愛と幻想のフットボール
2002 FIFA WORLD CUP Korea/Japan special #02.

朝、夜。
fantastic sunrise and realistic sunset with 64 football games.

text by EDOGAWA koshiro
e-mail : h_okada@kt.rim.or.jp

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6月9日(日)大会第10日

●南アフリカ×スロベニア(Group B)
 ズラトコ君がトンズラ、カタネツ監督も退席で、欧州の隠し玉はここで自滅。とくに収穫もなく、国際舞台からはしばらく消えちゃうかもなぁ。

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●イタリア×クロアチア(Group G)
 前半は、単なるセリエA。ボローニャ×ベネチア戦レベルの睡眠薬。マラドーナは入国させてかまわないが、このクスリは輸入拒否すべきだった。ちょうど観戦モチベーションが中だるみを迎えた時期に、このカードはツラい。だが、しかし。ネスタが負傷退場でマテラッツィが入ってからは、一転して見所満載のバラエティ番組に。イタリアは伝統的に守備が強いわけではなく、要はネスタとカンナバーロが強いだけだったことが露呈してしまった。ビエリの「それ、どうやったら入んの?」的なヘディングシュートで先制したイタリアが無難に勝つかと思いきや、オリッチとラパイッチがゆるゆるのカテナチオを粉砕して1-2。トッティのFKもポストを叩いて、アズーリがまさかのネロ星である。正直に告白しますが、私たち夫婦はトッティが蹴るとき、「そんな同点ゴールを見るぐらいならイタリアが負けたほうがマシ」と話し合ってました。サッカーファンとしては、新星オリッチを発見したことが大収穫。脱いだシャツを着られなくなってうろたえている姿が、とってもチャーミングだった。しかも「どうやって着るの?」とスタッフに相談しているうちに、味方が決定機。シャツを着る方法さえ知ってれば、もう1点ゲットできただろうにねぇ。着られないものを脱いではいけません。正月の晴れ着みたいだ。

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●ブラジル×中国(Group C)
 未完のサッカー大国は、やはり未完だった。ロベカルのFKが決まるのを見たのは何年ぶりだろうか。もう入ることはないと思っていたのだが。いかんせん、カベが一枚足りませーん。4-0で撃沈。しかし中国、2102年のW杯ではサッカー界における立場がブラジルと逆転しているかもしれない。ブラジルのほうは、ダークホースとしての気楽さが良い方向に出ている感じか。でも、ちょいとサッカーが雑になっている印象。え? 雑なのはワカメ男の顔だけだって? なんてヒドイこと言うんだろう。



6月8日(土)大会第9日

●スウェーデン×ナイジェリア(Group F)
 アガホワのバク転が見られて満足。できることなら、全員とは言わないまでも、3〜4人でやって欲しかったが。それとも、他にやってる奴がいたのかな。こんど、タクティカル映像の再放送で確認してみよう。まったく異なるタイプのサッカーが激しく攻守を入れ替える愉快な試合だった。かたや無法者、かたや約束事の塊。同じ競技なのに異種格闘技戦が見られるのが、ワールドカップの醍醐味であろう。ラーションの2ゴールで、2-1。いまのところ、もっともチームとしての成熟を感じさせるのはスウェーデンではないか。

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●スペイン×パラグアイ(Group B)
 満を持してのチラベルト登場。しかし満を持しすぎたのか、明らかに体重オーバーである。FKではさすがの威力を見せつけていたが、肝心のゴールキーピングが緩慢。クロスに飛び出したら石にかじりついてもボールに触るのがGKの基本です。私に言われたかないだろうけどさ。うっす。僭越っす。でも、できてなかったっす。プジョールの自滅点でパラグアイが先制したが、もはやスペインに浮き足だったところは見られない。モリエンテス投入の一手だけで、あっさり逆転。3-1。なんて盤石なんだ。強豪国が軒並みバタついている中で、こっそり快進撃。ついにキたのかスペイン。強いて弱点を挙げるなら、カシージャスの不安定な飛び出しと、カマーチョの脇の下だけと見た。その汗、こっちに見せるなよな。

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●アルゼンチン×イングランド(Group F)
 因縁だ復讐だ汚名返上だ何だかんだといっても、たかだか1次リーグの試合である。こんなところでムキになってはいられない。それがアルゼンチンの意識だったと思う。シメオネにとっては、フランスでの事件なんか単なる日常の延長で、記憶の片隅に引っかかっていたぐらいのものだったに違いない。しかしベッカムのほうは、いまだに4年前に始まったストーリーの中で主役を張っていた。大スター特有のナルシシズムである。それを嗤うつもりは毛頭ない。そのナルシシズムの威力を過小評価していたのが、アルゼンチンの敗因だったような気がする。シメオネは友好的でありすぎた。ここで勝ち点をもぎ取るためには、試合前に握手をしながらベッカムの左足中指を踏むぐらいのことをすべきだったのだ。だがシメオネは、陳腐な物語に参加することを拒絶した。すでに、悪役を演じることに飽いていた。神の手も5人抜きも伝説も遺恨も忘れて、まったく新しいリアルで硬派なドキュメンタリーを作りたかったのかもしれない。しかし、セカイはまだウェットなヒューマン・ストーリーを求めていたようだ。ベッカムのPK一発。母国のプライドを捨てたのか守ったのかよくわからないが、体を張った総力ディフェンスで0-1。わかりやすい。わかりやすすぎて、私は機嫌が悪い。W杯でハリウッド映画なんか見たくない。とはいえ、機嫌が悪い本当の理由は別にある。後半途中からテレビの音を消して見たので、この試合の迫力を十分に味わえなかったのだ。音を消した理由は、いちいち説明したくない。地上波(金田さんの解説)で見ればよかった、と死ぬほど後悔した。サッカー中継は、解説者の蘊蓄を傾聴する番組ではない。



