EURO 2004 SPECIAL #04. やがて哀しきフェルナンド


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2004.07.06.Tue. 12: 50 p.m.
BGM : MICHELLE BRANCH "THE SPIRIT ROOM"

 肌にまとわりつく湿気が、あたかもギリシャ風ディフェンスのように感じられる昨日今日である。こういうときは涼しげな美女でもと思って、久しぶりにジャケ写を載せてみた。これでは小さくて美女に見えないかもしれないが、写真によって顔が異なり、どれが本来の顔なのかわからないという意味で、ミシェル・ブランチは矢野真紀に似ている。ギリシャはギリシャ本来のサッカーをやったのだろうか。これからあれがギリシャ本来のサッカーになるのだろうか。体力勝負のスパルタスロン・フットボールが世界をリードするのか。どうせならギリシャにはイタリアと試合をさせてみたかった。絶望的な守備合戦の末にギリシャを1-0で下せそうなチームは、イタリアぐらいしか思いつかない。何だかんだ言いながらイタリアに期待してしまう私。ただしGKはペルッツィにしてほしいが。

 終わってみれば、なんだかチグハグな大会だったような気がする。準々決勝以降、トーナメント表の左側と右側で別々の大会をやっていたような感じ。そのチグハグさが、ポルトガルの気勢を次第に削いでいったように思えなくもない。イングランドを下したときは「よし、決勝でフランスにリベンジだ!」と気持ちを奮い立たせたことだろう。オランダに勝った後は「次はチェコを倒して優勝だ!」と燃えたに違いない。でも、ギリシャだった。ギリシャかー。いや、まあ、俺たち初戦で負けたけどさ、ありゃ緊張してたからだもんな。コウトもいたしな。ふつうにやりゃ負けないよ。うんうん、負けない負けない。……というのはポルトガルの気持ちを代弁しているわけではなく、実のところ私自身の感情の変遷でしかないわけですけども。やれやれ。

 だいたいね、チェコがいけないんだよチェコが。ギリシャみたいな伏兵はさぁ、準決勝で負けて「でも旋風を巻き起こしました」って爽やかに帰国するのが王道ってもんでしょう、ふつう。実際、ネドベドが故障するまでは負けそうだったよ、ギリシャ。他のどこよりもチェコがギリシャのゴールを脅かしてたんだよ。なのにさぁ、なんでネドベドの代わりにスミチェル投入しただけであとは動かないんだよ。あのブリュクネルだかブルックナーだかっていう監督、すんごい知略家みたいな顔してるくせに、実はネドベドがアウトしたところで思考停止してたんじゃないのか。腹は黒いが頭の中はまっ白かよ。せめて延長前半でハインツ投入しろよ。

 などとブツクサ言ったところで何も始まらないし、始まらないどころか大会はもう終わっているので、EURO日誌はこれでおしまい。しかし、気持ちを切り替えて来シーズンのことでも考えようかと思った矢先に、コラーディとフィオーレのバレンシア行きというニュースが聞こえてくるんだから、サッカーはほんとうに哀しい。来日したフィオーレに、「ぼく誕生日が同じなんですぅ」と言ってサイン貰おうと思ってたのにな。ちぇっ。ところで、もっと哀しいのは柳沢のメッシーナ行きだ。これでまたセリエの放送枠が一つ日本人選手に食われてしまう。何だよメッシーナって。晩ご飯とかご馳走すんのかよ、って、つまんないこと言わせんなよ。迷惑なんだよ。勘弁してくれよ。




2004.07.05.Mon. 12: 25 p.m.
NO BGM

 このEURO日誌の冒頭で、8年前の大会の話をした。実を言えば、あのEURO96において、フェルナンド・コウトの宙返りの次に私にとって印象深かったシーンがタッチライン際を疾走するポボルスキーの姿であり、ポルトガルの次に私にとって印象深かったチームがチェコであった。当時ネドベドのことは名前をうっすら記憶していた程度だったが、それから2年後、コウトに導かれてラツィオの試合を観るようになったとき、「ああ、こいつもあのときのチェコの選手か」と思い出して注目し始めたのを覚えている。もちろん、ポボルスキーがラツィオに移籍してきたときも嬉しかった。そんな2チームが8年後にこうして決勝で顔を合わせるのは、私にとって妙に感慨深いものがあるんである……という書き出しになるはずだったんだよ、今日の日誌は。でも。


