8月の日誌

扉(目次)

深川全仕事

大量点計画

江戸川時代

メ ー ル

平成二十年九月十六日(火)


中秋の北京


■ホテルのエレベーターで、駆け込み乗車してくる白人のために閉じかけたドアを開けてやったら、にこやかに「シェーシェー」と言われた。ま、区別つかんわな。でも、なんか悔しい。



■上の写真は、スタンドで係員が掲げて観客に注意を促すためのボード。初日の試合中、ボールを失ってうろうろと探す選手を嘲笑した観客がいたという報道は目にしていたが、じっさい、選手がボールをトンネルしたり味方同士でボールを奪い合ったりするたびに「あははー」と笑う客は少なからずいる。パラリンピックは選手たちが「残存能力を駆使して何ができるか」を見るものだと思うが、なかには「喪失能力のために何ができないか」を確認することにしか興味のない人間もいるということである。

■きのうは朝7時半にホテルを出発して試合会場へ。第1試合のアルゼンチン対英国は、3対1でアルゼンチンの勝ち。25分ハーフの試合の前半25分と後半25分に2ゴールを決めたヴェロの勝負強さにうっとりした。2年前の世界選手権で初めて見てから、私は彼の大ファンなのだ。私が女なら、抱かれてもいい。

■第2試合のスペイン対韓国は、2対2の引き分け。スコアだけ見ると好勝負だが、かなりレベルが低かった。スペインはフィールドプレイヤーが7人しかおらず(ベンチ入りは8人まで認められている)、得点源のチャッピィの姿がなかった。怪我でもしたのかもしれない。エースのホセもなぜか出番が少なく、攻撃にまったく迫力がなかった。というか下手だった。スペインの2点はPKと第2PK。韓国はアジア選手権の日本戦で第2PKを決めやがった14番がここでもPKを決め、さらにへなちょこシュートをスペインGKがなぜか後逸して2点目を拾った。韓国にとっては超超超ラッキーな同点ゴールおよび初の勝ち点1であった。スペインのGKはものすごくヘコんでいた。たぶん、いまもまだヘコんでいると思う。箸でもつまめるようなシュートだったからなぁ。



■第3試合は業界最大の注目カードである中国対ブラジル。スタンドで聞く「ナマ加油」コールはさすがに凄まじい。第2審判として笛を吹いた日本の井口さんは、ブラジルの選手に「あの観客どもを静かにさせてくれ。うるさくて音が聞こえない」と何度も要求されていた。上の写真は、中国人はフィールドでも長蛇の列が大好きだということを示しているのではなく、鉄壁の4枚ディフェンスを捉えた1シーンである。この状態でも1人で突破するしかないのがブラインドサッカーの現状だが、ここからフリーの味方にラストパスを出すようなパターンを作り上げなければ、集団でボールゲームをやる意味があまりないし、ロースコア化が進んで退屈な競技になってしまうのではないかと個人的には思っている。でも、それはとても難しいこと。

 中国は昨年のアジア選手権とほとんどやり方が変わっていない。4人で守って、ボールを奪ったら自陣からひとりでドリブルするのが基本。さすがブラジルは高い位置からプレスをかけて長駆のドリブルを封じる場面が多かったが、4枚ディフェンスはなかなか破れない。それでも前半13分にリカルドのゴールで先制。しかしリカルドはコンディションが悪いのか決勝のために温存したのかわからないが、すぐにベンチに下がった。それ以降は拮抗した内容。しかもブラジルは後半の冒頭からどういうわけか反応のものすごく鈍いデブGKを投入し、同点にされる。終盤に再びリカルドを入れ、決定機をいくつも作ったが、ポストに嫌われる不運も続出して1対1の引き分け。両者は17日の決勝で再戦するが、リカルドが何分プレイできるかによって勝敗が左右されるような気がする。あと、相手のゴールスローさえギリギリでセーブしているデブGKを使わないことが金メダルへの最低条件。