6月7日(金)大会第8日

 G先輩のHPを見て思い出した。そうだ。朝日新聞朝刊1面・得意満面軽佻浮薄おためごかしスッパ抜き問題だ。深川は「あの記者の著書が新聞広告で俺の隣にあって不愉快だ」と例によってワケのワカラナイ憤り方をしていたが、そんなことは別にして、とてもカンジの悪い記事だった。情報源不明、本人コメントなしの伝聞記事には、大会オフィシャルスポンサーとしての品格ってモンがない。「トルシエ更迭、ベンゲル就任」のあの大誤報をもう忘れたのか? 「決意は堅い」のその一文で、彼らは客観報道という看板をドブに捨てた。その決意の堅さをおまえが自分で確かめたのかよ忠鉢信一。人間の決意が堅いってどういうことか具体的に50字以内で説明しろよ。報道の自由だか何だか知らぬが、行間に透けて見えるスケベ根性が下劣である。何が流れを変えるかわからないW杯の、そのデリケートさを微塵も感じていない鈍感さがイヤだ。国民あげての大勝負を、中田個人の人情話に貶めてどうする。だいたい、鈴木や柳沢だって懸命にDFラインのウラを取ろうとしているのだ。おまえらもウラを取らんかウラを。もっとも、仮に完全にウラを取った真実だとしても、この時期に書く意味も必要もないと私は思います。こうなったら中田には、意地でもドイツ大会アジア予選に出場し、朝日を誤報のどん底に突き落としていただきたい。

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 ベルギー戦を境に、セガレの観戦モチベーションが高まっているようだ。3chの子供番組が終わると、「わーるどかっぷ見ようよー。盛り上がろうよー」とせがむ。サッカーが面白いというより、コーフンしている両親を見るのが楽しいのである。そう言われても、デンマーク×セネガル戦ではそんなに盛り上がれません。きのうは、「見に行くとき(※サウジ×アイルランド戦のこと)、とうさん、顔に色塗っていけば?」とも言われた。うーん。迷っちゃうなぁ。せっかくだから、アイルランド国旗でも描いて行くかなぁ。ハーフタイムにテレビに映れるかもしれないしなぁ。いや、フェイス・ペインティングだけじゃ足りんか。あのサッカーボール型の帽子はどこで売っているんだろう。あと、ヤキソバ食べないとな。カメラで抜かれる日本人の4割はヤキソバ食ってるからな。ヤキソバだけアップにされた人は気の毒だった。いや、あれは冷やし中華だったっけ。

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●デンマーク×セネガル(Group A)
 昨夜10時からビデオ観戦。すでに印象が薄れている。なぜなら、きのうは寝不足で、半分居眠りしながら見ていたからである。どう考えても不必要なセネガルの体当たりでデンマークにPK。トマソンが決めて1-0。セネガルの同点ゴールは、誰がどうやって入れたのか覚えていない。1-1のドロー。トマソン、計3ゴールかー。ふうん。

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●カメルーン×サウジアラビア(Group E)
 今朝9時半からビデオ観戦。サウジはアルジャバー欠場でアルドサリが先発。だが、そのアルドサリが故障でアルハッサン・アルヤミが途中出場。アルハッサン・アルヤミは、ヒゲを生やしたら18番のアル何とかと同じ顔になるような気がした。あー、悔しい。18番の名前だけ思い出せない。あれ、ヒゲ生やしてるほうがアルヤミだっけ。違った? そんなことはともかく、サウジは一生懸命やっていた。カメルーン・ゴールを何度も脅かしていた。でも、ダメだった。66分、ソングからのロングパスを受けたエトオのゴールで1-0。上半身ハダカで抱きついたエトオの耳元で、カメルーンの監督が「あと8点取って来い」と囁いているように見えた。でも、取れなかった。カメルーンはドイツに勝つしかなくなった。見物である。でも、そのとき私は横浜国際にいるので見られないのだった。

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●フランス×ウルグアイ(Group A)
 今朝11時半からビデオ観戦。負けたほうがオサラバのデスマッチである。レコバのシュートを止めたバルテズの右足。ルブーフの故障。ポストをかすめたプティのFK。そしてアンリの一発レッド。前半0-0。どうするフランス。どうなるフランス。ハーフタイムに、プラティニとエメ・ジャケが客席で何事か話し合っていた。アンリのレッドをどうやって取り消させるか相談していたのかもしれない。それとも、3戦目はどっちが監督をやるかジャンケンで決めてたのかな。さて後半。ウルグアイのほうも、相手が10人になってどうしたもんかわからんようになっていたような気もしたが、とにかくどちらも攻めた守った踏ん張った。直径50センチの土俵の上で、ちらちら後ろを振り返りながら突っ張り合ってるような攻防。大会初スコアレスドローで、結論は先送りである。どちらもまだ一応は立っているが、実は「共倒れ」なのかも。ともあれ、ややこしいことになったものだ。えーと、今のところ得失点差はデンマークとセネガルが+1、フランスとウルグアイが−1ですか。フランスとウルグアイが1点差で勝つと、みんな勝ち点4、得失点差ゼロ? 最初っからやり直してくれんかのう。



