9月の前半

扉(目次)

深川全仕事

大量点計画

江戸川時代

メ ー ル

平成二十年九月二十九日(月)  83.2 kg


えらい人、えらくない人
BGM : Jon Cleary and the absolute monster gentlemen


 もうじき(再来月発売の1月号で)休刊してしまう「月刊PLAYBOY」11月号のコラムでピーター・バラカンさんが教えてくれたのが「イギリス生まれのニュー・オーリンズ音楽の巨匠」ジョン・クリアリーである。思わずヤッホー!と小躍りしたくなるカッコ良さ。グッド・ミュージックを紹介してくれる人は、無条件でえらい。

 などと書いているとゴキゲンな日々を送っているように思われるだろうが、仕事は不調だ。もンのすごく不調。止まってくれない時計を見ては溜め息ばかり漏らす長い午後である。それなのに焦燥感はまるでなく、湧いてくるのはむしろ虚無感。仕事が不調というより、人間として不調な感じ。ヤバいよな、こういうの。沖縄だの北京だのに出かけてリフレッシュはしているはずなのに、なんだか気力ナッシング。たぶん、いまはアウトプットよりもインプットをすべきなのだ。本とか読んだほうがいいのだ。でも読むより書くを優先しないと成り立たない生活。







平成二十年九月二十六日(金)  83.4 kg


タテマエ化する日誌
BGM : Nested / Laura Nyro



 入手困難だったローラ・ニーロ中期の佳作が紙ジャケで再発されたので、さっそく購入。2万円の中古盤に手を出さなかったのは正解だった。ナイス判断。もっとも、去年5千円ぐらいで買った「マザーズ・スピリチュアル」も再発されてるけどな。

 昨夜はJBFA事務局の月イチ企画「ブラインドサッカーを語る会」に呼ばれ、大久保駅前の事務所にお邪魔して、10人ほどの参加者に北京パラで見てきたことをお話しした。いつの間にか、取材される側になっている。何か間違っているような気がしてならないが、ブエノスアイレス、サンパウロ、仁川、北京の4大会を現場で見た日本人はたぶん私ひとりだけなので、しょうがない。と、かるく自慢してみた。

 セガレがSAPIOのコラムを読んで「おもしろい」とか言ってたらしい。うーむ。そうなのだ。5年生にもなれば、雑誌のコラムぐらい読むのだ。なんか書きにくいよなあ。世の物書きのみなさんは、そのへん、どう対応しているのだろうか。どう考えても家族に読ませたくなさそうな内容のエッセイとか、しばしば見るのだが。「恥ずかしいからヤメテ!」と言われても卓袱台ひっくり返して書くのが物書きダマシー?

 などと書いているこの日誌も、セガレがたまに見ているというのだから参る。愚痴こぼしたり弱音吐いたりしにくいじゃん。

 さあ、きょうも張り切ってバリバリ仕事するぞー。ホントだぞー。







平成二十年九月二十四日(水)  83.4 kg


なんとなくスタート
BGM : Cake and Pie / Lisa Loeb



 恥ずかしながら宣伝。本日発売の「SAPIO」10月8日号(小学館)に新連載コラムの一発目が載っていると思われます。まだ目視していないが、校了はしたと聞いているので、土壇場でボツになったりはしていないはず。もう第2回も入稿したし。気になるタイトルは「日本人のホコロビ」。大きく出たのか小さく出たのかわからない微妙なところが気に入っている。略称は……えーと……ニッポコ? どうでもいいやそんなこと。内容へのご批判やツッコミは甘受いたしますが、「おまえが言うな」は禁止。








平成二十年九月二十二日(月)  83.8 kg


小心
BGM : Tails / Lisa Loeb


■SAPIOとわしズムのコラムの締切が重なり、さらには別件の心配事もあったりして、遅れまくっている書籍原稿にまったく身が入らない。同時に複数の物事を進められない不器用な脳と小心な性格が恨めしい。「このまま最後までネタが思いつかないのではないか」という不安でネタが考えられなくなるのだからバカだ。

■要するに、連載に不向きなタイプ。

■そういえば中国では、清掃中のトイレに「小心滑倒」という注意書きがあった。「滑りやすいから気をつけろ」ということだ。向こうの「小心」はむしろ日本語の「細心」に近いニュアンスなのだろう。だとすると「小心者」は「注意深い立派な人」か?

