L'etonnante aventure

 ※ 「『パタパタ飛行船の冒険』とジュール・ヴェルヌの世界」のページを開設しました。


ヴェルヌと『パタパタ飛行船』と私

清瀬 六朗

 私が「清瀬六朗」という現在の筆名を使ったのは、12年前、ヴェルヌの『悪魔の発明』と『サハラ砂漠の秘密』を原作にした翻案ものを書いたときが最初だった。

 ヴェルヌのこの二つの作品は小学校高学年に子ども向けのリライト版で読み、のちに『悪魔の発明』は角川文庫と創元推理文庫(現在は創元SF文庫)、『サハラ砂漠の秘密』は創元推理文庫(同前)で原作からの翻訳を何度も繰り返し読んだ。大学生のころまでの私の愛読書だった。そこで、『サハラ砂漠の秘密』を基本に、『悪魔の発明』に出てくる高性能爆弾を組み合わせれば、冒険ものに仕上げられると考えて取り組んだのがこの翻案の試みだった。そんな試みを始めたのは、ガイナックスが『海底二万里』と『神秘の島』を徹底して「脱構築」して組み上げた『ふしぎの海のナディア』に刺激されたからだ。後に『エヴァンゲリオン』を作ったこともあってか、『ナディア』は今日では何か影の薄い作品になっているけれども、この『ナディア』の衝撃は少なくとも私にとっては大きいものだった。柄にもないライバル意識も持ったけれども、何より私は『ナディア』という作品が大好きだったのだ。

 私の翻案自体は非常に拙いものだったけれども、「私にもまとまったモノが書ける」という自信がついたのはこの翻案に取り組んだのがきっかけである。この試みがなければ現在の私もなかったと思う(一説ではそれで人生を踏み外したともいう……)。

 だから、同じ作品を原作にする『パタパタ飛行船の冒険』を知ったときには、驚きもしたし、嬉しくもあった。これはほんとうに奇遇であった。アニメ誌を買うことなどとうにやめていた私は本放送のときにはこの作品を知らなかった。知っていたとしても、私の家では衛星放送は入らないので、見られなかっただろうけれども。

 昨年(2002年)の8月、開店した直後の現在のゲーマーズ本店(当時は本店2号館といったかな?)に冷やかしに立ち寄って、GA(『ギャラクシーエンジェル』)グッズを探していたときに「パタパタ」というDVDのタイトルが目に入ったのである。私がGAではミントのファンで「パタ☆パタ」ということばに敏感だったのが幸いした(「恋するレシピ」聴いてください!)。何が幸いするかわからないものである……。

 ヴェルヌの作品というと、『八十日間世界一周』や『海底二万里』、『十五少年漂流記』、そしてせいぜい『神秘の島』あたりが知られているだけで、ペシミズムに傾いていたとされる晩年の『悪魔の発明』・『サハラ砂漠の秘密』はほとんど知られていない。『悪魔の発明』のほうはカレル・ゼマンによって特撮映画化され(この作品の日本公開時のタイトルが『悪魔の発明』だった)、冷戦時代には核兵器を予言した作品として注目されたらしいが、『サハラ砂漠の秘密』のほうはたぶんヴェルヌ作品をある程度まで読み込んだファンしか知らない作品だっただろう。しかし、『悪魔の発明』も『サハラ砂漠の秘密』も、たしかに「ペシミスティック」と言われる暗さはあるけれども、冒険ものとしてはそれより前の作品よりもよく構成されているのではないかと思う。

 なんでその作品がアニメにならないのだろうとずっと私は思っていた。私自身が12年前に翻案を書いたのも、冒険物語の素材だったら、『ナディア』が使った『海底二万里』よりも『悪魔の発明』と『サハラ砂漠の秘密』のほうが適しているのに、という思いがあったからだ。そんなことを考えていて、で、いまになってGAのキャラで『海底二万里』の翻案を書いているというのが、まあ、自分でもわけのわからないところだったりするのだが。

 そんなわけで『パタパタ』のDVDを買ってきて観た。観る前には、原作の読みが浅かったり、作品として出来が悪かったりしたらどうしようという恐れもあったのだが、実際に観るとそれは吹き飛んだ。それで全話の評と解説を書こうと思い立ったのである。

 全話評と解説となると、これももう8年も前に『赤ずきんチャチャ』でやって以来である(『WWF No.13』)。けっきょくその時期とは段違いに忙しくなっていて、今回の本では全話評・解説を盛り込むことができなかった。しかし、そう遠くない時期に、『パタパタ飛行船の冒険』の全話の紹介・評・解説をはじめとして、私がこの作品に接して感じたものをまとめた本を出したいと思っている。