6月6日(木)大会第7日

 イタリア戦の翌日に幼稚園の庭で交わされた、W夫人と愚妻の会話。

W夫人「あ〜、イタリア旅行なんかしたら、コーフンしちゃうかもぉ」
愚 妻「選手だと、どのタイプが好きなの?」
W夫人「トッティ」
愚 妻「…………」

 ちなみにW夫人、旦那さんに「ビエリなんか、どうよ」と問われて、「え〜、未確認生命体みたいで怖〜い」と答えたそうな。未確認生命体というのは、仮面ライダークウガに出てきた怪人たちの総称である。質問も質問だが、答えも答えだ。こんな会話が日本中のご家庭で交わされているかと思うと、妙にうれしい。ザンブロッタなんか、どうよ。え〜、ダダみたいで怖〜い。

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●ポルトガル×アメリカ(Group D)

 デカくて頑丈な三角定規と薄っぺらな雲形定規が戦っているような試合。ザビエルはいないわ、GKバイアーは不調時のヨシカツそっくりのドタバタぶりだわ、ジョルジュ・コスタはなぜか最初からバテバテだわで、あれよあれよという間に雲形定規が怒濤の3失点である。外国でカルチャーの違いに戸惑ってキョロキョロしているうちに、ふと気づくと置き引きされてたって感じでしょうか。しばらくW杯から遠ざかってた国の哀しさなのかなぁ。旅慣れてない感じ。「盗られた」と気づいてから必死で追いかけたものの、犯人の逃げ足は速かった。まさかの2-3。4年前にスペインが感染した「やってもうた菌」は、イベリア半島内に伝染していたのか。一方の白い三角定規チームは、バレーボールやらせても強そうだ。どういうことか、よくわかりませんが。星条旗おそるべし。ヒーロー願望おそるべし。どうでもいいが、米国のGKは「でっかいシメオネ」だった。

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●ドイツ×アイルランド(Group E)

 2巡目に入ってやっと有名な審判(ニールセンさん)が登場してくれたお陰で、引き締まった試合になった印象。またクローゼが頭で先制ゴールを奪い、偉業達成に向けて大きく前進したものの、さすがにアイルランドはサウジとは違う。カーンの美技と尻に阻まれながらも、しぶとく戦い続けた。そして終盤、パワープレイ用の特殊兵器クインを投入。放り込む、クインが落とす、誰かが走り込む、放り込む、クインが落とす、誰かが走り込む……をくり返した挙げ句、とうとう塗り壁カーンに穴が空く。継続は力なり。ポタポタ落ちる水滴が百年かけて地面に穴を空けるようなもんだわな。ロスタイム、アナザー・キーンの同点ゴール。うおっしゃあ。よくやったっ。私はワールドカップが好きだっ。ざまあ見ろ、である。これが欧州2組を無敗で突破した国の底力だ。ま、ポルトガルもそうなんですけどね。ともあれ、サウジ×アイルランドを見に行く私にとっては、願ったり叶ったりの展開である。応援しまっせ、アイルランド。

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●ロシア×チュニジア(Group H)

 録画してなかったので、深夜に後半からスカパーのタクティカル映像でちらほら観戦。ゴール裏の高い位置からフィールドを広く映す試みである。それなりに面白いのだが、カメラワークが下手。よく知らないが、たぶんHBSとは無関係なオリジナル映像なんだろう。の〜んびり左右にパーンしやがっていて、ボールに追いついていない。おまけに、「広く映す」が目的であるにもかかわらず逆サイドが映っていなくて実に中途半端である。どうせなら、固定カメラでずーっとフィールド全体を映してればいいのにね。いずれにしろ、この映像だけで見るのは無理。ロシアが2点入れたこと以外にわかったのは、ロシアが白、チュニジアが赤を着ていたことだけだった。モストボイが温存されていたことも、今朝の新聞を見るまで知りませんでした。


語る人シリーズ#04



1面で扱うよ。
米国人はサッカーを好まないが
勝者は好きだ。

ベクシー記者(ニューヨーク・タイムズ紙)


 今朝のスポニチから。もちろん、ポルトガル戦の勝利を「1面で扱う」と言っている。なるほど、と唸るしかない。アメリカン・ドリームの真髄。いわゆる一つの勝利フェチ。きっと、誰も知らなかった化学者が、ノーベル賞を受賞したときみたいな感じなんでしょうね。何だかわからんがエライ! まあ、私たちだって、オギワラが勝つまではノルディック複合なんて興味なかったわけだけど。いまだに、なんでジャンプと距離を一緒にやるのか理解できないです。1面で扱うのはいいが、ポルトガルがどれくらい強いかを米国人に理解させるのに骨が折れそうだ。アイスホッケーとかに譬えるのかな。また例のソ連戦を引き合いに出したり何かして。そんな国情なのに毎度W杯に出てくるアメリカは、やはり侮れない。




6月5日(水)大会第6日

●日本×ベルギー(Group H)

父「いいか、この赤いのがベルギーだ。ニッポンの敵だ」
子「敵って、怪人とか怪獣とか?」
父「そうだ。怪人ベルギーだ。この怪人はけっこう強いから、俺たちは一生懸命、仮面ライダー・ニッポンを応援しなきゃいけない」
子「うん、わかった」
父「応援の仕方は、ニッポンちゃちゃちゃ、だ。父さんがちゃちゃちゃをやるから、ニッポンって言ってみろ」
子「ニッポン!」
父「(手拍子)ちゃちゃちゃ」
子「ニッポン!」
父「(手拍子)ちゃちゃちゃ」
子「ベルギー!」
父「…………」
子「ベルギー!」
父「バカっ。ベルギーは絶対に応援しちゃいかん!」
子「…………(半ベソ)」

