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1. There's a Rugged Road
2. Kiss
3. Pearl
4. Down Where the Valley's Are Low
5. Vigilante
6. Soldier of the Heart
7. Phoenix
8. When the Bridegroom Comes
9. Donor

平成十九年七月四日(水)午前十一時三十五分
BGM : Heart Food / Judee Sill

 1週間も日誌を書かなかったのはものすごく忙しかったせいでもあるし、家で原稿を書くことが多かったせいでもある。MacBookはネットにつながっていないので、(グーグルおよびウィキペディアの世話になる必要がないものに関しては)仕事がとてもはかどるのだった。あと、家には人がいるのがいい。人間はひとりだとロクなことをしないが、人がいるとわりかし真面目に行動するものなのだ。電車の中や撮影スタジオの片隅で原稿がはかどるのも、おそらく同じ理由による。仕事場の存在意義がどんどん薄れてゆく。

 真面目に行動した結果、神保町方面の単行本は先週の木曜日に脱稿。休む間もなく「わしズム」の座談会記事をまとめ、コラムのネタを考えたが思いつかないので前に日誌でも取り上げたサッカーネタを流用して書き、その間にブラジル入国用のビザ申請書類を揃えたり、サンパウロのホテルを予約するために新橋のアルファインテル南米交流という会社に行ったり、往復60時間の暇潰し用にオープンしたばかりのヨドバシカメラ吉祥寺店(でかい)でiPod nanoを買っちゃったりなんかしながら、一方で原稿料の振込状況をチェックしたら忘れられていることが発覚し、それだけならよくあることだが問い合わせへの対応がわりと不誠実で、前回の日誌に「たまには誰かを許してみたい」と書いたその舌の根も乾いていたので担当者を叱りつけ、息も絶え絶えな感じで「わしズム」の対談記事をやっつけるやいなやコラムのゲラを戻して、やっとこさ一段落(何百段落書いたかわからんけど)したのが昨夜のことだった。やっぱ本気出したときのオレってすげえな、と、自分で自分に感心しきりの今日この頃である。本気出すまでにどんだけ時間かかってんだおまえはっつう話ですけども。そんな1週間。

 ともあれ、この本気さ加減を持続することが大事なのである。なにしろ、また単行本の仕事が一つ増えたのだ。神保町方面を書き上げてようやく一つ減ったと思ったら、千駄ヶ谷方面から新たな指令が下されたのだった。シギーに「キミならできる!」とおだてられて引き受けたものの、よくもまあ、次から次へといろんなこと思いつくもんだよまったく。というわけで、ちょっと前まで「7ヶ月で7冊」だったのが、持ち時間だけ減って「6ヶ月で7冊」になった。思わず笑いが込み上げてくる日程である。だって、そんなに書けるわけないじゃーん。あははー、こいつバカなんじゃねーのー。という笑いだ。でもまあいいや。くよくよしても始まらない。笑えるあいだは笑っとけ。あははー、あははー。







1. Crayon Angels
2. Phantom Cowboy
3. Archetypal Man
4. Lamb Ran Away with the Crown
5. Lady-O
6. Jesus Was a Cross Maker
7. Ridge Rider
8. My Man on Love
9. Lopin' Around Thru the Cosmos
10. Enchanted Sky Machines
11. Abracadabra

平成十九年六月二十六日(火)午後三時五十五分
BGM : Judee Sill / Judee Sill

 遅れている単行本の原稿が片づかないままに、「わしズム」夏号が戦闘開始。最悪の二正面作戦だが、こうなることはわかっていたのに回避できなかったのだから自業自得である。日曜はパレスホテルで座談会、きのうの月曜は目黒の撮影スタジオで対談の収録。移動の時間がもったいないので、とうとう「井の頭線の車中で原稿を書く」という禁断の実を口にしてしまった。ふだん電車の座席でパソコンを開いている奴を見ると「ふん、大した仕事でもないのに忙しぶっちゃって」などと内心で悪態をついたりもするわけだが、もはや恥も外聞も気にしてはいられない。7人掛けのシートに2人か3人しか座っていないガラ空き状態だからできたことだが、これがまあ、意外にはかどるから驚いた。使えるじゃないか井の頭線。それに比べると、タクシーはダメだな。後部座席で原稿を書きながら渋谷から目黒まで乗ったら、目が回ってキモチ悪くなりました。スタジオでは、撮影待ちのあいだも隅っこの机でパコパコ。よその仕事を持ち込むのは無礼と承知はしているが、この際しょうがない。そうでもしないと、「わしズム」の仕事にも取りかかれないのだから許してほしい。と、まあ、そんな感じで各方面に許しを請いながら暮らしている今日この頃。私もたまには誰かを許してみたい。







