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Review: Setsubun Bean Unit, Setsubun Bean Unit
2008/06/01
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Setsubun Bean Unit
Setsubun Bean Unit
(Accidental, AC27CD, 2007, CD)
1)Gujo Ondo 2)Rettsu Kissu 3)Fire Festival 4)Tora San 5)Moon River Is A Swamp 6)Akita Ondo 7)Tsugaru Jinku 8)Lion Dance
Recorded live at The Spitz, London, 2006-01-12. Produced by Pete Flood.
Yuki Yamashita (percussion), Simon King (guitar), Pete Flood (drums), Kamura (vocals), Takuma Kawauchiya (guitar), Gideon Juckes (electric tuba), Brendan Kelly (electric reeds); Kay Oishi, Akiko Sato, Yumi Hara-Cawkwell, Atsuko Kato, Keiko Tashiro (traditional Japanese Bon dance and Ohayashi chorus).

Setsubun Bean Unit は、 イギリス (UK) の jazz/improv の文脈で活動するグループ Farmyard Animals Trio (Pete Flood, Gideon Juckes, Brendan Kelly) を核に、 イギリスの guitar 奏者 Simon King、 そして、日本人ミュージシャンを加えてのユニットだ。 フィーチャーしている女性歌手は、元 水玉消防団、 Frank Chickens (Club Monkey, 1988) で 現在は I Am A Kamura として活動する Kamura (aka カムラ, Atsuko Kamura) だ。 踊り手 (Bon dancers) の一人 Akiko Sato は Murphy No Geisha として活動している。 Yumi Hara Cawkwell (aka 原 由美) は contemporary classical の作曲家として活動する一方、 Hugh Hopper とのプロジェクト HUMI をやっている (今年CDをリリースし、6月には日本ツアーの予定もある)。 この3人は Frank Chickens 〜 Divine Agency 人脈とでもいう顔ぶれだ。

Flood 作の "Moon River Is A Swamp" を除き、 演奏している曲の元になっているのは日本の曲、 それも多くはお祭りの際に歌い踊る民謡だ。 それぞれ、"Gujo Ondo" は郡上踊りの「げんげんばらばら」、 "Rettsu Kissu" は 坂本 九 の「レット・キス」 (さらにオリジナルはフィンランド (Finland) 民謡の「ジェンカ」 ("Letka Jenka"))、 "Fire Festival" は映画『隠し砦の悪三人』に出てくる「山名の火祭り」、 "Tora San" は映画『寅さん』シリーズのテーマ、 "Akita Ondo" は「秋田音頭」、 "Tsugaru Jinku" は「津軽甚句」、 "Lion Dance" はおそらく獅子踊りの曲 (どこのものかは残念ながら判らない) だ。

演奏している音楽は、そういった曲の唄や囃子声を生かしつつ、 少し electronics 入った free/jam 的な jazz の演奏で料理したようなものだ。 特に tuba によるベースラインが良い。 tuba に、時にフリーキーに時に下世話にメロディを唸る reeds と、 時にリズミカルに時に少しとぼけたように響く guitar と vibraphone という 組み合わせは brass band 的だ。 そして、そのグルーヴと音頭の取り合わせがハマっている。 立つ立つづくしのユーモラスな「げんげんばらばら」の唄から 半ば free で funky な展開に雪崩れ込む "Gujo Ondo" や 淡々とした tuba のベースに気持ちよく唄が乗る "Tsugaru Jinku" が特に良い。 一方、dubwise というか psychedelic にヘビーな音の中に唄が漂う "Fire Festival" や 少しオフな囃子声に笛の響に調子っぱずれたノイジーなリズムが重なる "Akita Ondo" の ような brass band 的ではない曲も、全体を締めている。

このプロジェクトのきっかけは、Farmyard Animals Trio が 2005年日・EU市民交流年の イベントの1つとして2005年2月に日本ツアーしたことという。 この時、彼らは、Cicala Mvta と共に カバレット・キネマ @ 東京キネマ倶楽部 に出演したり、 Warehouse (鬼怒 無月 / 大坪 寛彦 / 高良 久美子) とライヴをしている。 Setsubun Bean Unit というグループの名前は、 この来日の際に生で見た節分の豆撒きから採られている。

しかし、グループ名は「節分豆」でジャケットにも "Oni Wa Soto! Fuku Wa Uchi!" とか書いてあるのに、 演奏している音楽は盆踊りで使われるような民謡だったり、 坂本 九 や 寅さんのテーマ ("Tora San") だったりと、節分とは関係無い。 その少しズレた感覚は、 芸者に忍者だった Frank Chickens に近いものがあるかもしれない。 確かに少々際物っぽいけれども、 tuba 使いなどの編曲のセンスも良く音楽的も面白く仕上がっている。

MySpace や YouTube で観られるライブ映像では、 ステージ上で浴衣姿の女性の踊り手が踊っている。 そういうパフォーマンス的な面も Frank Chickens に共通するかもしれない。 ライブで観ると、また面白そうだ。

ところで、リリースしたレーベルは Matthew Herbert のレーベル Accidental だ。 典型的な techno/house/electronica から外れたリリースが多いとはいえ そんな文脈のレーベルからこの手の音楽をリリースするというのも、少々意外だった。