Liberty Ellman は1990年代にサンフランシスコ (San Francisco, CA, USA) で活動を始め、 1998年以降ニューヨーク (New York, NY, USA) を拠点に、 jazz/improv の文脈で活動する guitar 奏者だ。 ここ5年余り Henry Threadgill のグループ (特に Zooid) のメンバーとして活動している。
この作品には、やはり Zooid のメンバーである tuba の奏者 Jose Davila が参加している。 断片をとっちらかしたような sax のフレーズ、ギクシャクと刻むリズムを、 Ellman と Davila が高音と低音から挟み撃ちする。 その演奏は、Zooid や Threadgill の1990年代のグループ Very Very Circus を思わせるものだ。 特にその面白さが聴かれるのが、オープニングのタイトル曲 "Ophiuchus Butterfly"、 そして、"The Naturalists" や "Looking Up" だろう。
もちろん、Threadgill フォロワー的な演奏以外も聴かせる。 ソフトな sax の音を重ね4ビートに乗せるような展開になるときもあるが、そこは若干退屈だろうか。 むしろ、若干 ambient 臭くはあるが、 synthesizer/sampler でテクスチャを作る "Snow Lips" のような展開をもっと聴きたかった。 また、この作品では分離してしまっているが、 Threadgill 的ギクシャク guitar/tuba アンサンブルに synthesize/sampler をうまく織り込めたら、とても面白くなるように思う。 そういう点で、今後の展開に期待したい。
Davila 以外のサイドメンで注目は Steve Lehman。 Mark Dresser (bass)、Pheeroan Aklaff (drums) との Camouflage Trio でのリーダー作 Interface (Creen Feed, CF022, 2004, CD) でも聴かせてくれた抽象的なフレーズで、 アンサンブルを盛り上げている。
さて、Ellman のルーツともいえる Henry Threadgill の2000年代前半の録音を 音盤雑記帖でレビューしそこなっていたので、 併せて簡単に紹介。
Henry Threadgill はシカゴ (Chicago, IL, USA) の free jazz のコレクテイヴ AACM (Association for the Advancement of Creative Musicians) の創設メンバーとして知られる saxophone/flute 奏者だ。 1990年代は、guitar 2人 (うち1人は Brandon Ross) と tuba 2本 (Edwin Rodrigues と Marcus Rojas) を含む超変則編成グループ Very Very Circus を率いていた (レビュー) が、 2000年代入って始めたグループ Zooid は guitar、tuba 一人ずつとなり Very Very Circus をスリム化したようなグループだ。 2001年リリースのこの作品は、Zooid 唯一のCDリリースだ。 (アナログでは他に Pop Start The Tape, Stop (Hardedge, 001, 2003, LP) がある。残念ながらこちらは未聴。)
Very Very Circus 同様、いや、編成がコンパクトになった分だけ小回りの効く 変則的な編成を生かしたへんてこな jazz が詰まった秀作だ。 Threadgill が saxophone を吹くときはまだ jazz 的なのだが、 flute を吹くときはぐっと folk 的に感じる。 高く舞い上がる flute や saxophone のフレーズに tuba がベースラインというよりカウンターを取り、 oud や cello、時おり banjo のような音色になる guitar の3つの弦楽器が彩りを沿え、 drums はチャカポコとぎくしゃくと変拍子をまき散らす。 ゆったりした展開にひょうきんさを感じる持つ "Tickled Pink" や、 前のめり気味にアップテンポな "Look" や "Do The Needful" が特に気に入っているトラックだ。
楽器の編成や曲作りは Michel Godard や Michael Riessler、Rabih Abou-Khalil といったミュージシャンが 欧州の jazz/imporv の文脈でやっていることに近いようにも思うのだが、 歴史や地域性の重みを感じさせない所がある。 世界のどこでもない所から出てきた jazz/improv 的な前衛 folk/roots アンサンブルだ。 そして、そういった所がとても気に入っている。
Up Popped The Two Lips と同時にリリースされた Threadgill のもう一枚は、 Theadgill にしてはマトモな 5tet Make A Move の Where's Your Cup? (Columbia, CK67617, 1997, CD) に続く2作目だ。メジャー Columbia を離れた直後、独立系からの1作目でもある。 1990年代以降の Threadgill の一番の魅力は Very Very Circus 〜 Zooid のような 変則的なアンサンブルだと思うが、 Make A Move での post-free 的な jazz もかっこいい。 Brandon Ross の guitar が演奏を引き締めているし、vibraphone 使いも新鮮だ。 Tim Berne などにも近い感覚があるように思う。
Henry Threadgill は Everybodys Mouth's A Book と Up Popped The Two Lips の2作以降5年、 CDのリリースが無い。この2作はまだまだ新鮮に楽しめると思うが、 ライブは続けているようだし、そろそろ新作をリリースして欲しい。
ところで、これらのCDをリリースしている Pi Recordings は、 ニューヨークで2001年に設立された独立系レーベルだ。 その最初のリリースが Henry Threadgill だった。 Threadgill や Wadada Leo Smith、Art Ensemble Of Chicago など シカゴのベテランミュージシャンを多く取り上げる一方、 Liberty Ellman、Steve Lehman、Vijay Iyer といった US jazz/improv の比較的若い世代の拠点にもなっている、注目のレーベルだ。