1月の前半

扉(目次)

深川全仕事

大量点計画

江戸川時代

メ ー ル

平成二十一年一月三十日(水) 84.4 kg


負けながら生きるということ
BGM : Already Free / The Derek Trucks Band


 各出版社から確定申告用の支払調書が続々と届く季節である。去年どこの会社の仕事をしたのか(どこの会社としていないのか)をいちいち把握していないので自信はないが、たぶん、もう全部届いたのだと思う。去年私にお金を払ってくれたのは7社。10社を超える年もあるが、まあ、こんなものであろう。ふだんはなるべく考えないようにしているものの、考えてみれば脆弱な生活基盤である。建前上、フリーランスには競争原理ってヤツが作用していることになっており、「ギリギリ食えている」は「ギリギリ勝っている」なのかもしれないが、そんな実感はまるでない。だいたい競争なんて言ったって、日本全国のフリーライターがひとつのマーケットに放り出されて、その力量を全社から吟味されているわけではないのである。たまたま出会った編集者が、その知見の範囲内にいる数名のライターの中から誰かを選んでいるだけのこと。きわめて狭いマーケットでの争いだ。で、いま私に仕事を発注してくれる編集者は(各社に複数いるので)十数名になるわけだが、これまでの約20年間でおそらく100人を超える編集者と仕事をしてきただろうと思うので、競争における勝率は2割に満たないのだった。「次の発注」が来なくなるのは、「私の原稿がダメだった」「私が予算に合わない」「私の人格が嫌われた」「私が相手の人格を嫌った」などさまざまで、もう出版界にいない人も多いからそれは負けたことにならないが、まあ、おおむね負けっぱなしの人生である。なので、私を選んでくれる奇特(統計上は有意に奇特)な編集者は大事にしなければいけません、という至極まっとうな結論。







平成二十一年一月二十八日(水) 84.2 kg


閉鎖とか冤罪とか
BGM : Blues Singer / Buddy Guy


 今日から2日間、セガレの所属する5年1組は学級閉鎖だそうだ。年初以来、他学年が軒並みインフルエンザでダウンするなか、5年生だけは風邪をひく者がほとんどおらず元気いっぱいだったのだが、これで「あの学年だけバカ説」が否定されたのは不幸中の幸いである。もっともセガレは元気で、「よりによって給食がカレーの日に閉鎖するなんてヒドイ!」とバカ丸出しだった。よって、本日の晩飯はカレー。

 仕事の資料として、数日前から痴漢冤罪事件の裁判記録や体験談などを読んでいる。根拠もなく人を私人逮捕する女も、根拠もなく女の証言を信用して有罪判決を下す裁判官も、ほんとうに怖い。どうしても裁判員制度を導入するなら、痴漢裁判を対象にすべきだったのではないか。この国の裁判官が「疑わしきは被告人の利益に」という刑事手続きの大原則をいかに蔑ろにしているかがわかるはずだ。たとえ被告が真犯人だとしても有罪にしてはいけないケースが山ほどある。

 それにしても驚かされるのは、冤罪と思しき事件の「自称被害者」の大半が女子高生だってことだよ。「勇気がある」のか「オトナの男をナメている」のかどっちだか知らないが、よくもまあ自信満々に「触ったでしょ!」とか大声を上げられるものだと感心するやら呆れるやら。なかには文字どおりの「被害妄想」だと思えるようなケースもあり、もしかすると、自ら選択しているあのバカげた短いスカートが彼女たちの妄想をかき立てているのではないかと思ったりもするがどうなんだろう。ともかく、電車に乗ったら女子高生の近くにだけは絶対に近寄らないぞ、と心に決めている。その尻に手の届く範囲にいただけで、人生が台無しになりかねない。まあ、そうでなくとも女子高生の近くでその痴態を目にするのは精神衛生によくないので、なんにしろ逃げるにかぎりますわな。できれば女子高生専用バスで護送してほしい。