■夜は、松崎さん、北岡さん、井口さんと4人で会食。審判の井口さんは、市内の地下鉄や観光スポットなどを無料で利用できるそうだ。こういうイベントは、首からIDカードを下げている人たちがすごく羨ましく見える。







平成二十年九月十四日(日)


人大杉





 見ればわかると思うが北京じゃ。



 下の写真のおじさんは、なんで顔を隠すのかわからない。改革開放に反している。だいたい、見られたくないなら、もっと地味な扇子を持ったほうがいいと思いました。



 と、ここまでは本日撮った写真。JBFA事務局長の松崎さんと共に到着したのは、金曜日の深夜。いきなり空港のタクシー乗り場が長蛇の列でうんざりした。しかし並んでいるだけマシなのかもしれない。もっとも、横入りはふつうにおkのようだ。光華路沿いのホテルはじつに快適。さすが日本の大企業が契約しているだけのことはある。持つべきものは大企業に勤める友人である。

 翌朝、ビデオカメラマンの北岡さんと合流して、さっそくパラリンピック会場へ。また長蛇の列。手荷物検査が厳重でなかなか入れない。撮影用の三脚や一脚はすべて持ち込み不可だと言われ、置いていかざるを得なかった。ライターも没収された。くそ。

 チケットの受け渡しの関係で、当初から第1試合(中国対スペイン)には遅れて入場する予定だったが、結果的には第2試合(ブラジル対英国)の後半からしか見られなかった。会場のホッケー場が鳥の巣からとても離れていることを知らずに鳥の巣へ行ってしまったからだ。オリンピック会場の広さをナメてはいけない。ボランティアに訊いたら「これ真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がって1番か2番のバスに乗るアル」と言われたので、てっきり会場内の循環バスみたいなものかと思ったら、いったん会場の外に出てふつうの路線バスに乗らなければいけないのだった。そのバス停も遠く、すげえ歩いたので、会場到着の時点でクタクタ。海外取材の初日って、必ずクタクタになるまで歩くような気がする。

 スタンドに入る直前に大きな歓声が聞こえたので何かと思ったら、ブラジルが前半終了直前に4点目を取ったのだった。決めたのはリカルドだった。彼の今大会初ゴールを、ぎりぎりで見逃した。後半から、じっくり観戦開始。リカルドは以前よりスピードがなく、ドリブル中のミスも多かった。人工芝のせいかもしれないし、人工芝が前日の雨で濡れていたせいかもしれない。怪我をしているようには見えなかった。それでもリカルドがもう1点決めて、5-0でブラジルの勝ち。

 ちなみに第1試合は中国がイチゼロでスペインを下したとのこと。なんと4連勝である。そのうち3勝はイチゼロ、ラッキーなPKやオウンゴールのおかげもあるが、初の世界大会でこの成績は驚くべきものだ。早く見たい。第3試合はアルゼンチンが2-0で韓国に勝利。1点は第2PKだから、韓国もよく守ったといえよう。これで各国の勝ち点は、中国12、ブラジル10、アルゼンチン7、スペイン3、英国3、韓国0。中国は決勝進出決定。つまりメダル確定。ブラジルは明日中国に負けるとアルゼンチンと得失点差の争いになるので必死だろう。



 5人制サッカー終了後、鳥の巣へ移動。そのバス乗り場がまた長蛇の列。みっしりと満杯の中国人と一緒に詰め込まれて、とても息苦しかった。この国の人たちは、どうしてあんなに声がでかく、そして遠慮というものがないのか。読者に団塊の世代がいないことを信じて書くが、もしかしたら中国人は全員が団塊の世代なのかもしれないと思った。鳥の巣ではやり投げ、円盤投げ、100m、200mなどを観戦。ぎっしり満員で驚いた。中国人選手がワンツーフィニッシュを決めた男子100mT35などは、ものずごい大歓声。残奥大会、盛り上がっております。しかし、なんでパラリンピックが「残奥」なんだろうかね。「オリンピックの残り」みたいな感じで、あまり印象がよくない。フィールドでは、世界新記録が3つほど出ていた。いや、中国では「世界新記録」ではなく「破世界記録」というようだ。電光掲示板の表示がそうだった。「新」か「破」かというあたりにも、お国柄の違いが見えるような気がするのは私だけではあるまい。



