1874年7月のある午後、キャロルは散歩の途中にふと浮かんだ言葉を書きとめ、数日後、それを最終行とする四行詩をつくりました。さらに2年経った後、各四行からなる八章のノンセンス叙事詩『スナーク狩り』を書き上げました。その言葉は、詩の最後の一行として、何ともいえない不気味な余韻を残します。
挿絵は画家、彫刻家であるヘンリー・ホリデイ。1876年マクミラン社より出版されました。
『スナーク狩り』は、ある目的のために集められ船に乗り込んだ者たちの物語りです。その目的とは、スナークを捕えること。
スナークは、指ぬきで探すこと。細心の注意で探すこと。フォークと希望で狩り立てること。そして、鉄道株で命を脅かし、微笑みと石鹸で金縛りにしてやるとよい----。
いったい、スナークとは…?
特徴1、薄くてうつろでぱりぱりした味、鬼火のような香り。
特徴2、遅く起きる習慣。朝食は午後5時のお茶の時刻になり晩餐は翌日というほど。
特徴3、冗談に対する感度の鈍さ。冗談をひとつ飛ばせば、悲嘆にくれた吐息をつかれ、洒落には深刻な顔つきをされる。
特徴4、移動式更衣車に愛着があり、絶えずそれを運んでいる。
特徴5、野心家。
さらに、羽があって噛みつくスナークと、髭があって引っ掻くスナークがいて、普通のスナークは害もなく、捕らえたときには野菜を食べさせ、火をつけるのに利用できるそう。ただし、スナークがブージャムだった場合、出くわした者は一瞬のうちに静かに突然消えてしまうというのです!
説明されればされるほど、ナニモノなのか、救いなのか災いなのか、さっぱりわからなくなってきますが、「スナーク」という語源についてキャロル自身は、スネイル(かたつむり)とシャーク(さめ)の「カバン語」と語っていたようです。ほかにも、スネイク(へび)とシャーク、スナール(唸る)とバーク(吠える)などの説もあります。
そんなスナークを捕らえる乗組員たちは、全員“B”で始まる名前(職業名、一匹だけ種族名)を持っています。ベルマン(Bellman)、ブーツ(Boots)、ボンネット製造業者(maker
of Bonnets)、バリスター(Barrister)、ブローカー(Broker)、ビリヤード・マーカー(Billiard-marker)、バンカー(Banker)、ビーバー(Beaver)、ベイカー(Baker)、ブッチャー(Butcher)。
この詩編のテーマが存在(be)と非存在(non-be)だからだという説がありますが、沢崎順之助さんの註訳のなかにひとつすばらしいヒントがありました。それは『不思議の国のアリス』でのアリスの質問と三月ウサギの答えにあったのです。そのやりとりを『スナーク狩り』にあてはめてみると…。
アリス:「どうしてみんな“B”で始まるの?」
三月ウサギ: 「どうして“B”じゃいけないのさ?」
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『THE HUNTING
OF THE SNARK』
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初版本(1876)
表紙(上)・裏表紙(下)
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