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No2 残すということ 
関東甲信越支部保存問題委員会より
1999年10月 
JIAニュース原稿

 関東甲信越支部に保存問題委員会が設置されてから11年経った。僕は5代目の委員長である。 11年を経て委員会では、建築学会の歴史意匠委員会や市民グループと連携をとり、時にはそれぞれのスタンスで 、時には一緒に保存の問題に対処する事が出来るようになった。その一部を報告してみようと思う。

吉田五十八邸が残った

神奈川県二宮町にある吉田五十八邸は、昭和19年五十八自身が直接大工に指示して造らせたもので、設計図は無い。 その後何度か増築されたが、五十八の代表作というだけでなく、日本近代建築の珠玉の作品と言っていい魅力的な建築である。
五十八没後アスキーの西氏に譲渡され、会社の迎賓館として大切に使われてき
たが経済状況が悪化し銀行管理となり、学会や僕たちも保存要望書を出したがついに競売に懸けられる事となった。
 僕は五十八先生のお弟子さんや委員と相談し、二宮町の住民、日本ナショナルトラスト、不動産協会の理事達に集まってもらい、 芸大の前野教授を代表とした<旧吉田五十八邸保存を考える会> を作り何度も集まって残す方法を検討したが、ついに小田原在住の主婦、大塚千代子さんに出会った。競売が不調になったら何とか取得して欲しいと 頼み込み、眠れない日が続いたがとうとう「考える会の人達の熱意にほだされた」と言って下さった。今になって考えると、僕たちが極めてアカデミックに、JIAと芸大OBをバックに行動したことが信頼を得たのだと思う。

伊藤博文邸が萩市に移築
驚くことが起こるものだ。明治の元勲伊藤博文の名が突然目の前に現れ、建て住んだ邸宅が品川区大井にあり、取り壊すという。明治31年に建てられたが、紆余曲折の末昭和19年より光学機器メーカー
のニコンが所有。当時の大邸宅の様式を伝える和洋併館でこの大きな木 造2階建ての邸宅を維持していくには大変な費用がかかるのはよく分かる。
 保存要望書をニコンと品川区に出したが、資金が無いとの理由で拒否された。これは驚くことでもない。そこでせめてもお別れ見学会と茶室で茶会をやらせて欲しいと申し入れたら、 JIAなら良いとのこと、案内を出したら `建文`の福田さんが思いついて萩市に連絡したところ市長が飛んできて、和館部分が萩市へ移築なった。 新聞には解体1週間前の離れ業と報道されたり、雑誌東京人に町づくりの達人と書かれたりしたが、本当の功績者は福田さん。 でも何もやらなかったら無くなっていた。
文化財建築技術研究所の金出さんから、兼松さんの博文邸は完成したの?とつい最近もハガキをもらった。嬉しいことだ。

誠之堂、清風亭を重文に

第一勧業銀行所有の、東京世田谷に在った渋沢栄一縁の建築、レンガ造の誠之堂とRC造の清風亭が渋沢栄一生誕の地深谷市に移築なった。
僕たちが見に行った時は足場が掛かっていて来週から解体するという。東大の鈴木博之教授や僕たち委員会の第一勧銀との折衝もせっぱ詰まっていたが 深谷市長の英断を引っぱり出した建築学会歴史意匠委員の松波さんの功績は大きい。
 深谷市は移築にあたり移築検討委員会を設置したが、建築界から委員長に鈴木博之教授、日大の藤谷陽悦助教授と僕が委員に委嘱された。 詳しく述べる余裕がないが、結果として建築家が加わったのは良いことだったと思う。レンガ造と鉄筋コンクリート造の大ばらしによる移築は日本で始めてのこと、 これからこの二つの建築を重文に持っていきたいがオーセンティシティーの問題で論議が起こるかもしれない。
 僕たちは埼玉地域会と共催で、鈴木教授と施工した清水建設の担当者を招き、深谷市とタイアップして今年度の「保存問題地域大会」を、 二つの建築のある深谷市大寄公民館で行うことにした。この大会には、地域サミットの他、教育委員会と大勢の深谷市民にも参加してもらう。

江戸川アパートメントと東京中郵の事など
上記3件はいわば終わったもの。同潤会江戸川アパートメントと東京中郵を残すことに腐心している。
同潤会代官山は工事中、清砂は再開発が決まり、青山は安藤忠雄氏により改築計画がなされており、鶯谷は解体された。同潤会最後に建てられ 傑作と言われる江戸川アパートメントにも改築計画がある。文化財登録をして欲しい旨要望したが、それを基にして歴史学者と共同で一部でも 残すための研討会を作ることになり、11月4日には江戸川アパートメントの社交室でシンポジウムを行う。 JIAと建築学会をバックにしたこの会に期待すると、管理組合理事長のコメントをもらった。
郵政の建築家吉田鉄郎の代表作「東京中央郵便局」を、重要文化財か文化財登録制度に登録をして欲しいと、文化庁長官と郵政大臣に要望書を提出した。 「残すため」の一つの方法だと考えている。回答に期待したい。

*要望書は、委員長、支部長、地域に在る場合は地域会会長との連名で提出している

  

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