平成二十一年一月二十七日(火) 84.4 kg


お詫びと訂正
BGM : Happenstance / Rachael Yamagata



 日曜日に、スペインから来日中のカルロス・カンポス氏の講演を聞き、終了後にはJBFA事務局のとりはからいで通訳つきのインタビューもさせてもらった。カンポス氏はIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)フットサル部門のチェアマンで、「視覚障害者サッカー界のブラッター」などと言うと人格もブラッター的なのかと誤解されかねないので良くないが、ともかく、ブラインドサッカーの世界で「いちばん偉い人」である。で、いろいろと興味深いお話をうかがったのだが、いちばんビックリしたのは、これまで日本国内で語られていた競技の歴史に関する「定説」が間違いだと判明したことだ。私が書いた雑誌記事なども含めて、日本ではあらゆるところで「ブラインドサッカーの国際ルールは1980年代にスペインで生まれ、それが世界各国に広がった」「したがってこの競技の母国はスペイン」という話になっているのだが、そうではない。1996年に、それまで別々のローカル・ルールでプレイしていた欧州と南米の各国が国際大会を行うために話し合って決めたのが現在の国際ルールだそうだ。おそらく日本国内への導入当初に何らかの勘違いから発生した「スペイン母国説」が、(私も含めて)誰からも確認されることなく、そのまま広まって現在の「定説」になってしまったのだろう。伝聞の威力おそるべし。当初から「80年代ってやけにアバウトだよなあ」とは思いつつも確認の努力を怠り、あちこちにそう書いてあるのを鵜呑みにして受け売りしていたことを深く反省した。ここに書いただけでは十分ではないが、とりあえずお詫びして訂正。どうもすみませんでした。







平成二十一年一月二十三日(金) 84.8 kg


語順
BGM : The Smoker You Drink, The Player You Get / Joe Walsh


 人は模様替えが終わると太る。

 オバマ新米国大統領の宣誓、「誠実に大統領の職務を遂行する」と 「大統領の職務を誠実に遂行する」は日本語だと別にどっちだっていいじゃんという話だが、英語だとどうなんだろう。単に憲法の規定と違うことが問題なのか、あるいは何か意味合いが変わってしまう問題もあるのか、そのへんまで含めて報道してください。

 人は太る模様替えが終わると。

 それはともかく、語順といえば「消費増税」が何となくキモチ悪いのだった。「消費税増税」だと「税」が重なるので避けたいが「ゾーゼー」という言葉の持つ禍々しい響きは生かしたいというマスコミ事情もわからんではない。だが、たとえば家賃の値上げを「家増賃」とは言わない。ヤゾーチン。ウラジミール・ヤゾーチン。たぶん革命家の中でもかなり凶暴なタイプだ。といった無理めのボケはどうでもいいが、「消費税」でひとつのカタマリなんだから、「増消費税」か「消費税増」じゃないの?「消費増税」だと、消費税みたいな税金をもうひとつ増設するようなニュアンスもあるし。

 模様替えが終わると人は体重増。







平成二十一年一月二十一日(水) 83.8 kg


模様替え減量法
BGM : So What / Joe Walsh



 おお。早くも今月の減量目標を(あと10日キープできればの話だが)クリアしてしまった。明らかに、きのう仕事場の模様替えを行ったことによるものだ。人は昼飯も食わずに模様替えをすると痩せる。腰も痛くなるが、これは新たな減量法の発見である。これからも、毎月の目標達成が難しい雲行きになったら模様替えをすればいい。レイアウトのバリエーションにも限界はあるが、べつに「同じサイズの2つの本棚を入れ替える」「ソファを360度回転させる」「それを20回くり返す」「机を天井近くまで持ち上げて床に下ろす」「それを20回くり返す」等でも構わない。それはもはや模様替えではなく「家具を使った筋トレ」になっているような気もするが、それは気のせいだから気にするな。

 アメリカ合衆国の模様替えのほうは、テレビで見るかぎり、みんなでキャーキャーと大変な盛り上がり。皇太子の御成婚パレードや、バチカンで見たローマ法王のスーパースターぶりを思い出す。だからジョー・ウォルシュもマジで大統領になりたがった――のかどうかは知らないが、スターに現実の政治を委ねるのはどんな気分なんだろう。今朝のワイドショーが伝えるところによると、「オバマに対して要望なんかない。彼のやることなら何でも受け入れる」とか言ってるおばさんもいるらしいが、何だかなあ。あの国の人たちこそ、立憲君主制にして権威と権力を分けたほうが落ち着くんじゃないかという気がしなくもないが、気のせいだろうか。ともあれ、ハドソン川でスターになったあの機長さんのように、うまいこと国を着水させられれば拍手喝采。