■チェルシーとユナイテッドの試合を終盤の20分だけ見た。カルーのヘッドで追いついて1-1の引き分け。チェルシーは、ゾラやポジェがいた時代の非小心的弾力サッカーが復活しつつあるような印象を受けた。ちょっと楽しみ。







平成二十年九月二十一日(日)  83.8 kg


0円生活
BGM : Satori / Flower Travellin' Band



 旅行中に、吉村昭の「漂流」を読んだ。江戸時代、遭難して無人島に漂着した船乗りが、島を埋め尽くすアホウドリの大群を叩き殺して食い、卵の殻に溜めた雨水を飲みながら十年以上も過ごした挙げ句、島に流れ着く難破船の部品で船をこしらえて奇跡的に生還したという実録小説。主人公は人間ではなくアホウドリじゃないかと思うぐらい、アホウドリの生肉や干し肉を食う場面が執拗に描かれていた。そんなものを読みながら北京ダックに舌鼓を打っていた自分の無神経さに呆れなくもない。ともあれ、「島」でのサバイバルには、水と食糧ですわな。

 前に日本の「世界新記録」が中国では「破世界記録」だと書いたが、ドアの「押」と「引」も向こうは違う。「PUSH」が「推」なのは、「推敲」の語源を考えればナルホドという話だ。ドキッとしたのは、「PULL」が「拉」だったこと。ドアに手をかけるのが、ちょっと躊躇われました。「引率」を中国(および朝鮮半島)でどう表記するのかが気になる。







平成二十年九月二十日(土)  83.8 kg


不安と心配
BGM : Truckin' Up to Buffalo: July 4, 1989 / Grateful Dead



■えーと、北京からの帰国便で出された機内食に、たしか「伊利」と書いてあるヨーグルトがあったように思うのだが、あれって食っちゃいけなかったのでしょうか。

■と思っていたら、こんどは長野で<中国産あんこ>味見した従業員が手足のしびれとの報道。空港の土産屋で買った月餅を食った直後にそんなこと言われてもなあ。北京に発つ前、セガレに「食べ物は買ってこないでね」と釘を刺されていたのだが、ホテルでサービスされた月餅がとても美味だったし、向こうでいろいろ食っているうちに警戒心が薄れたせいもあって、つい買ってしまったのだった。

■しかも同じ物を、きのう取材で会ったG舎の担当者に「みなさんでドーゾ」と渡してしまったのだから罪深い。いまのところ何事も起きてないけど。

■そういえば、松崎さんと井口さんは町でお菓子を大量に買っていたが、大丈夫だろうか。きょうのチャレ杯で、関係者に「ドーゾ」と配っているのだろうか。







平成二十年九月十九日(金)  83.6 kg


喉が痛い
BGM : One Size Fits All / Frank Zappa & the Mothers of Invention



 きのうの午後に帰国。たいへん残念なことに、前回と同じ手順で作業しているにもかかわらず、現地で撮影した写真がどういうわけかアップできない。謎だ。表彰式をゴージャスに彩る「きれいどころ軍団」とか、見せられなくて悔しい。ま、テレビでお馴染みだろうけど。ナマで見るとこれはまたなかなかオツなものだ。

 最終日(17日)の英国対韓国(5〜6位決定戦)は、英国が終盤に追いついて1-1、延長戦はなく、PK戦を英国が1-0で制した。韓国の「悲願の一勝」はまたもおあずけ。衝突や転倒の多い荒らっぽい試合だった。第2審判を務めた井口さんも大忙し。

 アルゼンチン対スペイン(銅メダルマッチ)は、キックオフの50秒後にスペインが先制するという意外な展開。韓国戦はダメダメだったスペインだが、この試合はチャッピィとホセの両エースが揃い、見応えのあるプレイを披露した。しかし後半、ホットテンパーで有名なチャッピィが短時間のうちにイエロー2枚食らって退場。選手の退場って初めて見た。5分間(もしくは相手が得点するまで)は1人少ない状態でプレイするルールになっているそうだ。その間にアルゼンチンは(それでもなぜか守備に2枚を残し続けたこともあって)得点できなかったが、チャッピィ不在のスペインはやはり攻撃がうまくいかない。終盤、ヴェロが同点ゴールを決めてPK戦。これをアルゼンチンが1-0でモノにして銅メダル獲得。あかんなぁスペイン。