1. Song of Love
2. Rock & Roll Crazies/Cuban Bluegrass
3. Jet Set (Sigh)
4. Anyway
5. Both of Us (Bound to Lose)
6. Fallen Eagle
7. Jesus Gave Love Away for Free
8. Colorado
9. So Begins the Task
10. Hide It So Deep
11. Don't Look at My Shadow
12. It Doesn't Matter
13. Johnny's Garden
14. Bound to Fall
15. How Far
16. Move Around
17. Love Gangster
18. What to Do
19. Right Now
20. Treasure [Take One]
21. Blues Man

平成十九年六月二十二日(金)午後六時五十五分
BGM : Manassas / Stephen Stills

 一昨日だったかその前日だったか忘れたが、チェルシー×マンチェスター・ユナイテッド(FAカップ決勝)を見たんだった。何をいまさらという話だが、こんなに昔の試合を結果を知らずに見ることができたのは奇跡に近い。そんなに激しく情報遮断していたわけではないのに報道を目にすることがなかったのは、要するにニュースバリューがないってことだろうか。「マンU、2冠達成!」じゃなかったからどうでもいいってこと? 世間様をシラケさせちゃったってことなのかしら? しかしまあ、世間のことなんかはどうでもよろしい。感動的なゲームであった。ほとんどチェルシーの試合を(というか欧州サッカー自体を)見てこなかった06-07シーズンではあるが、延長後半に決まったあの決勝ゴールを見られただけで十分だ。あれが今季の欧州におけるベストゴールだったに決まっている。嗚呼、ドログバ。ランパードとの電光石火のワンツーパスといい、試合を通じて見せていた世界最強のポストプレーといい、あんまりかっこよすぎて失神しそうだったよ。ドログバにだったら、おれ、抱かれたっていい。って自分で書きながら爆笑してしまったが、私がそんなことを言いたくなる選手は、今のところシメオネとドログバしかいない。2人とも、あんなふうに見えて意外とやさしくしてくれそうだし。いやーん。……すまん。ちょっと悪ノリした。ともあれ、1-0でチェルシーの優勝。もしかすると私の錯覚かもしれないけれど、今季の欧州戦線で最後に笑ったのはチェルシーである。よく知らんが、たいへん充実した素晴らしいシーズンだった。







1. You Don't Love Me When I Cry
2. Captain For Dark Mornings
3. Tom Cat Goodby
4. Mercy On Broadway
5. Save The Country
6. Gibsom Street
7. Time And Love
8. The Man Who Sends Me Home
9. Sweet Lovin' Baby
10. Captain Saint Lucifer
11. New York Tendaberry
12. Save The Country (Single Version)
13. In The Country Way

平成十九年六月二十日(水)午後四時十分
BGM : New York Tendaberry / Laura Nyro

 夕食後に仕事場に戻るのが面倒臭くて、ゆうべは自宅の食卓にMacBookを置いて仕事。隣ではセガレが宿題(漢字の書き取り)にカリカリと励み、部屋の隅では愚妻がパコパコとテープ起こし作業に勤しんでいた。おお、なんか会社みたいだ。うちの妻子は私に似ず(というか子が妻に似たのだが)優れた集中力の持ち主で、妙に張りつめた空気のなかでは私もダラダラするわけにいかず、やけに原稿がはかどったのはありがたい。しかし、セガレに「父さんはいいよね、明日までにやらなくてもいいんだから」と言われたときは思わずムッとし、「あのな、だったら聞くけどな、その漢字書き取り2ページを明日までにやれと言われるのと、200ページを1ヶ月後までにやれと言われるのと、どっちがいいと思うんだよ」などと反論。だがあまり説得力がなかったようで、「1ヶ月もあるならそっちのほうが……」と言われてしまった。そっかー。父親がいかに大変な仕事をしているかアピールしようと思ったのに、逆効果だったようだ。そこで書いていた原稿は、じつは「明日(つまり今日)までにやる」が当初の締め切りだったのにまだ半分弱しか進んでいないことは、絶対に言えない。

