UNDERGROUND RESIDENTS
Nonsense Poems in Alice
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ALICE
Director : Jan Svankmajer / Alice : Kristyna Kohoutova
ヤン・シュヴァンクマイエル監督『アリス』 / アリス:クリスティーナ・コホウトヴァー
 
チェコのアニメーション作家、ヤン・シュヴァンクマイエルによる『アリス』(原題『アリスの何か』)。1987年の作品で、アヌシー映画祭最優秀長編アニメーション映画賞を受賞しています。
実写と人形アニメーションによる作品ですが、実写は主人公のアリス(クリスティーナ・コホゥトヴァー)と最初に一瞬出てくるお姉さんだけ。異世界への入り口である引き出しを抜けてアリスが見たものは…。数々の受難を交わしてアリスがどこへ辿り着くのかと思えば、いやー、ラストはまさにブラックの極み。夢落ちとはわかっていても、想像を遙かに超えますよ。

登場人物(?)は、子供部屋に散らかっているおもちゃ箱からあふれた人形やトランプだったり、ハサミやコンパス、インク瓶などの文房具だったりとどこにでもある日常生活雑貨。小さくなったときのアリスはこの部屋にいたお人形だったり、イモムシは薄汚れた靴下だったり。そしてこのお人形アリスはシュヴァンクマイエル監督の『ジャバウォッキー』(1971)にも登場していて、人形たちのちぎれた頭や腕をスルスルッと食べてます(笑)。
そもそも、この子供部屋が薄気味悪い。壁には監督の作品『自然の歴史』(1967)に出てくるような昆虫の標本や得体の知れない生き物の頭蓋骨、それになんとガラス・ケースにはうさぎの剥製が。子供部屋に剥製? このうさぎがアリスを不思議の国へと誘うホワイト・ラビットだなんて。机の引き出しに滑り込む(原作では穴に落ちる)前から、行く先は暗澹として…。

全体的に薄暗く薄汚れていていかがわしい、まさに悪夢という感じですがコミカルでもあります。ブラック・ユーモア。始終不機嫌な表情のアリス(というか無表情ともいえる)に次から次へと降りかかる災難。可笑しい。特に好きなシーンは、涙の池でアリスの頭上に漂流したネズミが火を起こし食料を鍋でぐつぐつ煮るところ。アリスは「やり過ぎだわ」と思うのですが、やーホントに! 何回観ても吹き出してしまいます。
でも“楽しい”という感覚とは明らかに違います。原作やディズニー映画のように歌ったり踊ったりというウキウキするような軽やかな要素は一切ナイですもん。
とにかく主人公のアリスに笑顔はありません。キャロルのアリスにもテニエルのアリスにも笑顔はないから、個人的には正しいアリスの描き方だと思っています。(笑顔なんかなくてもものすごぉく可愛いですし)

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』におけるノンセンスの要素と、ドラッグによる幻覚のような映像。これでもかこれでもかと想像力を刺激してきます。シュヴァンクマイエルによる地下の不思議の世界に、見事に迷い込んでしまうでしょう。
2001.10.09 
  DVD VHS
発売元 日本コロムビア 日本コロムビア
品 番 COBM-5056 COVM5976
発売日 2000.08 1989.07
FILM 1987年 84分30秒 スイス/西ドイツ/イギリス
監 督 ヤン・シュヴァンクマイエル(監督・脚本・美術)
出 演 クリスティーナ・コホウトヴァー / カミーラ・パウアー(声)
  ※国書刊行会『シュヴァンクマイエルの世界』参考
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Photo:国内盤VHS
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Photo:輸入版VHS
 
 
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