 ……などとセガレにサッカー観戦の作法を教えながら、熱烈ライブ観戦。ふだんは(Jリーグもあんまり見てないし)さほど熱心な代表ウォッチャーとは言えない私だが、いざ始まると、ニッポン人の血がたぎるのであった。満場の日の丸と君が代に、魂が揺さぶられる思い。これが日本だ私の国だ。雲に隠れた小さな国だ。遠い世界に旅に出ようか。旅に出てどうする。W杯は日本でやっているのだ。遠くて近い世界なのだ。近くて遠いのかもしれんが、近いと信じるのだ。いま信じないで、いつ信じるというのだ。夜明けは近い。友よ。君の行く道は果てしなく遠い。だのに何故、70年代フォークな気分になっているんだ私は。

 GKは飢えた狼ではなく楢崎だった。どうやらYCP(ヨシカツ・コンディショニング・プロジェクト)の連中は、ロシア戦が勝負と踏んでいるらしい。ここは楢崎でしのぎつつ、ヨシカツの飢餓感をさらに深めて2戦目に爆発させる作戦だ。悪くない。コンフェデのブラジル戦で都築を起用したのと同じパターンである。

 で、その楢崎が乾坤一擲のファインセーブで何者かの決定的なヘディングシュートを阻み、前半は0-0。緊張なのか、コンディションの問題なのか、われわれの代表はやや重く見えた。うー。頼むからクロスを入れさせないでくれ。いちいち心臓がフリーズする。

 後半(もはや何分かは覚えていない)、セットプレイからボールがあちこち飛び跳ねているうちに、ウィルモッツのオーバーヘッドでベルギーが先制。明らかにウィルモッツより後ろにいた奴(もはや誰だか覚えていない)が、オフサイドを主張して手を挙げていた。おまえが手ぇ挙げるな。そんなヒマがあったら、ウィルモッツにへばりつかんか。脱力。W杯4戦連続の後手である。なぜ、いつもいつも先制されるのぢゃ。日本中が、四年前のアルゼンチン戦とクロアチア戦を思い出して肩を落とした。

 だが、しかし。ここは日本だ私の国だ。われわれの代表は顔を上げて反撃に出た。小野の長いラストパス。鈴木が火の玉のように体を投げ出す。届いた。触った。入った。ゲットおおおおおおおおおおっ。倉敷さんのあんな絶叫を初めて聞いた。鈴木の顔。ニッポン人の顔。重圧に耐えて耐えて結果を出したとき、日本人はああいう顔をする。吠えながら泣きそうな顔をする。同点。私も吠えながら泣いた。アップになった鈴木の頭を「いい子、いい子」と撫でてやった。セガレが嬉しそうに笑った。

 稲本の逆転弾は、日本人が「個」のパワーで局面を打開できることを証明するものだった(大袈裟)。自らボールを奪い、自ら走り、自ら決着をつける。DFの前でやや左にターンしたあの微妙な走行角度を、私たちは永遠に忘れないだろう。柳沢の迅速な判断&パスの精度も見事だった。決めてくれええええええええっ。倉敷さんがあんなふうに選手にお願いするのを初めて聞いた。左足。いつもならクロスバーを大きく越えるはずのボールが、ゴールネットを揺らした。稲本の顔。やんちゃ坊主の顔。献身の照れ臭さを偽悪的な自己主張で隠そうとするとき、陽気な若者はああいう顔をする。微笑みながら泣きそうな顔をする。2-1。私も笑いながら泣いた。アップになった稲本の後頭部を、「いい子、いい子」と撫でてやった。妻とセガレと三人で抱き合った。「急に抱きつかないでよ」とセガレが言った。「いや、抱きつく」と私が言った。サッカーは抱きつくスポーツなのだ。いま抱きつかないで、いつ抱きつくというのだ。

 ベルギーの同点弾は、いつもヤラレていることをヤラレたものだった。2列目からの飛び出しを抑えられない。しかし、まあ、いつもヤラレていないことをヤラレるよりはダメージも少ないと考えよう。それに、わが方はいつも出来ないことが出来たのだ。間違いない。風は吹いている。だから鈴木の爪先も届いた。だから稲本のシュートも枠をとらえた。2-2のドロー。栄光の勝ち点1。いいファイトだった。辛口評論なんか(今は)聞きたくない。われわれの代表は、強敵・怪人ベルギーと正面から殴り合って倒れなかったのだ。W杯は、倒れないことが大事だ。立ってさえいれば、チャンスはある。キーマンは、もちろんヨシカツだ。史上初のW杯無失点試合という栄光が、腹ペコの狼を待っている。

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●韓国×ポーランド(Group D)
 アジアの虎、2-0の完勝で悲願の初勝利。さすがのシュート力。さすがのホン・ミョンボ。日韓Jリーグ・ユナイテッドを結成したら、ベスト4を狙えるんじゃないかとさえ思った。韓国は強い。ポーランドは弱い。欧州代表の名が泣く。来てはいけなかった。

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●中国×コスタリカ(Group C)
 今朝、ビデオ観戦。15時半キックオフの試合は、たいがい翌日の午前中に見ている。0-2でコスタリカ。2点目のセットプレイが面白かった。ニアに転がしたショートコーナーを素早い反転からノールックでゴール前に放り込み、走り込んだ選手がゲット。練習してなきゃ成功しないプレイだと思った。1戦目、1点リードの状況で使うサインプレイじゃないとも思ったけど。それとも、その場の判断なのかなぁ。だとしたら、コスタリカは侮れない。ダイナミックな中国サッカーは好きなので応援していたのだが、いま一つ迫力に欠けた印象。ボラの神通力もここまでか。