●チェコ×ギリシャ(準決勝)
 右CKを頭で一発。0-1でギリシャの勝ち。
 チェコはネドベドの故障退場が痛かった。


●ポルトガル×ギリシャ(決勝)
 右CKを頭で一発。0-1でギリシャの勝ち。
 ポルトガルはミゲルの故障退場が痛かった。


 というわけなのである。ギリシャのギリはギリギリのギリ。レーハーゲルめ。おめでとうございました。尻すぼみの大会をどうもありがとう。いま振り返れば、ブルガリア戦におけるカッサーノのロスタイム弾がこの大会のピークだったように感じる。あんときゃ面白かったよなぁ。ブッフォンのCMも含めて、陰の主役はイタリアだった。南太平洋の村で稲作の歴史が始まっていることもよくわかった。他にも書きたいことはたくさんあるが、EUROが終わるやいなや私は忙しい。今日はお茶ズボの〆切だ。なので、また後日。というのは少しだけウソで、べつにもう書きたいことはないような気もする。やはり、サッカーはいつだって哀しい。リカルドぉ。ゴールをお留守にしちゃダメじゃないかぁ。




2004.07.01.Thu. 13: 35 p.m.
BGM : "ERIC CLAPTON STORY"

●ポルトガル×オランダ(準決勝)
 まずは、前半40分までホイッスルを「吹かない」ことでゲームをコントロールし、両国の持てるテクニックとスキルを存分に引き出そうと試みたフリスク主審の勇気あるレフェリングを称えたい。そして、少々のことではファウルにならないからといって図に乗ることなく、主審が発した無言のメッセージに応えてクリーンなファイトを心掛けたプレイヤーたちにも、私は拍手を送ろう。ただしファン・ニステルローイは除く。フットボールはいろいろなものを含んで成立している寛容なスポーツだが、彼がボールから完全に目を離してGKリカルドのアキレス腱付近を足の裏で削った行為は、このゲームにおける唯一の汚点であり、フットボールの外にあるものだった。つまり「プレイ」になっていなかった。そういうのはフットボールっていわねぇんだよ。今大会のアイドルと化したリカルドが大怪我をしなくて本当によかったと思う。今後、何らかの形で明確な改悛の情を示さないかぎり、私は永遠に彼を見捨てるローイ。というか、そもそも私はファン・ニステルローイが嫌いなんだった。だから今回のオランダには思い入れしにくかったのだ。パトリック君が干されていたことだけが原因なのではない。

 さて、前半。フィーゴ&(首の長いほうの)ロナウド VS オフェルマルス&ロッベンという新旧のタレントを取り混ぜたゴージャスなサイドアタッカー対決は、頻繁にポジション・チェンジを行うポルトガルのほうがやや上回っていた。守備でもミゲルがロッベンをシャットアウト。業を煮やしたダビッツが左サイドのフォローに回ってからはオランダもそちらからチャンスを作っていたものの、ポルトガルは中央の守備も堅い。かたやオランダ守備陣はしばしば混乱し、ゴール前に隙を作るシーンが目についた。

 ポルトガルの先制点は、(首の長いほうの)ロナウドのサイドアタックで得たCKから。ポルトガルは意図的に「深くサイドをつついてマメにCKをもらう」を狙っていたのかもしれない。デコのキックを、カルヴァーリョの背後からこっそり忍び寄った(首の長いほうの)ロナウドがさらに首を伸ばして頭でゲット。半分シャツを脱ぎながらジャンプしていたのではないかと思うぐらい、上半身裸になるのが早かった。あれだけ笛を我慢していたのにここであっさりイエローを出すあたりが、フリスクさんの厳格なところだ。まあ、それもご愛嬌。ロナウドえらい! これからはブラジル人のほうを「首の短いほうのロナウド」と呼ぶことにしよう。サー・アレックスとファン・ニステルローイさえいなくなれば、私はユナイテッド贔屓になってしまうかもしれない。前半は1-0。