 ともあれ、もう20日だ。困ったことだ。しかしまあ、ひとくちに締め切りといっても、そこには「努力目標」と「デッドライン」の2種類があるんである。そうなんでしょ? 違うの? そう思って17年やってきたんだから、いまさら違うと言われても困るのだし、今日が掛け値なしのデッドラインだと言われたからといって、上がっていない原稿が上がるわけでもない。こういう態度を世間では「開き直り」と呼ぶのかもしれないが、それが現実だ。と、内心でぶつくさと言い訳しながら半分弱しか上がっていない原稿をおそるおそる担当者に送ったところ、「残り10日、ペースアップ、何卒よろしくお願いいたします」という返信が来た。ほーら、やっぱデッドラインは月末じゃんか。いや、このタイミングで「残り10日」と伝えてきたということは、もうちょっと引っ張っても大丈夫ということだろう。……などと手前勝手な解釈をするのがライターという生き物であるから、ぜったいに甘いエサを与えないでください。

 ところで私がローラ・ニーロの音楽に初めて触れたのは、実のところ、そんなに最近の話ではない。あれは中3か高1のときだったと記憶しているが、「アクエリアス〜レット・ザ・サンシャイン・イン」(ミュージカル「ヘアー」の例のアレ)を聴きたくて買ったフィフス・ディメンションのベスト盤に、「セイブ・ザ・カントリー」「スイート・ブラインドネス」「ウェディング・ベル・ブルース」「ストーンド・ソウル・ピクニック」の4曲が入っていた。ベスト盤の14曲のうち4曲がローラ・ニーロの作品なのだからすごいことになっているわけだが、それも「いま思えば」という話で、当時はそんなことを知る由もなく、ぜんぶ「フィフス・ディメンションの曲」という認識しかなかったため、2年ほど前にこの「セイブ・ザ・カントリー」を含むアルバム「ニューヨーク・テンダベリー」を聴いたときは、「この人はなんでフィフス・ディメンションのカバーなんかしてるんだ?」という間抜けな感想を抱いたのだった。ものを知らないっておそろしい。いわば荒井由実の歌う「卒業写真」を、ハイファイセットのカバーだと思うのと同じぐらい間抜けな話である。ともかくローラ・ニーロの曲はいろんな大御所たちがカバーして大ヒットになっているのだったが、ローラ・ニーロ自身が歌って一番ヒットしたのは「アップ・オン・ザ・ルーフ」というキャロル・キングのカバー曲だったというのが面白いところ。悲しいといえば悲しいのかもしれないが、カッコイイといえばカッコイイよな、そういうの。







ディスク:1
1. Wedding Bell Blues
2. Blowing Away
3. Billy's Blues
4. Stoney End
5. And When I Die
6. Lu
7. Eli's Coming
8. Stoned Soul Picnic
9. Timer
10. Emmie
11. Confession
12. Captain Saint Lucifer
13. Gibsom Street
14. New York Tendaberry
15. Save the Country [Single Version]
16. Blackpatch
17. Upstairs by a Chinese Lamp
18. Beads of Sweat
19. When I Was a Freeport and
You Were the Main Drag

ディスク:2
I Met Him on a Sunday
2. Bells
3. Smile
4. Sweet Blindness [Live]
5. Money [Live]
6. Mr. Blue
7. Wilderness
8. Mother's Spiritual
9. Woman of the World
10. Louise's Church
11. Broken Rainbow
12. To a Child
13. Lite a Flame (The Animal Rights Song)
14. And When I Die [Live]
15. Save the Country [Live]