 ラブホでもパチンコ屋でもなく、北京駅である。ま、お国柄の違いということでひとつ。夜は王府井で中華料理。ひとり2品ずつ計6品頼んだら、半分ぐらいしか食えなかった。量大杉。でも旨かった。








平成二十年九月十一日(木)  82.8 kg


黙らせたい
BGM : Get on Board / Dorothy Love Coates & The Original Gospel Harmonettes



 明日から北京。すでに飽きるほど現地の風景をテレビで見ており、未知の土地へ行くドキドキ感に欠けるのがつまらない。だが、あの国の場合、テレビ画面の内側と外側では相当なメリハリがあるに違いないので、行ってからドキドキするんだろうな。

 報道によると、ブラインドサッカー会場では、「加油」のひとつ覚えのアホ観客どもが競技の特性を理解せず、「サイレント・プリーズ」を無視して顰蹙を買っているらしい。オリンピックのテニスで地元選手が「黙れ!」と観客を罵倒したときから、イヤな予感はしてたけどね。案の定である。中国語はニイハオとシェーシェーとヒトケタの数詞と東南西北とピンフとタンヤオぐらいしか知らないが、「静かにしろよコノヤロー」も覚えたほうがいいかも。「火に加油」になりかねないが、罵り合いになって殴られでもすれば、どこかの雑誌で体験記の1本も書けるというものだ。マッチポンプかよ。日誌は現地から(アクセスできれば)更新する予定。ではでは。

※追記 本日のブラジル×アルゼンチンはスコアレスドロー。シュート数はアルゼンチン0本(!)に対してブラジルが16本と圧倒したようだが、「バレリーナ・キック」で業界では有名なセベリーニョ・シウバ(いわゆるジャマシーニョ)も得意の第2PKを2本しくじるなど、やはりブラジルはおかしい。リカルドの3試合連続ノーゴールというのは、イチローでいうならば10試合連続無安打に匹敵するぐらいの異常事態である。中国×韓国は1−0。PK一発だけの辛勝だったようだ。あれれ、韓国、意外にがんばったな。全体的にロースコア化が進んでいるのかもしれない。とにかく、この目で見るまで何がどうなっているのかよくわからない展開になっている。

※追記の追記 第3試合のスペイン×英国は3−1。ようやくスペインが点の取り方を思い出したようだ。明後日の中国戦でスペインが勝つようなことがあると、順位争いがややこしくなって面白いんですけどね。楽しみ楽しみ。







平成二十年九月十日(水)  82.6 kg


ブラジルに何が
BGM : The Central Park Concert / Dave Matthews Band



 案の定きのうの予想は大ハズレで、中国は1-0でアルゼンチンを下した。派手なゴール合戦どころか、アルゼンチンGKのオウンゴール一発で決着するという、なんともシブいゲームをやったようだ。どんなオウンゴールだったのかわからないが、GKの気持ちを想像するといたたまれない。障害者競技に参加する健常者の立場や責任感はいろいろとフクザツだ。それにしても、なんでアルゼンチンが中国からゴールを奪えなかったのかがわからない。アジア選手権では「3人か4人でボールに群がる」が基本だった中国が、今どんな守備をしているのかが興味深いところだ。

 一方、ブラジルはスペインに1-0の辛勝。リカルドはまたしてもノーゴールに終わった。一昨年の世界選手権準決勝のスペイン戦は、リカルドのハットトリックで3-0だったのに。どうしたんだリカルド。ブラインドサッカーはホッケー場で開催されているようだが、やはりピッチが合わないのか。あるいは怪我でもしているのか。とにかく、スコアを見るかぎり、ブラジルはなんかおかしい。直前にマドリードで行われた大会を資金難のためにキャンセルしたという話もあるから、強化が行き詰まっているのかもしれない。中国優勝の可能性が高まってきた感じ。ちなみにもう1試合は、英国が2-1で韓国を下した模様。おそらく韓国の関係者はこの試合で「悲願の一勝を」と念じていたと思われるが、残念でした。たぶん最終日の最下位決定戦で再戦すると思われるので、せいぜい頑張ってください。せいぜい。明日はブラジル×アルゼンチン、中国×韓国、スペイン×英国という大陸別選手権のような組み合わせである。