 後半、あドふぉカート監督は決して調子の悪くなかったオフェルマルスを下げてマカーイを投入。ビブス姿のクライファートは、相変わらずベンチに座りっぱなしだった。だが、表情がほんの少し険しくなり、姿勢もほんの少し前のめりになっている。大きなお子様が、やっとゲームに参加する気分になったように私には見えた。クライファートの夏は、これから始まる。この試合展開なら、きっと出番があるはずだ。そうでなければ、あんなにデカい荷物をはるばるポルトガルまで運んできた意味がない。そのときは、そう思った。

 それにしても、監督が動けば動くほどよくわからないことになっていくのが今回のオランダである。後半10分をすぎたあたりで、オフェルマルスのいなくなった左サイドを攻めたポルトガルがまたCKをゲット。うんうん、そりゃあ、そっちのサイドを狙うわなぁ……などと得心していたら、なんだかわからないうちに2点目が入っていた。どうしたんだ何が起きたんだ説明しろ責任者出てこい。

 もちろん、この大会における中継スタッフの不手際は今に始まったわけではない。どの試合でも、リプレイの間にリスタートが行われて重要なプレイをお茶の間にお届けできていないケースがあった。アップから俯瞰への切り替えも遅い。そもそも無駄なクローズアップが多い。だから今さら驚かないとはいえ、この試合のあの場面でのそのミスは担当者丸坊主必至の大失態といってよかろう。しかもリプレイで見たら、ショートコーナーからマニシェのすんげえロングシュートじゃないか。すんげえよ、すんげえよ。マニシェすんげえよ。あのシーンを正しい形で伝えることにしくじり、全世界の視聴者から興奮のビッグチャンスを奪った奴は万死に値する、と言ったら大袈裟だろうか。ちょっとだけ大袈裟です。

 ともかく2-0だ。うほー。マジすか。マジで決勝進出すか。そんなにうまく行くもんすかサッカーって。と、口には出さず内心でソワソワソワソワしていたらアンドラーデのオウンゴールである。難しい体勢から絶妙のスペースにアーリークロスをコントロールしたファン・ブロンクホルストを褒めるべきであろう。でもアンドラーデのメンタル・コンディションは、ちょっとヤバいレベルまでダウンしてしまったように見えた。も、も、もしかして、コ、コココ、コウトに替えたほうがいいのでは……という思いを振り切るのはべつに難しいことではなかったですけどもね。落ち込んだアンドラーデと休養十分なコウトと、どっちがポルトガルにとってアンドラーデだと思ってるんだ。誰が考えたってアンドラーデに決まっている。そしてアンドラーデは何とか立ち直ってくれた。集中力を取り戻したアンドラーデはえらい。取り戻させたポルトガル守備陣もえらい。

 しかし、我らがフェルナンドに出番はあったのだった。ファン・ホーイドンク投入で放り込み作戦に出たオランダへの対抗措置である。対抗措置なのかそれは。かえってターゲットマン増やしてないか。ちゃんとペナルティのリスクまで計算したのかフェリペ。ビブスを脱いでタッチライン際に立ったコウトの雄姿を見た瞬間、カラダのあらゆる部分から汗が噴き出てきた。てのひらも足の裏も汗でびっしょりだ。頭までカユくなってきた。サッカー見てて頭がカユくなったのは初めてかもしれない。生きた心地がしなかった。これは愚妻に指摘されてナルホドと思ったのだが、オランダを応援しているときは彼らが放り込み作戦を始めると「それじゃいつまでたっても入らん」と絶望的なキモチになるのに、敵に回すとオランダの放り込みは怖い。ものすごく怖い。守ってるのがコウトならなおさらだ。で、やりやがったのである。ペナルティアーク付近でファン・ホーイドンクにファウル。左45度、ファンホイに蹴らせたら2.7回に1回ぐらいの確率で入りそうな位置だ。たまらんよ。見てられんよ。でも、歯を食いしばって、見た。頭を掻きむしりながら、見た。入らなかった。ホスト国の主将が命拾いした瞬間だった。