 決勝の中国対ブラジルは、最初から最後まで緊迫感の途切れない好勝負。中国のコーラーがブラジルのGKを突き飛ばしてイエローカードを出されたり、観客席でブラジル人を挑発してモメゴトを起こした中国人が係員に羽交い締めにされたりなど、殺気立つ場面もあった。ボール支配率はブラジルが圧倒的に高く、チャンスも多い。ただし、中国は例によってベタ引きの4枚ディフェンス、ブラジルは高い位置からボールを奪いに行くため、完全にDFの裏を取ってGKと1対1になる決定的チャンスは中国のほうが多かった。

 前半に先制点を奪ったのは中国。スピードのあるドリブルでDFを振り切って撃った完璧なシュートだった。しかしブラジルは後半の立ち上がり早々、ゴール正面で得たFKをリカルドが右方向にドリブルしてシュート。さすがの4枚ディフェンスも「壁」の状態からリカルドのドリブルに対応するのは難しかったようだ。これが決まって1-1の同点。いきりたって「加油!加油!」と吠える客席に向かって、スタンドの係員が何度も「清保持安静」と書いたボードを掲げていた。

 それ以降は、まさに手に汗握るような一進一退の攻防。前々日の中国戦ではプレイ時間の短かったリカルドだが、この試合では本人が交代を要求してもベンチがしばらく動かない。後半途中でいったん下がったが、すると途端にピンチが増える。再びピッチに戻ったリカルドは、中国のファウル数を増やす上でも有効なカードだった。

 そして終了間際、中国がリカルドを倒してブラジルに第2PKが与えられる。時計は49分35秒。タイムアップまでわずか25秒である。このときばかりは、スタンド全体が重苦しい安静を保持した。まあ、それでもブラジルのコーラーがポストをカンカン叩くのを見て「あははー」と笑ってる奴はいたけどね。そんなシーンは何度も見てるんだから、いい加減、慣れろよ。

 それはともかく、このときブラジルは、PKの得意なジョアン・シウバとセベリーニョ・シウバをベンチに下げていた。8メートル地点に立ったのは、6番のマルコス・フェリペ。あまりよく知らない選手なので不安だった(つまり私はブラジルを応援していた)が、リカルドを差し置いて蹴る以上、きっと上手いのだろう。事実、右足から放たれたボールは、ゴール左上の隅に吸い込まれた。ブラジルが2-1と逆転し、2大会連続の金メダルを獲得。はしゃぎまくるブラジルチームにレンズを向けて写真を撮っているうちに、ふと気づくと、周囲を埋め尽くしていた中国人は半分以下に減っていた。なんて逃げ足の早い人たちなんだ。決勝で負けたとはいえ、代表チームを結成してからわずか2年で見事に銀メダルを獲得した地元チームに、表彰式で拍手を送りたいと思わないのだろうか。ちなみに、彼らが去ったあとの客席はゴミだらけでした。

 ところで、喉が痛いのは16日の火曜日からだ。金曜の深夜に北京に着き、翌日から月曜日までの3連休(15日は中国も祝日)は空気の汚れを感じなかったのだが、火曜日に通常業務が始まるやいなや、空が煙った。前日まできれいに見えていた遠くのビルなどが、かすんでいる。その翌日でパラも終わるので、操業を止められていた近隣の工場などがそろそろ動き始めたせいもあるのかもしれない。最終日の男子マラソンは、けっこう選手にとってキツかったのではないかと想像する。

 それにしても理解できないのは北京のタクシー運転手だ。もう1ヶ月も五輪とかパラとかやってんのに、なんで全員ホッケー場を知らないんだ? 英語もまったく解さないし、地図を見せても虫眼鏡とか出して長々と観察しているので、いちいち苦労した。試合会場だけではない。どこへ行くにも、「あー?」とか言って首をひねりやがる。地図上の北京駅を虫眼鏡で凝視してるような人に、どうしてその仕事が務まるのかがわからない。地図が読めないのか字が読めないのかどっちなんだろう、と思わせる人が何人もいた。観光客相手の商売なんだから、せめて「Beijing Station」や「Airport」ぐらいの英語は理解してください。

 土産物屋で数種類の毛沢東ライターを買い、スーツケースに入れて空港で預けようとしたら、「ピー」と鳴って開けられ、すべて没収された。猛烈に不機嫌になって帰国。別の場所に入れていた麻雀牌ライターはバレなかったのに、なぜだ。

 二度と行きたくない。