ILLUME 14号(1995) 「考えるデザイン-2」

デザインが映し出すもの

製品が生まれるそれぞれの理由

 生活に使ういろいろな道具や機器はどのようにデザインされ製品化されるのでしょうか。

 まず新製品を作ろうというきっかけがあります。革新的な新規技術開発から生まれる製品があります。生活者のライフスタイルの変化にともない製品を新しく生まれ変わらせる場合もあります。ライバルメーカーが競合製品を出したことで新製品を開発することもあります。外観のスタイルが古くなったので外観だけを変えるケースもあります。またそれらが複合されるケースも多いようです。

 新技術を開発しても、コストが合わなければ世に出ないように、ある製品を商品化する判断は、その企業における経済性、すなわちその製品を作って売ることで、いくら儲かるかが重要です。企業には損は許されないからです。

 そこで、売れるかどうかを少しでも正確に判断するために、ユーザーのニーズ(必要性)やウォンツ(欲求)を調べるさまざまな調査や分析が行われます。幅広く多くの人の意見を聞く方法や、特定の人の生活様式の細部まで詳しく分析する方法などがあります。

patagonia

上・PCRシンチラを使ったベビー・ウォークアバウト。
赤ちゃんを研究した成果が随所に見られる。

下・端切れを使って作ったカメ。
中には再生可能な熱帯雨林の樹木の繊維をつめている。


個性の調査から生まれる没個性

 最近の工業製品、特に日本企業の製品には、企業間の違いが少ないとよく言われます。製品のブランドロゴをはずせばどこのメーカーのものかわからないという声まであります。

 企業固有の技術や目標があるなら別ですが、そうでなければ、各社が同じ方法で生活者に問いかけ調査・分析すれば、同じような結果が得られ、その結果を元に製品づくりをすれば、特徴が均一化されてしまうのは当然です。

 たとえデザインによって企業の個性を表現しようとしても、これでは結局同じ土俵で相撲をとっていることになるわけです。

企業の主張から商品が生まれる

 米国カリフォルニアにパタゴニア(patagonia)というアウトドア用のウェアを作っているメーカーがあります。イボン・シュイナード(Yvon Chouinard)という世界でも一流の登山家が始めた企業です。

 はじめは自分が山に登るために服を作り始めました。耐寒性、強度、動き易さ、体温の調節、軽さ、そして環境に対する負荷の少ないモノ作りなど、彼の信条を形にしたウェアです。

 社員みんなが登山やヨットやフィッシングをするので、誰かにニーズを聞く必要はありません。しかも、機能に優れているだけではなく、色彩も美しく着ることが楽しくなるウェアーばかりです。

 パタゴニアは、一九九三年から、ペットボトルのリサイクルから生まれたPCRシンチラ(PCR=Post Consumer Recycled)と呼ばれる毛布のような素材を使ったセーターを作って評判になりました。そして、驚くことには、そのリサイクルの方法は自社を含む数社で共同開発したものなのに独占せず、広く普及させ、多くの企業が使うことで環境負荷を減らしたいとして、パテント(製造特許)を公開しているのです。その影響からか、日本でも、ペットボトルから作った洋服が出始めました。

次に企業としてできることは何か

 また日本に直営店を出店するに当たり、内装に使用する塗料の成分まで、有害な物質が入っていないかチェックするほど環境問題についてシビアです。

 社内にはグリーンオーディットと呼ばれる環境監査のスタッフがいて、自社の製品やパッケージ、店舗が環境に対してどういう負荷を与えているかを公平に判断しています。

 彼らを中心に、今自分たちにできることは何か、社会に必要なことは何か、を公平な目で判断したうえで、自分達の企業が、その次に何をすべきかを議論しているそうです。

 その結果PCRシンチラの次に、オーガニックコットン(有機栽培の綿)の使用率を高める方針を打ち出しました。

 昔、フォークソングの中に出てきましたがコットンフィールズ(綿畑)は広大な畑で綿花栽培は機械化された産業です。飛行機による農薬散布は莫大な量に上り、綿花収穫の数日前には収穫しやすいように枯葉剤が蒔かれます。数年たつとその土壌は農薬の塩基が浮き出し始め、二度と使えない死んだ土壌になるそうです。広大な土地ですから中を流れる川もあり、近隣住民や小動物達にも影響が大きいはずです。それを自分たちのモノづくりを通して、少しでも改善しようという考えです。

 綿花を栽培していない日本ではなかなか想像しにくいことで、すべての畑が、そこまでひどいのかどうかについては、確認のしようがありません。

 ただ、ここで参考にしたいのは、この事実を公平な目で判断し、自分たちのできることは何かをよく知り、声高には表現せず、生活者に伝える努力を地道にしていることです。そして、自分たちが使い続けることによってのみ、そのオーガニックコットンを作っている生産者を守ることになるという意識を持っている点です。

決めたことだから続けよう

 さらにパタゴニアには子ども服もあります。そんなに多くの子どもが山に登るとは思えません。実は、本社オフィスには多くの子どもを持つ女性が働いていて、託児所があり、そこで育児に関するニーズや子どもの動きなどを実践的に研究し、みんなで楽しく協議して商品を作っているのです。

 子どもを持つ女性を積極的に雇用し、その本質的ニーズと、自分たちが得意な分野とを組み合わせたモノ作りをしているわけです。

 また、製品カタログの片隅に端切れで作ったぬいぐるみがあります。

 洋服は布地に型紙を当てて、必要な部分を切り取ります。服は不定型ですから、どんなに無駄なく取ったとしても端切れは出ます。それをゴミとして捨てるのではなく、何か他に利用できないか、ということでペンギンの縫いぐるみをつくり始めました。元々カラフルなデザインの服の端切れですから、これもかわいく仕上がっています。

 環境というとついストイックになってしまいますが、自分達にできることから進めていき、決めたことは継続的に続けなければ意味がないという姿勢は参考にしてもよいのではないでしょうか。

 生活者のニーズやウォンツを把握することも大切です。デザインによって製品の質を上げることも重要です。しかしそれ以前に企業固有の主義主張が何なのかが大切な時代になっているのではないでしょうか。

 言葉ではなく、モノや人の行動を通して、企業の主義主張が、語られなければなりません。その主義主張があってこそ、企業のそれまでの資産が新しい価値のデザインとして結実するのではないでしょうか。デザインというと、色、形、使い勝手、とよく言われますが、企業の主義主張を映しだす鏡とも言えるのではないでしょうか。


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