Аукцыон (Auktyon, アウクツィオン) は 1980年代末からロシアのレニングラード (Ленинград (Leningrad), SU)、 現在のサンクトペテルブルグ (Санкт Петербург (St. Petersburg), RU) を拠点に活動する underground/alternative な rock グループだ (ソ連のロックのドキュメンタリー本 アルテミー・トロイツキー 『ゴルバチョフはロックが好き?: ロシアのロック』 (菅野 彰子=訳, 晶文社, ISBN4-7949-5080-2, 1991, book; Artemy Troitsky, Back In The USSR, 1987) にも言及がある)。 そんな彼らの新作は、ニューヨーク (New York, NY, USA) 録音で、 ダウンタウン (down town) 〜 ブルックリン (Brooklyn) のシーンで活躍するミュージシャン達、 Auktyon の歌手 Леонид Фёдоров (Leonid Fedorov) との duo 作も多い jazz/improv で活躍する bass 奏者 Владимир Волков (Vladimir Volkov) をゲストに迎えて制作されている。 良い録音とテンション高い演奏で、今まで聴いたことのある彼らのCDの中でも出色の出来だ。
オランダ (Netherlands) のグループ The Ex や エストニアのタリン (Tallin, Estonia) のグループ Ne Zhdali (Не Ждали) とも似た 東欧的な旋律も感じるギクシャク気味のリズムを持った avant/alt rock をベースに、 tuba や clarinet による brass band 的な要素を合わせ、 Leonid Fedorov が Tom Waits を少し軽くしたような少々演劇的でシャガレた歌声で歌う、という Auktyon の音は相変わらずだ。 いや、録音のせいか個々の音が映えて、格段に良くなっている。 それに加え、ニューヨーク勢の参加も効果的だ。 特に、John Medeski (Medeski, Martin & Wood) のぐいぐいグルーヴする organ や、 時に鋭角に時にエフェクトを効かせて切り込んでくる Marc Ribot の guitar は、 Auktyon のサウンド、Fedorov の歌声によくマッチしている。 緩い展開の曲もあるが、個々の音の鋭さでテンションは失われていない。
Леонид Фёдоров / Владимир Волков / Святослав Курашов, Зимы Не Будет (Leonid Fedorov / Vladimir Volkov / Svyatoslav Kurashov, No Winter To Come; Manchester File, CDMAN049, 2000, CD) (レビュー) を聴いたときに Tom Waits のようだと思ったのだが、 Tom Waits のグループの guitar 奏者でもある Ribot も参加したこの作品を聴いて、 やはり、それも大きく外していなかったな、と思った。 Зимы Не Будет は非常に良い作品だったが、それ以降の Leonid Fedorov / Vladimir Volkov 関連の Улитка (Ulitka) レーベル からの一連のリリースは 制作が甘いのか録音が悪いせいか、悪くはないが掴みどころに欠けると思っていたのも確かだ。 Fedorov / Volkov 関連の録音としても、 Зимы Не Будет 以来の良い出来だ。
この Девушки Поют をリリースしたレーベル Геометрия (Geometry) は、 2003年に活動を始めたモスクワ (Москва (Moscow), RU) の独立系レーベルだ。 第一弾のリリースは Auktyon の歌手 Leonid Fedorov のソロ Лиловый День (Геометрия (Geometry), GEO 001 CD, 2003, CD)。 最近のリリースでは、他に、 Ива Нова, Чемодан (Iva Nova, Chemodan; Геометрия (Geometry), GEO 011 CD, 2006, CD) も良い出来だった。 公式ウェブサイトが無くどのような活動をしているのか判らないのだが、気になるレーベルだ。 また、このレーベルからは、Auktyon の今までの活動をまとめたようなDVDもリリースされている。
ミュージックビデオとメンバーのインタビューからなるDVDだ。 ミュージックビデオは Auktyon のものだけでなく、 Леонид Фёдоров / Владимир Волков / Святослав Курашов, Зимы Не Будет (Leonid Fedorov / Vladimir Volkov / Slava Kurashov, No Winter To Come, 2000) の3曲 ("Жидоголонога", "Что-Нибудь Такое", "Зимы Не Будет") も含んでいる。
ミュージックビデオはライブの様子を捉えたようなものから、 シュールな無言劇のようなもの、手書きアニメーションまで様々だ。 いかにも低予算で、映像として凄いというほどではない。 ただ、日本では情報が少いうえ、生で観ることができる可能性が低いだけに、 DVDで映像が観られるだけでもありがたい。 特に、ボーナスのビデオはソ連時代の1988年 (東欧革命以前) のライブ映像のようだ。
音やCDのジャケット、ウェブサイトから想像していた以上に、 ライブやビデオでは演劇的でシュールなイメージを出していたと判ったのは収穫だった。 それも、シュールのセンスが英米のものとはちょっとセンスが違い 東欧っぽいように感じられたのが興味深かった。 若い頃の Leonid Fedorov のパフォーマンスが goth 的な化粧にひきつったような仕種なのだが、 1980s 初頭の UK new wave (The Cure や Bauhaus あたり) の影響もあったのか、 それとも、ロシア的な道化か演劇の影響なのだろうか。
インタビューはカフェやバーのような所で行われたもの。 ロシア語英語字幕無しで、残念ながら内容は全く判らなかった。
DVDではなくCDでも Auktyon の今までの活動をまとめたものが出ているので、併せて紹介。
2006年の Auktyon のUSツアーに合わせ、 ベスト盤的なアンソロジーがUSのレーベル Circular Move からリリースされている。 最初期の1986年の録音 Вернись В Сорренто の曲から2006年当時の最後の録音だった2002年の Это Мама の曲まで、 さらに、詩人 Хвост (Алексей Хвостенко; Hvost) や Ne Zhdali の Leonid Soybelman を フィーチャーしてのアルバムからの曲まで網羅している。 独立系レーベルとはいえUS盤で、価格も比較的安く、通販等での入手もかなり容易だ。 Auktyon を初めて聴くにはお薦めの一枚だ。
残念なのはブックレットが見開きのみの簡単なものだということ。 各曲が採られたアルバムのタイトルのクレジットは一応あるが、録音/発表年等の記載もなく、 曲・アルバムのタイトルやミュージシャンのクレジットも英語訳/ラテン文字表記のもののみで、 ロシア語/キリル文字表記は一切無い (このレビューではオリジナルのロシア語/キリル文字表記を補った)。 ロシア語歌詞英語対訳が付いていれば嬉しかったのだが、もちろんそのようなものは載っていない。 廉価なベスト盤に求めるものではないのかもしれないが、もう少し丁寧な編纂であればと思う。