6月4日(火)大会第5日

●ブラジル×トルコ(Group C)
 昨夜9時半頃からビデオ観戦。セガレを寝かせてからゆっくり見る作戦なので、自国隣国開催にもかかわらず、わが家には時差があるのであった。序盤のブラジルはコパ・アメリカ99を思わせるようなスピード感だったが、初戦からそんなに飛ばしてどうする、という気も。頭にワカメを乗せたパリの田舎者が、ひっちゃきになって走り回っていた。が、シーマン似のトルコGKがヨシカツ@マイアミ並みの好セーブ連発で、ゴールを割れない。そうこうしているあいだに、トルコ先制。前半0-1。開幕戦に続く番狂わせかと思われたが、トルコはあんまり守り方を知らなかった。左サイドからリバウドが放ったクセ球クロスを、ロナウドがライダーキックで叩き込んで1-1。終盤のPKで2-1。トルコは2人退場で、そういやそーゆー弱点があったよなと再認識させられました。ハカン・シュクールは、どこで何やってたんでしょうか。ところでルシオは、ちょっと長谷川健太に似ている。

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●イタリア×エクアドル(Group G)
 デルピッポがベンチスタート(デルピは途中出場)で、スタメンのイケメン度の低いイタリアではあった。アズーリマニアの奥様方が、後半途中から出てきた原始人を見て「こんなはずじゃ……」とアワ吹いて倒れてないか心配だ。あ、それとも、あんがいセクシーだったりするんですか。ガットゥーゾ。トンマージあたりはどうなんだろう。意外にカルトな人気があったりすんのかな。今夜はアナタに密着プレス。いや〜ん、汗臭そ〜。めくるめく官能のチェントロカンピスタだ。そんで試合のほうは、ビエリの2発で2-0。札幌が「ゴール量産ドーム」として世界に名を馳せるようになる可能性もあったが、やはりそこはイタリア、余計な点は取らないのである。ゲルマンの連中みてえなデリカシーの無ぇ真似してられるかってんだ。べらんめぇ。「トッティが1ゴールも取らずにイタリアが勝ち進む」が江戸川家の希望なので、良い試合でした。つまんなかったけどね。つまんないことが面白いのがイタリアである。でも、マダムたちはサッカーが嫌いになったかも。いや〜ん、もっと攻めてぇ〜ん。パスは来ないわ、ボール持って敵に囲まれればフォローして貰えないわで孤立無援だったドニも、サッカーが嫌いになったかもしれない。

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●クロアチア×メキシコ(Group G)
 ついにW杯でダボスー&ぼくチッチの2トップが実現だ。老けちゃったよなぁ、スーケル。プロシネツキも、ちょっと走らせるのが気の毒になるぐらいの感じだった。休み休みの欧州予選は何とかなったかもしれないが、短期集中の本番を乗り切るには平均年齢高すぎかも。プロシネツキに代えてラパイッチを入れた途端にチームが活気づいたのが、とてもわかりやすくて微笑ましかった。がんばれラパイッチ。でも、ブランコのPK一発で0-1。メキシコは弱いと聞いていたが、あんまり弱くなかった。ブランコはカニ挟みをやったらしいが、テレビではよく見えなくて残念だった。クロアチアはPKを与えたプレイで一人退場。韓国(ブラジル×トルコ戦)と中国の主審で計3人退場させたことになる。ロイ・キーンが出場していたら、上川さんもその仲間に加わったかもしれない。ヘンに目立ってますな、東アジア。で、今日はその「東アジアの日」だ。がんばれ漢字。

*

 漢字といえば、台湾のmanamiさんが、現地メディアにおける選手名の漢字表記を少し教えてくれました。どうもありがとうございました。

バティストゥータ=巴提斯図塔
シメオネ=西蒙尼
シーマン=西曼
ベッカム=貝克漢

 ……ってな具合だそうです。シメオネに「尼」の字が入ってるのが味わい深いっすね。ベッカムは納得がいかない。日本人には「カイカツカン」としか読めません。しかしこれ、メディアごとに違ったりしそうだなぁ。カタカナの表記統一より何倍も厄介なんじゃないだろうか。カタカナのある国に生まれてヨカッタ。もしカタカナがなかったら、私はこの日誌を書いていないかもしれない。「そのほうがヨカッタんじゃない?」って言うな。


語る人シリーズ#03



手堅い采配ですね〜。
ガットゥーゾとディ・リービオで、
ガディガディですね。

ジャンルカトト富樫(テレビ解説者)


 やっちゃいました。ジャンルカさん。2点リードで守備的な選手交代を続けたトラパットーニを評してのおやじギャグだ。ガットゥーゾの「ガ」とディ・リービオの「ディ」で「ガディガディ(ガチガチ)」。説明すると、ものすごく寒い。説明しなくても寒いけど。さすがにワールドカップでは封印するかと思っていたが、あれはもう「癖」なんでしょうね。死ぬまで治りそうもない。だから誰にも止められない。西岡さんとしても、何事もなかったように流すしかない。などと言いながら、ツボにハマってバカウケしてしまった自分が哀しい。




