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Review: Clinton Walker, Inner City Sound: Punk And Post-Punk In Australia, 1976-1985 (book); Various Artists, Inner City Sound: Punk And Post-Punk In Australia
2007/03/19
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Verse Chorus Press, ISBN1-891241-18-4, 2005, book)
W21cm×H28cm, pp.192
(Laughing Outlaw, LORICS-1, 2005, 2CD)
Produced by Clinton Walker
CD1: tch-tch-tch, Sacred Cowboys, Wet Taxis, Seems Twice, Saints, Leftovers, Last Words, Razar, Thought Criminals, XL Capris, Manikins, Boys Next Door, Seems Twice, Young Charlatans, Young Modern, Triffids, Sekret Sekret, Surfside 6, Voigt/465, Tactics, Whirlywirld, Primitive Calculators, Systematics, Super-K, New Christs, *** ***, Black Assassins, Lonely Hearts; CD2: Equal Local, Laughing Clowns, Poles, Scientists, Birthday Party, GoBetweens, Sunday Painters, Essendon Airport, Severed Heads, Machinations, Sardine, X, Hunters & Collectors, End, Plug Uglies, Apartments, Saints, Lighthouse Keepers, David Chesworth

Inner City Sound は オーストラリア (Australia) の1970年代末の punk シーンと それを承けての1980年代前半の post-punk シーンを捉えたドキュメンタリー本で、 1982年にオーストラリアの出版社 Wild & Woolley Pty. から出版されたオリジナルに 1982-1984年の分を追加し2005年に再出版したものだ。 再出版したのは、雑誌 Puncture を出版していたポートランド (Portland, OR, USA) の US indie rock な出版社 Verse Chorus Press だ。 また、再出版に合わせてシドニー (Sydney, NSW, AU) のレーベル Laughing Outlaw から 同タイトルのアンソロジーCD2枚組がリリースされた。 コンパイルは著者の Clinton Walker だ。 wikipedia によると、 Walker はオーストラリアの放送局 ABC (Australian Broadcasting Corporation) で 音楽番組も手掛けてきている音楽ジャーナリストで、 他に AC/DC の伝記本や Aboriginal country music の本などの著書がある。

ファンジンのような本文デザインの本で、読み易いとは言い難い本なのだが、 白黒ながらファンジンの切抜きや写真がふんだんに使われており、 当時の punk 〜 post-punk の D.I.Y. 的な雰囲気が楽しめる本だ。 巻末にグループごとのディスコグラフィが載っているのだが、 グループの拠点の街 (Sydney, Melbourne, Brisbane, etc) の記載があるのが嬉しい。 マスメディアに乗りづらい alternative/independent な音楽の場合、 街レベルでの地域特性があることが多いからだ。 その一方で、ジャケット写真はほとんど省略されている。

著者の Walker がオーストラリアの punk 〜 post-punk をどう捉えているのか、 その要点を "Introduction" で述べているので、 ここで翻訳引用して紹介しよう。

私が用いたパラメータは何か? 説明するのは難しい。私の判断基準はいくぶん直感的なものだった。 Inner City Sound は 何についての本ではないか述べたほうが良いかもしれない。 Little River Band から Cold Chisel まで "Oz-rock" のメインストリームは、 ここにふさわしくない。 以下の許容範囲の反乱者たちもふさわしくない: 1970年代末に登場した多くの pub band ― Midnight Oil、The Angels、Icehouse、INXS、Mi-Sex ― は "new wave" と見なされたけれども、 彼らがしたことといえば、虚飾しただけだ。 例えば、Midnight Oil は Yes や Jethro Tull のカヴァ−をする長髪のヒッピ−として活動を始め、 (Flowers と呼ばれた頃の) Icehouse は「punk のジュ−クボックス」―笑いものだった。 The Bleeding Hearts は本物の "new wave" だった可能性もあるが、 イングランドの (English) シ−ンにおける pub rock と並行する 伝統的な post-hippy/pre-punk だったと私は見ている (Cold Chisel/Midnight Oil のオ−ストラリア・モデルは除外して)。 Dr. Feelgood や Elvis Costello と同じ様に、 メルボルンの Sports、Paul Kelly、Jo-Jo Zep や シドニーの Mental As Anyhting のようなオーストラリアの波は、 よりツール的なもの、より直接的な影響へ回帰していった。 彼らがユニークだった点は、アートスクール的な突飛さ および/またはキッチュなオーストラリア誌の鋭いセンスだ― 後にいわゆる "ockerbilly" と言われるものになるような。 これだけで一冊の本が書けるだろう。 (XL Capris や Wave Warner の From The Suburbs のようなグループも、 その風刺的な傾向といい、punk よりもこの伝統に近い。)

Midnight Oil や INXS、Icehouse のような 1980年代にメジャーから "new wave" に近い文脈で紹介されたグループと、 The Birthday Party や SPK、Hunters And Collectors、Severed Heads や The Go-Betweens、The Apartment、The Triffids など UK indies もしくはそれにに近い文脈で受容されていたグループ (Inner City Sound が扱っているのはこちら) との文脈位置関係は、1980年代当時から今にいたるまで 自分にはほとんど判らないままだったのだが、 この本を読んでやっと自分の中で整理できたように思う。 あと、そんな中で Dead Can Dance (後述するアンソロジー Can't Stop It! シリーズには 関連音源が収録されている) がこの本で触れられていないのも少々気になった。

同タイトルの CD は本で扱っているグループの音源を集めたアンソロジーだ。 本で扱われているグループのほとんどを知らなかっただけに、 グループあたり1〜2曲とはいえ、こうして音も聴かれるのはありがたい。 Radio Birdman や SPK が収録されていないなど、少々気になる所もあるが。 時代的な感慨もあるし、D.I.Y. 的な雰囲気も悪くないが、 音だけで楽むことが出来るかというと少々厳しいかもしれない。 本と併せて聴くことをお薦めしたい。 CDのリーフレットには、オーストラリアの punk 〜 post-punk グループの 人脈図 (family tree) が載っている。 これは力作だし、本には載っていないので、 本とCDをセットで入手する方が良いかもしれない。 しかし、この人脈図を見ると、このシーンも狭かったのだなあと思う。

ちなみに、オーストラリアの post-punk を扱ったアンソロジーとしては、 メルボルン (Melbourne, VIC, AU) のレーベル Chapter Music による Can't Stop It! シリーズもある。こちらは、2001年に第1集がリリースされた後、 今年に入って第2集がリリースされた (未入手だが)。 このアンソロジーを手掛けている Guy Blackman による 第1集リリース時の裏話も読むことができる。 また、オーストラリアの post-punk に関するウェブサイトとしては、 Australian postpunk 1976 - 1981 が充実している。

[sources]