Steve Lacy、Archie Shepp らとの共演で 1960年代初頭から US free jazz/improv の文脈で活動する trombone 奏者 Roswell Rudd が、 モンゴル (Монгол / Mongol) の ブリヤート (Бурят / Buryat) の ミュージシャン5人からなるグループと共演した作品だ。 Toumani Diabate をはじめアフリカ・マリ (Mali) のミュージシャン達と共演した Malicool (Universal (France) / Soundscape Series, 014 801-2, 2002, CD) (レビュー) に続く、Rudd の非欧米のミュージシャンとの共演プロジェクトだ。 ただし、マリで録音された Malicool と違い、 録音はニューヨーク (New York, NY, USA) で行われている。
収録されている曲のうちブリヤートの伝承曲は約半分の6曲 (1, 3, 9, 10, 12曲目)。 ゆったりした曲調のものから馬が駆けるようなリズムの曲まで、 基本的に伝統的な曲の雰囲気を生かしたもので、 弦楽器のアンサンブルに伝統的な木管楽器やホーミー声が乗り、 folk 的なメリスマが軽く効いた高い通る女性の歌声が詠唱する。 それに Rudd が柔らかい trombone の音色添えるという感じだ。 Baldantseren と Rudd の共作の6曲目では、 overtone/throat singing と trombone の improv 的な duo が楽しめる。
Rudd 作の4曲のうち、"Gathering Light" や "Honey On The Moon" は 伝承曲に近い旋律をゆったりめの演奏に載せた曲だが、 "Buryat Boogie" と "Blue Mongol" は jazz との折衷色が濃い。 特に "Buryat Boogie" は doublebass 代わりの morin khur (馬頭琴) と piano 代わりの lochin (dulcimer) で boogie-woogie するのだが、 それがハマっている。 少々際物とは思うが、このアルバムの中で最も気に入っている曲だ。
歌物ではマリの女性歌手 Oumou Sangare の歌 "Djoloren" を取り上げているのだが、 女性歌手のゆったりしたメリスマも普通に馴染んでおり、 クレジットに書かれていなければ気付かないほどだ。 女性歌手ではなく хөөмий (khöömii, ホーミー) で歌う gospel 曲のメドレー "American Round" ("Swing Low Sweet Chariot" 〜 "Coming In On A Wing And A Prayer" 〜 "Amazing Grace") も、 ゆったりしたアレンジのせいか、ブリヤートの伝承曲に自然に馴染んでいる。 こういった消化の良さも面白い。
企画物臭さは否めないのだが、それなりにまとまった作品に仕上がっていると思う。 これで終ることなく、 Malicool とも併せて次の展開を期待したい。