平成二十年九月九日(火)  82.8 kg


早く行きたい
BGM : LAS VEGAS / 鬼束ちひろ



 北京パラリンピックの5人制サッカー(B1)初日の3試合は、アルゼンチン 2-0 スペイン、中国 3-0 英国、ブラジル 3-0 韓国という結果だったらしい。スペインがもう少し接戦を演じると思っていたが、公式サイトのマッチレポートを見ると、シュート数もCK数もアルゼンチンを上回っているのに決めきれないという、例によって例の如しの展開だったようだ。PKもしくじっている。アカンなぁスペイン。

 また、なんでブラジルが韓国から3点しか取れないのかが謎。しかもリカルドが無得点だ。それってあり得ないんだけどな。しかし考えてみると、私は彼のプレイをコンクリートのピッチと体育館でしか見ていない。今大会がどんなピッチなのか不明だが、足元がツルツルしてないとあのプレイができない、という可能性もなくはない。

 ともあれ順当な結果で、勝った3チームのメダル争いになるのはほぼ確実である。リーグ戦(6ヶ国の総当たり)の1位と2位が決勝に進むので、今日の中国×アルゼンチン戦が最初の山場といえよう。勝ったほうが銀メダル以上確定、と言ったら過言かもしれないが、それぐらい重要な一戦。できればこの試合から現地観戦したかった。アジア選手権では韓国からしか得点できなかった中国だが、ずいぶん得点力が上がっているようだ。しかし直前の大会でスペインに5ゴールぶち込まれている守備力が不安。アルゼンチンは今回ルカ・ロドリゲスが復活しているので、派手なゴール合戦になるような気がする。3-2でアルゼンチン、と予想してみようか。

 ブラジル×韓国戦のマッチレポートに、日本人レフェリー井口さんの名前があって安心した。どうやら無事に笛を吹けたようである。当初は主催者が「今回は中国人審判団でやる」とワケのわからないことを言っていたらしいので、心配していたのだ。唯一のサッカー日本代表として、いい仕事をしていただきたい。

 一昨日、教育テレビのパラリンピック番組を見ていたら、アテネの自転車競技で葭原滋男さんが銀メダルを獲得したときの表彰式風景が流れていた。今より髪の毛が黒かった。葭原さんは陸上で2大会、自転車で2大会に出場し、4つのメダルを獲得した名選手だ。現在はサッカーだけやっている。8年前のシドニーでは、1キロタイムトライアルで1分4秒950の世界新記録を叩き出して優勝。記録は05年の世界選手権で破られたが、パラリンピック記録としては残っていた。しかし昨日の同競技の優勝タイムは1分2秒864。5位の日本選手も1分4秒593で、日本記録も更新されてしまったようだ。記録保持者の知り合いなんて滅多に得られないので、ちょっと残念。でも、まだ走り幅跳びの日本記録は持っているという。えらい人だ。







平成二十年九月八日(月)  83.0 kg


10周年
BGM : Under the Table and Dreaming / Dave Matthews Band



 1998年9月6日に「愛と幻想のフットボール」というふざけたタイトルのウェブ日誌を書き始めてから、ちょうど10年が経った。34歳から44歳といえば、男にとってはかなり大事な10年間である。これだけの時間と労力を何か別の営みにそそいでいればなあ……と思わないでもないが、そそいでしまったものはしょうがない。覆水盆に返らずである。いや、そそいだんだから覆水じゃないか。盆に入ってるのか。ちがうよ、この場合、時間と労力が覆水なんだよ。ここにこぼしちゃったんだよ。ああそうかそうだよな。と、ひとりでごちゃごちゃ言い続けて10年である。最初からずっと読んでいる人がいるとしたら、ご苦労さん、と申し上げたい。ご苦労さん。