6月3日(月)大会第4日

●パラグアイ×南アフリカ(Group B)
 セガレを幼稚園に送り届けるやいなや、自宅に引き返してビデオ観戦。「2-0は怖い」を他の30ヶ国に改めて思い知らせるような試合だった。サンタ・クルスのロケット・ヘッドと何者かの華麗なFKでパラグアイが2-0とするも、OGとPKで同点。これは辛い。失点後のチラベルトの表情が見たかった。HBSの作る映像は基本的にノー文句なのだが、あそこはスタンドの親分を抜かにゃあ。きっと、この試合のスタッフにスペイン人がいなかったんだろうな。サンタ・クルスは、韓国のギャル(死語)に大人気の様子。場内のモニターでアップになるたびに、キャーキャー黄色い声が飛んでいた。黄色い声の聞こえる史上初のワールドカップかも。ふつう、怒声にかき消されて聞こえないからねぇ。一方の日本では、アズーリがマダムの人気を一手に引き受けているようだ。さっき愚妻がセガレを幼稚園に迎えに行った際、ふだんサッカーを見ないお母さん方が、「今日は(家事を)全部8時までに終わらせなきゃ」などとキャーキャー言っていたらしい。自転車ですれ違いざまに、愚妻に向かって「今日イタリアだよね〜」と挨拶していったお母さんもいたとか。どこかギラギラしたものを感じる。めくるめく官能のカテナチオ。今夜はアナタをインザーギ。何のこっちゃ。

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●ドイツ×サウジアラビア(Group E)
 ドイツ空軍の情け容赦ない絨毯爆撃。サウジの人たちって、あんなにちっちゃかったっけ? なんちゅうか、カブトムシと蚊がケンカしてるような感じだった。カーンのクシャミ一発で、サウジ全員吹っ飛んでいきそう。ドイツもさー、あんなにちっちゃい人を3人で取り囲んじゃいけないよなー。あれはプレッシングではなく、威力業務妨害という。あるいはカツアゲと言ってもよい。なんて野蛮なんだろう。上半身でしかサッカーをしないことで有名なクローゼが、頭だけでハットトリック。先制点は、欧州予選のアルバニア戦でも見せた十八番の「土下座シュート」だった。クライファートだったら、絶対に左足のシザーズで撃ってる(そして枠を外している)高さだったと思う。過去、頭だけで得点王になった人っているんだろうか。クローゼには、前人未踏の偉業を目指してもらいたい。一方のヤンカーは、足でゲット。嬉しいのはわかるが、シャツ脱ぎするほどの場面じゃないと思いました。チームの4点目だからね。もう少し謙虚に喜んだほうが愛されると思うよ。愚妻はヤンカーの上半身を見て、「人体標本みたい」と呟いていた。どうしてそんなことを思いつくのか、よくわからない。最後までサウジのゴールを期待して声援&拍手を送り続けた札幌のみなさんが素敵だった。



6月2日(日)大会第3日

●ウルグアイ×デンマーク(Group E)
 きのう見られなかったので、午前中にセガレとトランプで神経衰弱をしながらビデオ観戦。なので、あまり印象が残っていない。えーと、たしかハーフタイムをはさんで1点ずつ取り合って、終盤にトマソンの2発目で1-2、だったよな。愚妻は、「レコバがあんなに出っ歯なはずがない。あれはレコバのそっくりさんだ」と言い張っていた。そっくりさんにしてはサッカーが上手すぎるような気もするが、なにしろウルグアイ人だからあれぐらいはやれるのかもしれない。グレンキアは今日も暗かった。神経衰弱はセガレの圧勝だった。引き続きドイツ戦を見たかったのだが、日曜日にずっと家で過ごすことは許されず、セガレを連れて近所の公園へ。生えている木々をコーンに見立ててドリブルの練習をしたら3分で息切れした。何のための練習なのか自分でもよくわからない。でも、ドリブルしたい気分。

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●アルゼンチン×ナイジェリア(Group F)
 セガレとシャワーを浴びて汗を流してから、ライブ観戦。知識としては頭に入っていたが、実際にアルゼンチンの控え選手たちがベンチに座っているのを見ると、やはり呆れ果ててアゴが外れそうになる。クレスポとアイマールとキリとグスタボ・ロペスとアルメイダ(とカニージャ)がベンチにいる(そしてサビオラがベンチにもいない)って、一体どういうことだ。見てるだけで糖尿病になりそうな高カロリーである。サウジにはとっとと帰ってもらって、第2クールからE組にアルゼンチンBチームを出場させてほしいぞ。決勝はアルゼンチンの紅白戦だ。で、試合のほうは、アルゼンチン盤石。タラタラやりつつ、バティの一発で1-0だ。予定どおりのローギア発進である。このチームに「死のグループ」などあり得ない。1点差でベーロンを引っ込めるなんてことが、他の国の監督にできるか? ま、他の国にはベーロンがいないから「できない」が正解ですけども。唯一の不安材料は、故障のアジャラに代わって急遽出場のプラセンテがプラセンテらしさを発揮していたことぐらいか。そこそこ無難にやってはいたが。持ち過ぎなのよキミは。オリセーのいないナイジェリアは、コショウのかかっていないカルボナーラみたいな感じ。

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●イングランド×スウェーデン(Group F)
 ビール飲んでメシ食ってからライブ観戦していたら、キャンベルの先制ゴールの後あたりから睡魔に襲われてしまい、夢の中で金子アナの「惜しい!」を聞いていた。前半終了後、マンションの管理組合の理事会に出席。うっかり、副理事長なんてものを引き受けてしまったのである。しかも、組合発足以来最大級のめちゃめちゃ厄介な案件があって、やたら理事会が開かれるのだ。ものすごくヤだ。要領を得ない理事長とやたらリクツっぽいサヨク系(?)おばさんの間に立って、テキトーに話をまとめる。10時頃に帰宅して、後半をビデオ観戦。同点ゴールは……誰だっけ。アレクサンデション? たしか、イングランドの最終ラインと中盤の間にできた広大なスペースから放たれた豪快なミドルだったと思うのだが、早くも試合を見過ぎて記憶が混濁しているので定かではない。とにかく1-1のドロー。イングランドが負けなかったのはシーマンのお陰。ベッカムが引っ込んだ後の母国は、ほんとうに非道いチームだった。何がしたいんだおまえら。ちゃんとしたオトナが一人もいない感じですね。やっぱイングランドの中山(シアラー)とイングランドの秋田(キーオン)を連れてくるべきだったのかも。「死のグループ」が聞いて呆れる。この組は、早くもアルゼンチン1位、スウェーデン2位で決定だ!……と、決定力のある私は決めつけるのだった。