平成十九年六月十八日(月)午後二時五十分
BGM : Stoned Soul Picnic / Laura Nyro

 木曜日の晩は(あまり大きな声では言えないが)高校時代の仲間と丸の内界隈でうっかり深夜3時まで飲んでしまい、金曜日は(あまり大きな声では言えないが)二日酔いで使い物にならず、土曜日は(これはふつうの声でいえるが)ブラインドサッカー日本代表の合宿@筑波の取材で一日潰れ、日曜日も(これもふつうの声でいえるが)単行本の取材@池袋で半日潰れ、結果的に目の前の単行本が(あまり大きな声では言えないが)ものすごくヤバイことになっている月曜日である。テュリャテュリャテュリャテュリャテュリャテュリャリャ〜。などと歌って誤魔化しているばやいではない。なにしろ時間がないのだ! とにかく時間がないのだ! 私には時間がないのだ! と、大きな声で言ってみた。時間だけは万人に平等に与えられているというが、そんなの絶対ウソだと思うね。私の時間は生まれつき人より少ないはずだ。たぶん、1日18時間ぐらいだとおもう。そうでなければ、こんなに時間がないことが説明できないじゃないか。「生まれつき不平等なのは時間じゃなくて能力だ」とか、そういうほんとうのことを言ってはいけない。だって、「ほんとうのこと」って、あんまり面白くない。

 この2枚組ベスト盤で、集めたローラ・ニーロはすべてここに掲載したことになる。ついつい、ベスト盤まで3種類もゲットしてしまった。反省している。このあいだ友人に「毎日違うアルバムが日誌に出てくるが、いったい年間いくら分のCDを買っているのか」と問われたので正直に(小さな声で)答えたら、横で聞いていた愚妻に(大声で)「そんなに!」と驚かれて「そんなになのか!」と驚いたので、しばらく買うのを控え、これからは手持ちのCDをじっくり聴き直そうと思います。それでも、まだここに掲載していないものは山ほどあるわけだが。まあ、ちょっとした依存症だったのだ。許せ。







1. Save The Country (Single Mix)
2. Eli's Comin'
3. Stoned Soul Picnic
4. New York Tendaberry
5. Upstairs By A Chinese Lamp
6. It's Gonna Take A Miracle
7. Wedding Bell Blues
8. And When I Die
9. Blowin' Away
10. Stoney End
11. Smile
12. Sweet Blindness(Live)
13. Mr. Blue
14. Mother's Spiritual
15. To A Child
16. A Woman Of The World

平成十九年六月十四日(木)午後六時十五分
BGM : Premium Best / Laura Nyro

 きのう日誌を書いた時点で、もう1冊あるのを忘れていた。うー。千駄ヶ谷方面の新書が増えたのに12月が空いてるからおかしいとは思ったんだけどね。うっかり神保町方面のをひとつ失念していたのだ。神保町方面ったっていろいろあるわけで、あそこの街だけで5冊あるのだが、ともかく年内に書かされそうなのは全部で7冊です。そんなことをここで報告して何の役に立つのか知らないが、しかし7冊で済むような気もしない。なにしろまだ6月だもんな。これから年末まで新規の発注がなかったとしたら、それはそれでモンダイである。だから勇気のある編集者は今後も遠慮せずに発注してみたまえ。前向きに善処しようじゃないか。とか何とかブツブツいってるあいだに、「わしズム」夏号も編集部が動き始めた。長い夏になりそうだ。ほんとにサンパウロくんだりまで出かけている場合なのだろうか私は。あ、でも、経由地のシカゴで7時間も待たされるみたいだから、その間にけっこう原稿書けるよな。うんうん、使える使える。いや、しかし、MacBookはバッテリーが4時間ぐらいしかもたないんだった。使えねー。

 それにしても7時間ってなあ。どうなんだよそれ。新大阪まで新幹線で往復できるっつーの。往復してもしょうがないし、シカゴと新大阪を往復するのはさすがに無理だが、それは「待ち時間」というより、もはや空港で「一泊」するということではないのか。というか、その7時間のあいだに喫煙所と出会えるかどうかが恐怖。ブエノスアイレスまでの往路で27時間もケムリを断ったときは「これに耐えられたのだからもう地球上のどこにでも行ける」と思ったものだが、今回は30時間を超えそうな雲行きだ。ブエノスアイレスより時間的に遠いところがあるとは思いませんでした。これを機会に私が禁煙なんかしちゃったら、どうしてくれるんだよ。だれか、頭からすっぽりかぶるタイプの「携帯喫煙ドーム」を発明してください。宇宙服みたいなのでもいいな。あまりに煙たくて、むしろ禁煙に絶大な効果を発揮しそうだけど。燻製かよ。