 2-1でポルトガルが決勝へ。すばらしいチームだ。大会が進むにつれてベテランと中堅と若手が見事に噛み合って成長していく様を見るのは実に愉快である。ざまあみろ! ポルトガルは終わってなんかいないのだ! 一方、とうとう一度もピッチに立つことなく、天才球児パトリック・クライファートの夏は終わった。しかし、彼のサッカー人生が終わったわけではない。と、信じたい。永遠なる未完の大器の、明日はどっちだ。……カタールとかそっち方面じゃないといいんだけど。




2004.06.30.Wed. 22: 20 p.m.
BGV : スペイン×ポルトガル(グループA)

 いま夜の9時半だが酔っぱらってまーす。でへでへ。この時間に酔っぱらってるのはフツーのことか。ともさかりえ、いや、元サカYさんに頼まれた小仕事が意外に大仕事だったもんで、昼間は日誌が書けなかったのだ。某ビッグクラブの100年史を3000字にまとめる仕事である。1年あたり平均30字だからね。難しいよ、そりゃ。べつに年表を書いていたわけではありません。ともかくそれを書き上げ、ダメ出しをしてもらおうと思ってYさんに電話したらもう退社なさっていたもんで、なーんだ明日の朝までにやればよかったのかと思いつつ晩飯食ってから自宅で更新中。横では愚妻がグループリーグの試合をハードディスクからVHSにダビングしている。ご苦労さんです。いま画面左下でロシアが先制したところだ。しかし私も酔っぱらっている場合ではないのであって、お茶ズボの〆切は近いし、それ以外にも現サカすずき君から頼まれた仕事があるので、いろいろ大変なんだよね。うんうん。大変大変。4時間もある某代表チームのDVDを見て原稿を書かなければいけないのです。六本木に移転した途端、人づかいが荒くなってないかフロムワン。というのは冗談で、お仕事くれてどうもありがたい。僕がんばるよ。うんうん。がんばるがんばる。そういえばセガレもがんばったようで、また算数のテストで100点を2つ取ってきたよ。えらいなぁ私のセガレ。でも、どうせ1敗するなら準々決勝よりグループリーグ初戦のほうがいいに決まってるのと同じで、ミスするなら早いほうがいいんだけどね。もっとも、このテストは「100点になるまでやり直しアリ」であったらしい。セガレは一発ツモだったようだが、なんだよそれ。算数のテストまで結果の平等かよオイ。手ぇつないでゴールすんのかよ。ビールでも飲まなきゃやってらんねぇよ。もう飲んでるよ。


●杉山愛ちゃん×シャラポワ(準々決勝)
 ウィンブルドンの話だ。ゆうべポルトガル×イングランドの再放送を観たあと、第2セットから観た。なんなんだ、あのロシア女は。びっくりさせんなよ。ヴィエラかと思ったじゃねえか。腕も脚も無駄に長すぎます。そんなに必要ないと思うし、だいいち、あんなに腕があったら頬杖をつくのが難儀なのではないか。あそこまであからさまにプロポーションの違いを見せつけられると、ニッポン人として絶対に愛ちゃんには負けてほしくない、と思った。でも負けちゃった。っていうか、ひとりでテニスやってたよな、あのロシア女。まったく関係ないが、テニス選手がベンチで口にしている飲み物って、どれもすごく美味しそうに見える。

 それにしても人間の記憶というのはアテにならないもので、ポルトガル×イングランドはもう3回も観ているのだが、観るたびに「そうだったっけ?」と思うことがある。たとえばルーニーの故障退場が前半何分頃のことだったか、あなたは覚えていますか。私はキックオフから10分ぐらいしか経っていないように思っていたのだが、実際は23分ぐらいだった。あと、シモンとポスティガの投入はほぼ同時だったような印象があったが、実際はかなり時間差がある。人間の記憶がアテにならないんじゃなくて、私の脳がアテにならないのか。犯罪に巻き込まれても、裁判の証人にはなれそうもない。


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