畑に入る(1998.6.10)

畑に入る(1998.6.10)


狭い茄子の畑
雑草は周りに生えて
去年の豆の茎が
なかに2本だけつつましい

青い卵形の実が
擬人化されるのを待っているかのように
ふらふらしている

狭い畑のきちんと並んだ苗のあいだに
草履で踏み込むと
空気は鈍いのんびりとした光を
含んでいる

憩う実たちに
破れジーンズの裾が触れ
僕も眼鏡の縁をキラつかせながら
鈍い日を浴びている

手に軽く握る茄子
遠くの歩道橋の上を
白い帽子を被った女の子が
かばんを回している

赤い血のような日の下に
青いツヤを持つ実のような日が
鈍く埋まっている

それは茄子の毛根が
もうどんよりと安全な腐食した剃刀に
絡み付いていることからわかることで
煙草の煙は
一かたまりになってそのまま
道の向こう側に移動している

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(角砂糖(1998.6.16))次頁(待合室(1998.6.2))

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