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●スペイン×スロベニア(Group B)
 諸事情あって録画の時間帯調整がうまくいかず、前半20分頃からビデオ観戦。ず〜〜〜〜っとスロベニアが攻めていて、どうなることかと思った。湿度70%とかで、みんな汗だくで顔色が悪い。実力明瞭・結果不明瞭な「サッカー界のナイスネイチャ(古い)」だけに、また例の「やってもうた」が炸裂するのかと思いきや、今回のスペインはひと味違う。なぜならラウールが立派な青年に成長したからである。『続・青い体験』で兄嫁に弄ばれる少年のような面影は、もう微塵も無い。前半終了間際、ルイス・エンリケの強引なイグニッション突破から、こぼれ球をクールにゲット。後半2-1になってスペイン的には冷や汗モンだったが、主審にPKプレゼントしてもらって3-1である。無難無難。スロベニアのことは、よくわかりません。



6月1日(土)大会第2日

●アイルランド×カメルーン(Group E)
 もしかしたら今回のW杯は、「キャプテンシーの空洞化」が一つのキーワードになるかもしれないと思っている。ロイ・キーンが帰っちまったお陰で、本格派のキャプテンがGKのチラベルトとカーンぐらいしか見当たらない。GKじゃ、アタッカーのほうまで叱りに行けないからなぁ。べつに「キャプテンシー=叱る」だと思ってるわけじゃないですけど。しかしまあ、ウルサ型の中間管理職が左遷されたアイルランドは、クラス内のいじめを克服しつつ校内合唱コンクールの入賞を目指して一丸となった1年B組のようなまとまり具合。B組じゃなくてE組だけどよ。エトオとエムボマに振り回されて前半に先制されたものの、後半、「イプスウィッチタウンのトッティ」ことホランドがミドルを決めて1-1のドローに持ち込んだ。精神的支柱にはなれなくとも、プレイ面で彼がロイ・キーンの代打ちを立派にやってのけたのは大きい。カメルーンは、前半と後半の落差がデカすぎたような印象。ま、ドイツ戦に照準を合わせて肩慣らししてるようにも見えたけども。ところでカメルーンのゴール・パフォーマンスは、やはり例のアレだった。こうなったら、どの国も地面にユニを広げて、それぞれの民族舞踊を踊ってみてはどうか。スペインはフラメンコ、ロシアはコサック・ダンス、日本は……阿波踊り? しまった。藤本を呼んでおくべきだった。

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 試合終了後、井の頭線神泉駅近くのライブハウスで、「Apple Jam」のライブを観賞。大学時代の諸先輩方がやっているビートルズのコピーバンドである。K先輩が「マイク」という名で呼ばれているのが、とっても恥ずかしかった。でも演奏のほうは、たいへん愉快。ときに練習中に険悪になりながら真面目に取り組んでいるだけのことはある。どうやらベースのクリフさん(……)がキャプテン・キーン役を務めているらしい。1年B組とApple Jamと、どちらがより人を感動させる音楽を奏でられるだろうか。

 W杯を見たいので早く帰るつもりだったのだが、懐かしい面々と飲んでるうちに2時になっちまった。でも、ここ数年で3本の指に入る楽しい宴会。集まる機会を設けてくれた先輩方に感謝。飲んでる最中に、どこからともなく「ドイツが8-0で勝った」との一方が入る。はあ? どっかで野球の欧州選手権でもやってんのか? と思わないでもなかったが、やはりサッカーの話らしい。何やってんだサウジ。ちなみにタボン君とヤマちゃんは、宴の後、ドラムのY山さん&ギターのY沢さんと連れだって麻雀を打ちに行った。結果が気になる。報告しなさい。たぶんヤマちゃんの一人勝ちだと思うけどね。



5月31日(金)大会初日

●フランス×セネガル(Group A)
 自分の予想をバタバタと決めたり、人々の予想をまとめるのにエクセルと格闘したりしていたら、うやむやのうちにワールドカップが始まった。8時15分になっても呑気にステージで歌なんか歌ってるから、キックオフは9時ぐらいまで延びたのかと思ったが、ふと気づくとテュラムが例の大胆不敵な音程で「ラ・マルセイエーズ」を絶唱していたのである。しかし当然のことながら、東アジアで流れるフランス国歌には4年前のパンチ力がない。国歌の強力な後押しのないフランスは、どこか頼りなげに見えた。おまけに開幕戦の重圧。おまけにジダン不在。おまけに相手は大物食いで有名なブラック・アフリカ。おまけに旧植民地。おまけにジョルカエフ。フランスはキックオフからタイムアップまで、セネガルではなく「嫌な予感」を相手に戦っていたように見えた。アンリとトレセゲの決定力レベルが4年前に逆戻りしていたのも、その「嫌な予感」のせいだと思う。0-1。ずっと前から指摘されていたとおり、CBはやはりフランスの弱点であり続けるのでしょうか。ルブーフ→クリスタンバルという選択肢はなかったの? セネガルのゴール・パフォーマンスは、アフリカ選手権でマリがやっていた例のアレだった。地面に広げたユニのまわりで、へらへら踊り。どうやらアフリカ全土で流行っているようだ。あれが見られただけでも、たいへん満足のいく開幕戦だった。嬉しいなぁワールドカップ。



