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Review: Tom Verlaine & Jimmy Rip: Music For Experimental Film
2009/03/11
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Tom Verlaine & Jimmy Rip
(Kino International, K538, 2007, DVD(NTSC,0))
1)Man Ray: L'Étoile De Mer (1928, France) 2)James S. Watson & Melville Webber: The Fall Of The House Of Usher (1928, USA) 3)Slavko Vorkapich & Robert Florey: The Life And Death Of 9413, A Hollywood Extra (1928, USA) 4)Man Ray: Emak-Bakia (1926, France) 5)Hans Richter: Rhythmus 21 (1921, Germany) 6)Dimitri Kirsanoff: Brumes D'Automne (1929, France) 7)Fernand Léger: Ballet Mécanique (1924, France)
Assembled from recordings of concerts in Portugal and Spain, except Rhythmus 21, engineered by Fred Smith, recorded at Punjab Studio, New York.

Kino International は1977年にニューヨーク (New York, NY, USA) で設立された映画配給会社だ。 サイレント映画やアメリカ以外の独立系のアート・フィルムを扱っており、VHSやDVDのリリースもしている。 一年余り前になるが、その Kino が1920s Avant-Garde のサイレント短編映画を使った音楽DVDをリリースした。 音楽を付けたのは、1970年代に NY Punk のグループ Television で活動を始めた guitar 奏者 Tom Verlaine と、 1980年代前半に Tom Verlaine のソロアルバムや Kid Creole & The Coconuts などにゲスト参加していた guitar 奏者 Jimmy Rip。 スペイン (Spain) とポルトガル (Portugal) での映画上映に合せてのライブ録音だ。 ただし、Rhythmus 21 はニューヨークでスタジオ録音されている。 エンジニアの Fred Smith というのは、やはり、Television の bass 奏者だろうか (同姓同名かもしれないが)。

演奏は Verlaine らしいディレイやリバーブ、ループを駆使したもの。 サイレント映画のDVDは piano 伴奏が付いていることが多く、最初はこの音楽に少々違和感を覚えた。 Buster Keaton のサイレント・コメディに Bill Frisell が音楽を付けたものを連想させられるが、 Verlaine & Rip の演奏は bass/drums 抜きで浮遊感の強い仕上がりだ。 また、動作に合わせた効果音やセリフを模したような音を出すときもある。 少々ベタなやり方とは思うが、piano などの他楽器の伴奏にはあまり無い、 electric guitar らしい演奏に感じられた。 中でも、エフェクトががった guitar の音もシュールさを際立たせた The Fall Of The House Of Usher と、 リズミカルな演奏がコミカルな展開と会った The Life And Death Of 9413, A Hollywood Extra が、 最も楽しめた。 画面に合わせての疾走感のある演奏が楽しめる Ballet Mécanique や、 軽快な展開になるときもある Emak-Bakia も悪くない。 抽象映画 Rhythmus 21 が、最も合っていないように感じられた。 このような映画では、エフェクトがかった electric guitar の演奏のような音ではなく、 piano 独奏や techno のようなリズミカルなものが合うのかもしれない。

ちなみに、使われている映画のうち The Fall Of The House Of Usher は、 Avant-Garde 2: Experimental Cinema from 1928-1954 (Kino International, K537, 2007, DVD(NTSC,0)) に、残りは全て Avant-Garde: Experimental Cinema Of The 1920s And '30s (Kino International, K402, 2005, DVD(NTSC,0)) に収録されている。こちらは様々なミュージシャンが音楽を付けており、 string ensemble、small combo jazz から synthesizer music まで様々。 比べると、Verlaine & Rip が音楽を付けたものは、 音楽がぐっと表に出てきたように感じる。 Kino International はサイレント映画のDVDを多くリリースしているので、 今後もこのような音楽と合わせた企画のDVDをリリースし続けて欲しい。

ところで、このDVDとの比較として挙げた Buster Keaton の映画に Bill Frisell が付けた音楽は、 Music For The Films Of Buster Keaton: Go West (Nonesuch, 9 79350-2, 1995, CD) と Music For The Films Of Buster Keaton: The High Sign/One Week (Nonesuch, 9 79351-2, 1995, CD) で聴くことができる。 Kermit Driscoll (bass)、Joey Baron (drums) との trio を解散して bluegrass や country の影響強い演奏を始める直前、浮遊感のある演奏が楽しめる。 一方、Kino International は The Art of Buster Keaton DVD Box Set (Kino International, K231, 2001, 11DVD(NTSC,0) box set) リリースしている。このDVDを再生しながら Frisell のCDをかけてみたことがあるが、 普通の再生機器でタイミングを合わせるのは困難だ。 Keaton の映画に合わせた形で Frisell の音楽を付けたDVDがリリースされたらなあ、と、思う。