コミックマーケット65レポート

清瀬 六朗

12月29日 ― 2日め ―

 今回は本を落とさないだけで精いっぱいだった。どうしてこうなったかというとスケジュールの甘さが主原因だ。WWFの原稿を11月中に仕上げ、12月はそねっとの本の原稿執筆に集中する予定だった。ところが、12月に入って、「本業」の仕事が予想外に忙しくなってしまったのである。けっきょく、予告していた『パタパタ飛行船の冒険』の全話評もオリジナル小説も書くことができなかった。

 2003年はライト兄弟の初飛行から100周年にあたっていた。現実の世界でも「人が空を飛ぶこと」の記念すべき年にあたっていたのである。もっとも、その記念すべき初飛行の場所「キティホーク」を冠した空母はイラク戦争に参加してイラクに爆弾落とすのに大活躍したし、初飛行記念の日にブッシュがその記念の場所に行くと悪天候に見舞われて再現飛行は失敗するし、そのくせその席でブッシュがアメリカ万歳的な演説をぶったらしいし、ま〜あ正直に言うとあんまり幸福な百周年ではなかったと思う。まあ、『パタパタ飛行船の冒険』で描かれていたように、科学技術というのは戦争とか破壊とかに使われることもあるのだ。

 夏のコミックマーケットが終わった段階で、乗り物全般に詳しい鈴谷了さんにライト兄弟初飛行100周年というテーマで何か書いてくれないかとお願いしていた。「人が空を飛ぶこと」をテーマにしたアニメの本を作るのだから、ぜひともそういう内容の原稿を載せたいと思ったからである。幸いにも鈴谷さんには快諾していただき、すばらしい原稿も送っていただいていた(鈴谷さんの原稿はこのページに近日掲載予定)。

 ところがかんじんの私の原稿ができなかった。それで、鈴谷さんの原稿をメインに据え、私が一文を書いて本を一冊仕上げた。これが『L'etonnante aventure (驚くべき冒険) 2』である。

 前日に両面コピーのできるコピー機でコピーを作っておき、帰宅後の深夜に折ってホッチキス留めをして本を仕上げた。仕上がったのはコミケ開始の数時間前だった。それから眠ったりしたので、例によって寝過ごした。べつに間に合わない時間まで眠っていたわけではないが、売り子に来てくださるぺぴさんに「8時には入ります」と告げていたものだからけっこうばつが悪い。結果的にはぺぴさんに無用の焦燥を与えてしまったようだ。ほんと申しわけなかったです。>ぺぴ様

 コミケ関係のスケジュールが無謀になって、締切直前や前日になって目の色変えて焦ったり慌てたりというのは毎度のことである。それはある程度しかたないと割り切っている。直前に「間に合わない〜!」とか「落ちる〜ぅっ!!」とか叫びながらジタバタするのも、終わってみれば「今年のコミケは充実してたなぁ」という「充実」の一部分としていい思い出になってしまう。だからいつまで経っても無謀なスケジュールと訣別できないのはたしかだ。けれども当選したとして年に2回のコミケである。しかも、一回当選すれば次に当選するのはいつになるかわからない。タイガースの優勝みたいなものである。当選したときに全力を賭けておかないとあとでどんな後悔をすることになるかわからない。

 しかし今回だけは楽しんでいる余裕すらなかった。それだけ綱渡りのスケジュールだったのである。

 というわけで、正直に言うとコミケ当日は疲れ切っていた。ところがビッグサイトに入ると気分が高揚して「疲れた〜」という感じが吹っ飛んでしまう。ふしぎな現象である――というか一種の「脳内麻薬」効果みたいなものなんだろう。

 売り子をしていて嬉しかったのは、夏に作った本『L'etonnante aventure』を読んで訪ねてきてくださった方や、『パタパタ飛行船の冒険』を見ていた方でカタログをチェックしてそねっとのブースを訪ねてくださった方が何人もいらしたことである。「夏の本おもしろかったです」と言ってもらえるとほんとに感激するものである。夏の本も落ちる寸前の状態で作った本なのでそれだけ愛着があるのだ。一方で「カタログに書いてある全話評の本はないんですか?」ときいてくださった方もおられて、たいへん申しわけない気もちになった。次回こそはきちんと約束どおりに作らなければいけないと思う。作品やスタッフについてお客さんとお話しできたのも嬉しかった。前回のレポートでも書いたように、コミックマーケットって本を売るだけではなくて、本の作り手と買い手のあいだでこういうコミュニケーションが成り立つところがいいと思う。「マーケット」ってたぶん本来はそういうものだと思うんだよね。