 土曜日にNHK教育テレビで生中継されたパラリンピックの開会式を見た。入場行進では、ブラジルの美人サポーターやスペインのチームドクターなど、国際大会で見たことのある関係者を何人か確認。アルゼンチン選手団の旗手はブラインドサッカーの主将ヴェロだった。日本チームが逃した魚の大きさを目の当たりにすると、あらためて悔しさが募る。しかし長いよ開会式。オリンピックも長かったがパラリンピックも負けず劣らず長かった。だいたい、似たようなイベントを同じ場所で立て続けにやる意味がよくわからない。このあいだ消した聖火、またつけてるし。なんで聖火が別々なのか、考えてみると謎だ。入場行進も先頭はギリシャではなかったが、オリンピックがなければパラリンピックもなかったんだろうから、どっちもギリシャ起源ってことでいいような気がする。壮大な二度手間、としか思えない。オリンピックの閉会式をパラへのリレー・イベントにするとか、そんなことは考えられないんでしょうかね。







平成二十年九月五日(金)  82.4 kg


賛成と反対と反対の賛成
BGM : Pieces of You / Jewel



 山本さんやら棚橋さんやらも手を挙げ始めて、どんどん薄まっていく感じの自民党総裁選ではある。5人も6人も立候補したら、最後に当選者が決まった後、壇上でどう手を握り合ったいいのかわからんぞ。悪いことは言わんから、3人までにしとけ。

 っていうか、山本一太って50歳なのかよ! すんげえビックリしちゃったよ。てっきり32歳ぐらいだと思ってました。

 先日、ある口述取材の現場で、私の第一印象が「気難しそうなおっちゃん」だということが判明した。取材終了後、3歳下の女性著者に「じつはすごく緊張してました」と言われて軽くショックだったが、年齢相応の印象を与えるのは決して悪いことではないのかもしれん。

 なにしろ44歳といえばバカボンのパパより年上なのだ。きのう「44歳の秋」と書いたあと、「41歳の春だから〜」という歌を思い出して気づいた。調べてみたら、バカボンのパパは「昭和元年の元日のクリスマス生まれ」で、連載開始が昭和41年だから41歳なんだそうだ。バカボンのパパが年下! バカボンのパパが年下! しっかりせなアカンよなぁ。バカボンのパパほど「不惑」を地で行く男はいない。なぜなら口癖が「これでいいのだ」なのだ。迷いがないって、すばらしいのだ。

 ちなみに昭和元年は12月25日から31日までの1週間だけだから、それでいいのだ。







平成二十年九月四日(木)  81.8 kg


立ち止まるな振り向くな先のことを考えるな
BGM : Cats Under The Stars / Jerry Garcia



 このアルバムのボートラに入っている「I'll Be With Thee」というゴスペルナンバーがとても良く、それがドロシー・ラヴという人の曲だとわかったので、その人のアルバムをamazonに注文。こうして芋蔓は果てしなく続く。

 先週末に送稿した数学本は没問題。編集も著者も気に入ってくれたようで、他人の本の原稿は手離れがよろしい。SAPIOの新連載原稿もいちおう形にして、ちょっとひと息つきたいところではああるが、なかなかそうもいかない。次は、これはビジネス書なのか自己啓発書なのかジャンルがよくわからんが、コミュニケーション能力にまつわる本の原稿。9月中に仕上げろと言われているが、北京に行くわ「わしズム」もあるわで、今月もまたバタバタしそう。こうして仕事は果てしなく続く。