 と、くだらないお喋りをしているあいだにも、時間は刻々と過ぎてゆくのだった。どうしてこう刻々と進みやがるんだろうかこの時間っていう奴は。飛行機の中では「遅々」のくせに地上では「刻々」だ。刻むんだよなあ。







1. The Confession
/High Heeled Sneakers
2. Roll Of The Ocean
3. Companion
4. The Wild World
5. My Innocence/Sophia
6. To A Child
7. And When I Die
8. Park Song
9. Broken Rainbow
10. Women Of The One World
11. Emmie
12. Wedding Bell Blues
13. The Japanese Restaurant Song
14. Stoned Soul Picnic
15. Medley:La La Means I Love You
/Trees Of The Ages
/Up On The Roof

平成十九年六月十三日(水)午前十時三十分
BGM : Laura - Live At The Bottom Line / Laura Nyro

 相変わらずの絶不調が続き、ああ書けない書けないオレはもう書けないかもしれないと弱気の虫が心の中心で泣き言を叫んでいた昨日の昼頃、千駄ヶ谷方面から新規プロジェクトの発生を告げる電話が来た。秋に出す新書。執筆は7〜9月のどこか。企画の内容を簡単に説明されたあと、「やる?」と問われて「やる」と答える。やるのかー。これが何を意味しているかというと、今月から11月まで6ヶ月連続で毎月1冊ずつ書くということを意味している。もう年内は手一杯だったはずなのになぁ。超モンスター日程である。プレミアとFA杯とリーグ杯とチャンピオンズリーグで忙しいときに、ワールドカップとEUROの予選が同時に始まったような感じかも。要するに、あり得ない日程。

 しかし日程というのは弁当箱のご飯みたいなもので、もう満杯のように見えても、ちょっと左右に揺さぶってぎゅぎゅっと詰めれば、意外にまだ入るものなのである。すでにフタがやや浮いているような気もするが、途中であふれちゃったら、あふれちゃったときのことだ。はみ出てきたものから食えばよろしい。それに、先日来のスランプを脱するには、千駄ヶ谷方面から新たな負荷をかけてもらうしかないような気がしていた。千駄ヶ谷の仕事は、いつだって私のカンフル剤だ。じっさい、「やる」と答えた瞬間から、頭の中でアドレナリンだかベータエンドルフィンだか何だかがどばどば噴出したような感覚があった。で、目の前の仕事に戻ってみると、これが書けるのだ。おお、書ける書ける。書けるじゃないか私! イケナイ薬物を使っている人みたいなもので、その一方で何か大きな代償を払っているような気がしないでもない「日程ドーピング」だが、「書ける」は私にとって何よりも大事なこと。書けなくなって倒れるぐらいなら、書きながら倒れる道を私は選ぶ。やあ、なんかカッコイイな。意味よくわかんないけど、気にしないで行け行けー。







1. To A Child...(Gil's Song)
2. The Right To Vote
3. A Wilderness
4. Melody In The Sky
5. Late For Love
6. A Free Thinker
7. Man In The Moon
8. Talk To A Green Tree
9. Trees Of The Ages
10. The Brighter Song
11. Roadnotes
12. Sophia
13. Mother's Spiritual
14. Refrain

平成十九年六月八日(金)午後四時二十分
BGM : Mother's Spiritual / Laura Nyro

 毎日のように顔を合わせていたはずの同僚が死ぬのも食い止められなかった人たちが閣議決定した「自殺総合対策大綱」では、05年の自殺率を16年までに20パーセント以上減らすことを目指しているそうだ。そんな数値目標にどんな根拠や意味があるのか、さっぱりわからない。80パーセントでも50パーセントでもなく、20パーセント。その数字が達成できたら、それは政府の「グッジョブ」ってことになるわけ? それぐらいなら「適正水準」だからボクたち政府の責任じゃないもんね、か? 自殺率が20パーセント減ったら、死んだ人間が20パーセントだけ戻ってくんのかよ。ふざけんなよ。まあ、いちゃもんですけども。