 今回はぺぴさんに店番をしていただいてけっこう買いに出ていた。今回はカタログも会場に入る直前に買ったぐらいで、サークルを事前にまったくチェックしていなかった。で、今回は、知り合いのサークルにあいさつに行ったほかは、買いに出るときにおおよその見当をつけただけでカタログを持たずに見て回り、おもしろそうなものを買うことにした。こうすると、最初のうちは勝手がわからずに財布の紐が固くても、そのうち興が乗ってくるもので、気がついたら片手では抱えきれないぐらい買っていた。ほんの数冊しか買わないつもりで自分のブースを出たので袋のたぐいを何も持っていなかったのだ。西館の歴史物のサークルで、そんな私を見かねて紙袋を恵んでくださった方、ほんとうにありがとうございました! ちなみに、買ったのは歴史物や(二次創作ではない)創作小説やアニメの解説本などで、アニメの解説本にはほんとに作品に愛情を持って作っているのが伝わってくるものがあって、見習わなければと思った。

 一方で、『LAST EXILE』の本とかGAの本とか、最初に回ったときに見当だけつけておいて、昼過ぎに買いに行ってみると、私が欲しいと思ったものは売り切れていたり、サークルそのものが撤収してしまっていたりした。う〜む、売れたんだなぁ……。あと、『姫ちゃんのリボン』〜『赤ずきんチャチャ』〜『りりかSOS』のコーナーがけっこう狭くなっていた。まあ、『姫ちゃん』は放映終了から10年が経っているわけで、あたりまえと言えばあたりまえかも知れないが、コミケへの本格的な初参加のきっかけが『チャチャ』だった私としてはけっこう寂しい。

 「クリスマス暖波」が一段落したあとで寒くなることを予想していたし、実際にシャッターが全開になると寒かったけれど、その寒さも「冬だからこんなもんでしょ」程度の寒さでおさまった。夏とは違って天候には恵まれたコミケだったと思う。あと、『もえたん』を見せてくださってありがとうございました。>ぺぴさん


12月30日 ― 3日め ―

 今日はWWFの売り子である。前日の疲れもあってまたも寝過ごしてしまった。

 今回のWWFの本(『WWF No.27』)は夏に引きつづいて東浩紀さんの「オタク動物化」論批判が中心である。で、配置場所がちょうどその東浩紀氏のサークル(hirokiazuma.com)と同じ島で、私たちが内側の角地、東さんのところが反対側のお誕生席である。東さんのほうは昨日の私以上のたいへんな状況だったようで……まあ詳細は上記の東さんのサイトをご覧になってください。

 なお、WWFの新刊の表紙にはぺぴさんに『カードキャプターさくら』のさくらちゃんとケロちゃんの絵を描いていただいた。「萌え」特集ということで「萌え」な絵を発注したら、期待に違わぬ超「萌え」な絵になりました。ありがとうございました。

 今回は両隣がオタク論・やおい論のサークルだったし、詳細に見てはいないが東さんのサークルから私たちの周辺までオタク論系のサークルがまとめて配置されていたようだ。その相乗効果なのか、それともそれ以外に理由があるのか、たんに入り口に近くて目立つ場所だったからかはわからないが、今回のWWFの本の売れ行きは絶好調だった。昼近くになって外出してアトリエそなちねのP. Zerberus氏と「ラーメン二郎」本の話をしているあいだにほぼ完売してしまい、私が店番に戻ると私たちの持ちこんだ本は完売してしまった。「オタク論」が一分野をなしているというのがいいことなのかどうかは知らないけれど、この「オタク論」の島に関するかぎり、テーマ別のサークル配置は成功していたと思う。

 ただ、やっぱり疲れていたのと、カタログを事前にきちんとチェックしていなかったのとで、買うほうはぜんぜん調子に乗らなかった。

 WWFのブースにはいろいろな人が訪ねてきてくださったし、打ち上げも盛況で、いつものことながら「コミケは人と出会う場なんだな」ということをやっぱり強く感じた一日ではあった。

― おわり ―