2004)

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パソコン vs 専用機 - オーディオ編

 「アナログからデジタルへ」の潮流に揉まれながら、パソコンがオーディオ装置との戦いを経験したのは 20世紀末(199x年代末)頃から21世紀初頭にかけてだったろうか。かつて電気機器量販店の表舞台にいたのは ミニミニコンポ や CDラジカセ の類であったが、いつしかパソコンはその一角を占めるようになっていった(2004年現在では退潮気味だが)。
 勿論、パソコンとラジカセでは対象とする消費者も異なるし,使用目的それ自体も異なるわけで,直接対決はなかったのだが、デジタル化の潮流が民生用オーディオ界にもたらした影響は少なくなかったし,また逆に音楽と言うコンテンツがパソコンを刺激した面もあったように思う。

 さて、ご存知のようにオーディオのデジタル化の潮流はかなり古くから進行していた。それは、CD(コンパクト・ディスク)の出現から始まっている。それまでのアナログ盤やカセットテープに代わって登場したCDは、録音は出来ないものの配布メディアとして民生用オーディオに浸透して行き、遂に主役の座を奪うに至る。1980年代の出来事だろうか(発売は1982年)。1980年代後半から1990年代前半に掛けては、CDデッキやCDラジカセに代表される民生オーディオが、電機量販店の一等地を占領していったのである。
スピークボード,PC-9801,Cバス用  その当時のパソコンはといえば、音楽を“録音・再生”するには全く能力不足だった。パソコンで音楽と言えば、タイマ周波数を変えたBEEP音で音程を出すとか、もう少し進んで PSG(ファミコンのような音)とか、更に進んでも FM音源などのシンセサイザ程度の時代だ。右の写真はそれより更に進んだ 1990年代初頭のADPCM音源を搭載したパソコン用の音源“スピークボード”だが、搭載されていた SIPパッケージのメモリはそれなりの面積を占有しているものの、容量は僅かに 256KB(メガバイトではない)であり、とてもナマの音楽の録音再生を楽しめる代物ではなく、楽器の音色を録音できる程度に留まっていた。(現在のMIDIの Wavetable のような使い方をしていた)

 そうしてみると、ナマの音を再生する装置のデジタル化は、パソコンよりも民生用専用機器の方が遥かに進んでいたと言えないこともない。このように専用機が先を行く状態は、パソコンで録音したり,CD-ROMの吸出しと CD-R への書き込みが一般化した 32bit躍進〜終焉フェーズ(1999年頃) まで続くことになる。
 その一方で、パソコンがジュークボックスとしての能力を獲得するまでの間に、民生用オーディオ機器の方も着々と進化していたわけだ。もちろん、安価なD/AやアンプおよびCDドライブと豪奢風な筐体からなるコンポの類もあったわけだが,その進化の形態は主に小型・携帯化だったように思う。カセットテープ式の携帯ステレオ(つまりウォークマン)がCD化され、更にMD化されていった。携帯式でないものも、小型のものが主流になって言ったように思う。

 このように、パソコンが音楽の録音再生能力を獲得してきた一方で、専用機の方は常に更に一歩先を進んでいたようだ。このためか、パソコンもオーディオ専用機のお株を完全に奪うには2004年現在、至っていない。筆者も、パソコンに音楽を再生させることはよくあるが、音楽を再生するために必ずパソコンを立ち上げるかと問われれば、ノーなのだ。
 現在ではオーディオ専用機は更に進歩しているらしく、トレンドはシリコン・オーディオやハードディスク・プレーヤのようなデジタル再生機だろうか。こうした類の再生機は既に2000年頃にも登場し、携帯電話と合体したものもその頃からあったが、当時は容量が見合っていなかった。それが2004年現在では充分な容量を得てブレイク中である。既に筆者の周辺でもこうしたプレーヤを見かけるようになったところを見ると、大分浸透している。デジタル化の潮流の中で,パソコンの中で育った技術や製品が極めて小さな専用機の中に凝集されて、専用機であるが故に単純・簡単・軽快な操作を得ているようだ。
 では、パソコンにはそのような音楽録音再生機能が不要になったかと言うとそうでもない。周囲を見渡して見ると、再生機として積極的に利用している向きは少ないが、音楽CD-R焼きマシンやHDDオーディオへの転送(&圧縮)母艦としては結構利用されているようだ。こうしてみると、パソコンとオーディオ機器の場合,編集&パブリッシュマシンと再生マシンという棲み分けがあるように筆者には見える。筆者が思うに、民生用オーディオが曲目その他を編集したり,あるいは曲自体をパブリッシュしたりといった機能を獲得することは不可能ではないが、積極的にそうした機能が必要とされることはないのではないだろうか。このあたりに、編集マシン同士で全面対決となったワープロとは異なり、パソコンとの直接対決を避け得た構図が存在しているのかもしれない。
 さて、ここではオーディオについて書いて見たが、2004年現在パソコンと対決の様相を見せているのはやはりビデオ録再機だろうか。ここでも、パソコン,あるいは専用機は互いに直接対決を避けられるのか、それともやがて勝敗が決してしまうのか、興味深いところではある。(28.Nov, 2004)

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