 それにしても、4歳児に七味唐辛子を飲ませて窒息死させたと疑われている倉敷市の母親だとか(なんでそんなこと思いつくんだろう)、ブラウスにスカートという女装で住居侵入した挙げ句に逮捕されたら心肺停止状態になって治療を受けている福岡市の男だとか(そこに何か因果関係はあるのか)、生徒が教室で撮影した「いじめ動画」をネットに流出させた行為も「いじめ」にあたると判断しているというさいたま市の私立高校とか(いじめにあたるからイカン、ということ?)、ニュースサイトを眺めていると意味のよくわからないことばっかり起きていて目眩がする。どれも、事件の本質とはズレたところに目が向いてしまうというか、いったいどっちが本質なのかわからないというか、おまえら自分が何をやったり言ったりしてるのかわかってんのかよ、と言いたくなるというか、要するに、いろいろと間抜けなことになっているのだな世の中は。

 間抜けといえば私も相当なものだと思ったのは、ローラ・ニーロのアルバムを買ったときのことだ。世間的にはおよそどうでもいいことだが、「ローラ・ニーロ集め」に血道を上げる者にとって、『Nested』と『Mother's Spiritual』の2タイトルは最後の関門である。いくつかある彼女の廃盤のなかでも、この2枚はとびきり入手が難しい。中古市場にはほとんど流通していないようで、あったとしても価格は1〜2万円。であるからして、その両方を神戸の中古店がいずれも1200円(!)でネット販売しているのを発見した私がソッコーで注文したのは当然である。で、それは無事に届いた。だから、昨日も今日もそれをBGMにしている。ただし、これはどちらもCDではない。「やけに厳重な梱包だな」と思いながら包みを開け、その中から大きなジャケットが顔を出したときは本当に驚いたよなぁ。人間の思い込みとはおそろしいもので、どう見たって梱包そのものがLPサイズであったにもかかわらず、まったくそれを想定していなかった私は、中身を取り出すその瞬間までそれがCDだと信じて疑わなかったのだった。いや、正直に言おう。包みのなかから出てきたそれを手にしたとき、私はほんの一瞬だけ、「でっかいCDだなぁ」と思った。自分で自分が信じられない。すさまじい間抜けっぷりである。しかし、なるほど、それで安いのね。中古LPより中古CDのほうが10倍も高いというのも何か妙なことになっているような気がしなくもないし、せっかくCD化したのに廃盤にするなよとも思うが、まあ、どちらも本当にすばらしい音楽が詰まっているので、CDだろうがLPだろうがどっちだっていいんだけどさ。でもCDもほしいのが人情。







1. Mr. Blue
2. Rhythm & Blues
3. My Innocence
4. Crazy Love
5. American Dreamer
6. Springblown
7. The Sweet Sky
8. Light
9. Child In A Universe
10. The Nest

平成十九年六月七日(木)午後二時五十分
BGM : Nested / Laura Nyro

 セガレの歯が、ぜんぶ、乳歯から永久歯に生え替わっていた。歯医者でそう言われたらしい。最後の乳歯が抜けたのがいつなのか知らない(最初の乳歯が生えたのがいつなのかも忘れてしまった)が、10歳になるとはそういうことなのだな。ヒトはたかがそんなことに10年もかかる生き物なのだ。なにしろ人類は寿命の30%を成長のために費やすという。なんで成熟するまでそんなに時間をかけなければいけないのかよくわからないが、自分たちの体に、かなりノンビリしたカレンダーが組み込まれていることは、覚えておいていいかもしれない。