 おれ、いつまでライターやるつもりなんだろう。と、考えたりしなくもない44歳の秋だが、自分で決めることじゃねえよな。注文がなくなるまで、が正解。







平成二十年九月二日(火)  82.6 kg


ツカむ女、ツカめなかった男
BGM : Sugar High / 鬼束ちひろ



 先日、初めて「This Armor」というアルバムを聴いて一発で気に入った鬼束ちひろだが(8/29の日誌参照)、どうやら私の想像をはるかに上回る才能の持ち主だったようだ。「いまごろナニ言ってんだこのオヤジは」と思われるかもしれないが、なにしろレッド・ツェッペリンの凄さを5年前に知ったぐらいの男なのだから勘弁してもらいたい。現役のうちにその存在を知ったというだけで、私にしてみれば早いほうだ。ともあれ、この「Sugar High」は本当にすばらしい。英語詞で書かれた1曲目「NOT YOUR GOD」のイントロと歌い出しを耳にした瞬間に、完全にツカまった。曲調といい歌い方といい、ひょっとしてカーペンターズのカバーか?と思うような名曲。4曲目「Tiger in my Love」もいい。聴いてて怖くなるほどの切迫感。声そのものに世界があるよね。9曲目「BORDERLINE」はポーラ・コールの狂気に匹敵する何かが迸っている。この音楽が持つ独自の存在感が、ジャケットにまったく表現されていないのが残念だ。こんな見せ方では、これを聴くべき人のところに正しく届かないのではないかと危惧する。

 ゆうべは、福田総理が辞意表明。最後まで、記者会見を「目の前の記者との会話」としか認識できない人でしたね。それにしても、人が時事ネタでコラムの原稿書いてるときに、余計なことしてほしくないんだよな。盛り込んだほうがいいのかどうか迷うじゃんか。テレビ見ながらいろいろ考えたが、どうやら次の首相が決まる前に校了し、雑誌が出る頃には新内閣が発足していそうなので、無視することに決定。どんなタイミングを見計らったのか知らないが、私にとっては最悪のタイミング。







平成二十年九月一日(月)  83.0 kg


高校時代
BGM : Bootleg Series 5: Live 1975 / Bob Dylan



 12日から北京に行く私のために、上海駐在の友人がホテルを予約してくれた。彼の会社で契約しているホテルが割安で利用できるというので甘えさせてもらったのだ。持つべきものは友である。先月、高校時代のクラス会に出席してヨカッタ。上海とメールをやり取りしていて面白かったのは、向こうからの返信のSubject欄が「Re:」ではなく「返:」で始まることだった。なるほど。往復するたびに「返:返:返:返:」と増えていくので、いちいち笑った。ところで中国語の「No Problem」は「無問題」ではなく「没問題」だそうだ。最初に見たときは予約がボツになったのかと思って焦った。同じ漢字の国だからといって、簡単にわかり合えると思ったら大間違いである。

 そういえばそのクラス会のことを書いていなかったが、私の通った都立高校は共学なのに各学年8クラスのうち3クラスが「男子クラス」というふざけた学校で、先月のはその男子クラスのクラス会だった。やるかねふつう。でも男子校もクラス会ぐらいやるか。そういうもんか。驚いたのは、教室で起きたある大事件を「知らない」と言った者がいたことだ。それは世界史の授業で、常に7割以上の生徒が居眠りをしているのだったが、その日はシノダ君が居眠りをしながら机ごと倒れた。どうしたらそんなことができるのかわからないが、机を抱えた状態で、真横にバタン!と倒れたのだ。全員、その物音でがばっと目覚めた。それを「知らない」というのだから、ま、授業をサボってたんですわな。もうひとつの大事件も、「知らない」という奴がいた。その日はニシダ君が数学の授業中に弁当を食い始め、激怒した教師が、あの、あれは何というのか、例のアノ伸び縮みする銀色の棒を弁当箱に突き刺してひっくり返したのだ。フェンシングみたいですね。アレ〜。弁当の中身は床にぶちまけられ、逆ギレしたニシダ君は憤然と教室から出て行った。そんな大事件を知らないというのだから呆れるが、それは私だ。たぶんどこかで麻雀やってたんだと思うが、なんとも貴重な青春を見逃したものである。