Taylor Ho Bynum は1990年代末からニューヨーク (New York) の jazz/improv の文脈で活動する trumpet 奏者だ。 (ちなみに、Ho という名前は、おそらく中国系だ。) duo から 12+1tet に至る様々な編成で Anthony Braxton と共演し続けており、 Braxton の Tri-Centric Foundation の評議員も勤めている。 そんな Byrum が Matt Bauder、Jessica Pavone、Mary Halvorson ら 2000年代半ば以降の Braxton のグループでおなじみのミュージシャンを核に 結成したのが、この Sextet だ。
Sextet での1作目 The Middle Picture では、 “In A Silent Way” (Joe Zawinul & Miles Davis) や “Bluebird Of Dehli” (Billy Strayhorn & Duke Ellington) の ようなスタンダード曲を演っているが jazz のイデオムは控えめ。 Bynum の trumpet も、時に高くかすれたような音で抽象的なフレーズを、 時に鳴りの良い音で軽快に飛躍のあるメロディを、吹いている。 熱くならない抽象的な演奏が続ところは、Braxton school らしいかもしれない。
聴き応えがあるのは、2作目の Asphalt Flowers Forking Paths だ。 軽快かつアクロバティックに飛躍のあるフレーズで絡みつつ刻むような trumpet-guitar-drums trio での “Look Below” や、 続く “whYeXpliCitieS (Part I)” のオープニングの 歪んだ guitar の轟音など、緊張感高い演奏は1990年代半ばの Ray Anderson / Han Bennink / Christy Doran の trio を連想させられる。 その轟音の中から静かに始まる viola や clarinet の響きも室内楽的な展開のコントラストも良い。 Braxton っぽい “whYeXpliCitieS (Part II)” を経て、 さらに、“whYeXpliCitieS (Part III)” では、 Pavone の fiddle 風の viola と (おそらく) Halvorson の甲高い guitar の音も 調子外れた country のような展開が楽しめる。 緊張感高い多彩な演奏が楽しめる秀作だ。
Taylor Ho Bynum のサイトの見ると、現在の編成は、 Jessica Pavone (viola) に代わり、 Ken Vandermark のグループでお馴染の Nate McBride (bass) になっている。 bass-less ならではのスカッとした自由度高い音構成も好きだが、 McBride の bass が入って演奏がよりパワーアップしているのではないだろうか。 新しい編成での録音が楽しみだ。
Firehouse 12 は ニューヘイヴン (New Haven, CT, USA; ニューヨークとボストン (Moston, MA, USA) の中程にある街) で 2006年にオープンしたライヴスペース・バー・スタジオのコンプレックスだ。 その設立者 Nick Lloyd と Bynum によって、 2007年にレーベルとしてCDのリリースを始めている。 The Middle Picture と Anthony Braxton 12+1tet: 9 Compositions (Iridium) 2006 (Firehouse 12, FH12-04-03-001, 2007, 9CD) が第一弾のリリースだ。Fred Ho Bynum や Anthony Braxton の界隈のミュージシャンによる jazz/improv のリリースが中心だ。