 でも、私たちの脳はあんまりノンビリと物事を考えるようにはできていなかったりもする。真にノンビリするには頭を使うことをやめるしかないのかもしれない。ヒトがノンビリと成長するのはたぶん脳にいろんなことを学習させるためなのだろうから、皮肉といえば皮肉な話だ。警察庁の発表では、昨年も国内の自殺者は3万人を超えた。15分か20分にひとり、自ら命を絶っている計算だ。と、書きながら、そんな計算に何の意味があるのかと私は私を詰っている。人の死を統計上の数値として扱って何の役に立つのか今の私にはよくわからない。わかりたくもない。

 いや、やめよう。少しは愉快なことも書こうと思って、セガレの歯の話をしたんだった。ローラ・ニーロも、妊娠中に録音したというこの『Nested』と題したアルバムのなかで、これから生まれてくる命を讃えている。たぶんそうだと思う。生まれて、歯が生えて、歯が生え替わって、ほかにもイロイロなものが生えて、イロイロなことを学習して、ヒトは大人になってゆく。そういえばセガレは今日から学習塾に行くらしい。10歳になるとはそういうことでもある。「乳歯」がなくなったとたんに「入試」を意識した人生になるということだろうか。洒落として、少しも面白くない。……やめよう。







1. Sweet Blindness
2. Wedding Bell Blues
3. And When I Die
4. Blowin' Away
5. Eli's Comin'
6. Goodbye Joe
7. Stoney End
8. It's Gonna Take a Miracle
9. Stoned Soul Picnic
10. Lu
11. Save the Country
12. When I Was a Freeport and
You Were the Main Drag
13. Blackpatch
14. Time and Love
15. Sexy Mama
16. Up on the Roof

平成十九年六月五日(火)午後一時五十五分
BGM : Time And Love / Laura Nyro

 日曜の晩は三鷹の井口院で、前回の日誌に書いた後輩女性の通夜。遺影には、いかにもテキパキと仕事をこなしそうな(彼女は損保会社に勤務していた)貫禄さえ感じさせるキャリアウーマンが写っており、たしかにこれはトロだけど私の知っているトロとは少し違うというか、なにか不思議な気持ちになった。高校時代の仲間は、30人ぐらい集まっていただろうか。当然、大半がウン十年ぶりの再会である。焼香を終えてから三鷹駅前の居酒屋で会食となった。喪服姿の同窓会は、「かなしい」と「なつかしい」を含むさまざまな感情がぐちゃぐちゃにブレンドされた複雑な空間だ。でも、みんな、素直に泣きながら、素直に笑ってもいた。それでいいのだろう。私も、自分が死んだときには、あんなふうに泣いたり笑ったりしてもらいたいと思う。まあ、自分で「泣いてくれ」というのは図々しいから、笑うだけでもいいけど。嗤う奴さえいなければいいや。私のことはともかく、居酒屋の座敷には昔からコンパ好きだったトロがたしかにいたし、彼女もみんなと一緒に泣いたり笑ったりしていた。ちくしょう。もう、トロのことをからかって遊ぶことができないかと思うと、口惜しくてしょうがねえよ。

 居酒屋を出て、残った10人ほどの仲間と共にひなびたバーで深夜12時半まで飲む。トロのことや、自分のことや、仲間たちのことや、仕事のことや、世の中のことについて語りながら、みんなが少しずつ何かに腹を立てていた。何かに対して腹が立つのは、その何かについて諦めていないからだ、という気がした。タクシーで帰宅後、2時間ほど茶の間のソファで横になり、眠れないまま起き出して食卓の上にMacと資料を広げ、通夜までに書き終えることができなかった原稿に取りかかる。やがて階下で目覚まし時計の鳴る音が聞こえ、月曜の朝になった。妻子が起きてきて、いつもと変わり映えのしない、しかしかけがえのない日常が始まる。そういう日常が自分にあったことを急に思い出したような、妙な感覚があった。人はひとりで生きて、ひとりで死んでいく。生も死も誰かと共有することはできない。棺のなかで眠っているトロの顔を見てそんなことを考えたが、でも生活は共有できるんだよな、なんて思いながら原稿を書き続けた。フラフラになりながら昼前に脱稿。眠る暇もなく、午後からは日本橋方面で取材。日曜から月曜にかけて、2日間で5日分ぐらい生きたような気がする。いろいろな意味でぼーっとしている火曜日。