平成二十一年一月二十日(火) 84.8 kg


切タイマーを切りたいなー
BGM : Triple Play / Lucky Peterson



 真北に面した仕事場は足元がやたら寒くて辛抱たまらず、午前中に吉祥寺へ行き、かねてより懸案だったホットカーペット(2畳)を買ってきた。しかし予定していたスペースに敷いてみると、部屋のドアが引っかかって全開しない(そこまで計算していなかった)し、ふかふかすぎてアーロンチェアが転がらない。椅子が動かないのは大変なストレスだ。しばし天を仰いで放心。しょうがないので、敷くスペースを変更した。結果、かなり大掛かりな模様替えに。CDラックと本棚の移動は、中身の出し入れが伴うので骨が折れるよまったく。椅子の動く範囲に敷かなくなった分、ゴロリと寝そべるスペースが生まれたのは結果オーライでゴキゲンだが、もう4時半だよ。こうして今日も原稿が進まないまま一日が暮れてゆくのだった。

 ところでこのホットカーペット、2時間後、4時間後、6時間後の3つから選べる「切タイマー」がついているのだが、その「切タイマー」自体を切ることができないってどういうことだよオイ。つまり、最長でも6時間後には必ずいっぺん電源がオフになってしまうということである。切れたらまた入れなきゃいけないのである。「うっかり切り忘れても安心!」ということなのだろうが、こうやって機械が世話を焼きすぎるから、世の中うっかりした人間が増えるんじゃないスかね。まあ、よく見ないで買った私が悪いのだが、せめて3時間後、6時間後、12時間後ぐらいの設定にしてくれ。







平成二十一年一月十六日(金) 85.6 kg


日本選手権のことなど
BGM : Up for the Down Stroke / Parliament



 今週初の更新になってしまった。

 日曜と月曜は、仙台で第7回日本視覚障害者サッカー選手権B1大会を観戦。初日は強風のため開会が遅れ、グループリーグ全試合が「10分1本」(当初の予定では10分ハーフ)になってしまったのが選手たちには気の毒だった。

 しかしロースコアにならざるを得ないことが吉と出たチームがなかったわけではなく、ホームの宮城BSCがその筆頭。前回「仙台ZUNDAクラブ」として初出場したチームで、経験が浅いため今回もグループ突破は難しいと見られていたが、3試合をすべて0-0でしのいで2位通過。2日目のプレーオフ(対京都プリティウェル)では初ゴールを決めて1-0で勝利し、地元の天候を味方につけてベスト4進出という快挙を成し遂げたのだった。手に汗を握ったという意味では、この宮城対京都の試合が大会のベストマッチか。京都が乱れ撃つシュートが1本も決まらなかったのは、何か見えない力が作用していたとしか思えない。いや、このサッカーは全体的に「見えない力」によるものなのだが。

 準決勝以降の4試合は、3-0(2試合)、5-0、4-0という一方的な展開になってしまい、やや物足りなかったというのが正直なところである。優勝は筑波のFCアヴァンツァーレ。個々の技術、得点力、結束力など、あらゆる点でチャンピオンにふさわしい図抜けたチームだった。準優勝の大阪ダイバンズも、おもしろキャラ全開で存在感を発揮。試合中のボケとツッコミでギャラリーを笑わせられるのは彼らだけだろう。とりわけ女性GKの「ガッキー」こと西垣選手は、その恐るべき明るさで、この競技の広告塔になり得る逸材だと思う。ちなみに私の体重が増えたのは、もちろん牛たんの食い過ぎによるもの。

 寒風によるダメージで、火曜日はボーっと過ごす。

 水曜日は「SAPIO」のコラムを執筆。担当者から発売中にバレンタインデーがあることを告げられ、それまで考えていたネタをやめて無理やりそちらで書いてみた。腕力をつけるには、たまに「課題作文」をやったほうがよかろうと思ったのである。苦しかった。来週は「わしズム」最終号のコラムが締切。こちらも「最終回」という大雑把な課題が与えられているわけだが、さて、どうしますか。

 きのうの木曜日は、大学時代の友人の御尊父の告別式に参列。以前、私がワールドカップの順位予想大会を主催したときに参加してくださったこともあり、シャレのわかるいいお父さんだなあと思っていた。数年前からのご病気が暮れに悪化して入院、正月は外泊許可を得て自宅で過ごしたものの、再び病院に戻って亡くなったとのこと。入院中の患者が自宅に戻るのを「外泊」と呼ぶのって、ちょっとおかしい気がする。スポーツ観戦がお好きで、正月は箱根駅伝、ラグビー、サッカーなどをテレビで楽しまれたそうだ。「良いお葬式」という言い方は不謹慎かもしれないが、一族の温厚な人柄がそこはかとなく滲み出た、胸に迫るものの多い葬儀だった。ご冥福をお祈りいたします。