5月30日(木)大会前日

(前号のあらすじ/W杯の展開予想をしていた江戸川は、クールなH組分析の結果、日本の勝ち点が1つ足りないことに気づき、愕然としたのであった。しかし……)

 ……そうは言ってもベルギーは日本と引き分けたわけで、つまり日本と同等ということである。その日本がロシアに負けたのであれば、論理的必然としてベルギーもロシアに負けるのだった。だからベルギーも勝ち点4。得失点差の争いに持ち込めば、2連敗で帰り支度を始めているチュニジアとやれる日本が有利なことは言うまでもない。後藤さんもそんなことを言っていた。なので、H組2位はニッポンに決定。江戸川ってば、なんて決定力のある男なんだろう。

 しかしまあ、こうしてあれこれ予想をしていると、必ず「われわれは馬券を買っているのではない。自分を買っているのだ」という寺山修司の名言を思い出す。自分を信じる力と、自分を疑う力。自己愛と、メタ認知。この矛盾する二つのファクターをうまくコントロールできた者が、最後に笑うのかもしれない。そしてコントロールできなかった者は、最後に嗤われるのであった。だから、「決勝はアルゼンチン×スペインだ!」なんてことは無闇に口にしないほうがよい。「得点王はルイス・エンリケだ!」なんてことも、あまり人前では言わないほうがいいだろう。だいたい、予想なんかしなくたって、ワールドカップはちゃんと明日から始まる。始まってしまう。始まりやがる。心安らかに、キックオフを待とうではないか。沸騰悶絶七転八倒百花繚乱酒池肉林の死闘になるはずの、スペイン×ポルトガル(準々決勝)とフランス×アルゼンチン(準決勝)が、無事に実現することを祈りつつ。



  5月29日(水)大会2日前の夕方

 本日2度目の更新。さっきから、ずっと予想をしているのである。何の?って、バカなこと訊くんじゃありません。ワールドカップの展開予想だ。何のために?って、答えづらいこと訊くんじゃありません。予想が当たると良いことのあるイベントがあるのだ。だから予想してるのだ。

 しかし、いくら考えても結論が出ないのである。85%以上の確度(数字の根拠不明)で「こうなる」と言えそうなのは、

・フランスの決トナ進出
・スペインのB組1位
・ブラジルの決トナ進出
・ポルトガルのD組1位
・アルゼンチンの決トナ進出
・イタリアのG組1位
・チュニジアのH組4位

 ……くらいなものか。逆にとりわけ難解なのは、なんつったって(サウジを除く)E組と(チュニジアを除く)H組だ。どっちもヘンなグループだよなー。メリハリってもんがない。どうしてこんなことになったかといえば、オランダとチェコが負けたからである。嗚呼。今更そんなことで落ち込んでどうする。前を向け前を。

 E組は当初アイルランド1位突破と読んでいたのだが、キーンのお陰でややこしいことになりやがった。おまけにカメルーンに妙な追い風が吹いている。約束破って人気が高まるって一体どういうことだろう。人間、失敗した後のフォローが大事だってことですね。うんうん。そんなことに感心している場合ではない。ドイツはどうなんだ。1次敗退なんてことがあり得るんだろうか。実力的には十分あり得るけど、あってはならないことのような気もする。が、あり得てほしい。あり得てほしいが、私の希望など受け入れてもらえるはずがない。うーむ。こうなったら、必殺「好きな順」だな。いいや。キーンの念力でアイルランド1位、坂本村長の念力でカメルーン2位、と。よしよし。いい子だ。ドイツの諸君は、ブラームスの子守唄でも聴きながらネンネしてなさい。

 で、H組である。どうなんだよニッポン。今までは「やってみなきゃわからん」としか思っていなかったのだが、予想をし始めたらいきなりシリアスな問題になってきたぜベイベ。「やってみなきゃわからん」なんて、そない無責任なことでは困りまっせ。あんさんも男やったら、白黒はっきりつけなアカン。うー。ま、ベルギー戦は引き分けだな。負けると終わっちゃうからな。神様だって、そんなに開催国を虐めないと思うよ。でも「悲願の一勝」がそんなに簡単だとも思えないのである。韓国だってまだ勝ったことないんだもん。だから引き分け。勝ち点1。ロシアには負けちゃうかもなー。ロシア、強いもんな。モストボイもいるしな。ニキフォロフは故障中らしいけど。こぶ平のせいかな。とにかく、△●と来て、チュニジアには○だよ。そりゃあ、勝つ。勝たないでどうする。代表がガンバより弱いはずがない。後藤健生さんも勝つって言ってたしね。ふう。これで日本は勝ち点4だ。ベルギーは日本と△の後、チュニジアに○。ロシアはチュニジアと日本に○○で、3戦目を待たずに突破決定。主力温存でベルギーには●。っておいおい、ベルギー勝ち点7じゃん。ニッポン、ダメじゃん。ありゃあ。……あ、そっか。「ロシアの主力温存」が前提として間違っておるのだ。そりゃあロシアだってブラジルとはやりたくないから、必死に1位を目指すよな。だからベルギー戦は引き分け。ああ、よかった。これでベルギーは勝ち点5だ。…………ええっ!?(以下次号)



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※本誌の記述は原則として事実に基づいていますが、たまに罪の(たぶん)ないフィクションが混入している可能性もないわけではありませんので、あらかじめご了承ください。


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