1. American Dove
2. Medley: Ain't Nothing Like the Real Thing
/You Make Me Feel Like
3. Spanish Harlem
4. I Am the Blues
5. Medley: Walk on By
/Dancing in the Street
6. Emmie
7. Map to the Treasure
8. Christmas in My Soul
9. Save the Country
10. Medley: Timer
/O-O-H Child
/Up on the Roof
11. Medley: Lu/Flim Flam Man
12. Mother Earth

平成十九年六月一日(金)午後十二時四十五分
BGM : Spread Your Wings And Fly / Laura Nyro

 絶不調である。脳内にブレーキがかかりっぱなしのような感じで、原稿がまるではかどらない。水曜日から木曜日にかけて、たった3ページ(4000字)のSAPIOの原稿で完徹してしまったのだからどうかしている。そのため昨日の木曜は使い物にならず、今朝も10時すぎまで惰眠を貪ってしまい、ダメ人間な自分に鬱々としているところに、仕事場のマンション管理組合の理事長から副理事長である私に電話があった。長く空いていた1階の貸店舗に葬儀業者が入りそうなので反対したいという。なんでこの忙しいときに厄介な話ばかり発生するのだ。この界隈はなぜか葬儀業者が多く、そこに入ろうとしている業者は近所にも営業所のようなものがあり、そこには<「はふりの会」会員募集中>といった一見ギョッとするような貼り紙(だって「屠りの会」だ)もあったりするので、まあ、反対したくなるのも無理はないし私も積極的に賛成したくはないけれど、しかし人はみんな死ぬのだし、その世話をする会社を「マンションの不動産価値が下がる」などという理由で忌み嫌うのもいかがなものかと思うよなぁ……などと鬱々とした気分に輪をかけながら出勤してメールをチェックしたら、高校の吹奏楽部で1学年下だった後輩の女の子(という年齢ではないが)の突然の死を告げる訃報が届いていたのだから、一体どうなっているのかと思う。

 みんなに「トロ」という愛称で呼ばれている女の子だった。喋り方がおっとりしているからだ。でも、トロはそのトロい感じでいつも場をなごませていた。だから、みんなトロのことが好きだったし、私もトロのことが好きだった。そしてトロもみんなのことが好きだったと思う。みんなのことが好きでいられる人間はそう多くない。「気だてのよい女の子」とは、トロのような子のことをいうのだろう。小さな体で一生懸命にバリトンサックスを吹いていた。愛称とは裏腹に、堅実な演奏でバンドの低音部をしっかりと支えていた。彼女が人前で落ち込んだり機嫌を損ねたり怒ったりしているところを見たことがない。いつも穏やかな微笑みを浮かべ、いつも目を生き生きと輝かせていた。とても楽観的な人だったという印象がある。彼女と最後に会ったのは、あれはまだ20世紀だったか21世紀に入ったばかりの頃だったか記憶があやふやだが、小金井公園に吹奏楽部のOB・OGが集まって花見をしたときだ。

私「で、おまえ、シアワセにはなったのか」
トロ「やだもうセンパ〜イ、どうせまだ独身ですよぅ」
私「そんなこと訊いてないだろ。結婚してようがしてまいが、いまシアワセに暮らしているのかと訊いている」
トロ「まあ、楽しくやってますよぉ〜」
私「そうか。それはよかった」
トロ「で、そういうセンパイは?」
私「おれは結婚してるからね」
トロ「もぅ〜(笑)」

 そんな他愛ない会話だった。届いた訃報によれば、今年はじめ頃に体調を崩したトロは、仕事を休んで実家に戻り、その後、入院していたらしい。そして一昨日、42年間の人生を終えた。かなしいよ。トロみたいな人が早く死ぬのは、とてもかなしい。高校時代、彼女は三鷹、私は武蔵小金井に住んでいたので、練習後、高校のある立川から中央線で一緒に帰ることも多かった。彼女はいつも武蔵小金井で先に降りる私に「センパ〜イ、さようならぁ〜」と間延びした挨拶をしながらひらひらと手を振ってくれたが、こんどは彼女のほうが先に降りてしまった。さようなら、トロ。これから、あの頃のことを全力で思い出してみるよ。



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