1970年代半ばからフランス・リヨン (Lyon, France) の jazz/improv シーン (Workshop de Lyon や ARFI(Association à la Recherche d'un Folklore Imaginaire)) で活動する reeds 奏者 Louis Sclavis の ECM からの2年ぶりの新作だ。 ECM からの前作、 L'Imparfait Des Langues (rec. 2005; ECM, ECM1954, 2007, CD) と似た5tet編成で、その延長とも言える音作りだ。 Sclavis らしいフランスの folk/roots や室内楽的な classical の色濃い jazz/improv ながら、 少々変則的ながらリズムがはっきりし、展開が引き締まった佳作になっている。
前のECMの5tetからは2名が代わっている。 reeds 奏者が Matthias Metzger へ代わったが、 Sclavis と2人で少々アクロバティックなフレーズも聴かせる展開は相変わらず。 音の変化の鍵は、前作の electronics/sampling 奏者に代わって bass の Olivier Lété が加入したこと。 浮遊するような電子音の代わりに低音が加わることにより、 グルーヴに近い感覚が表現に加わっている。 オープニングの “De Charybde En Scylla” など、 このような新編成ならではの曲だろう。 軽く少々変則的なリズムは rock 的というよりIDMを通過した post-rock 的にも聴こえる。 重めの bass ながら improv 色濃い展開の “Les Doutes Du Cyclope” も良い。
一方で、このアルバムのテーマは ギリシャ神話のオデュッセウス (Odyssée / Ulysse) ということもあり、 “Bain D'Or” や “Un Vent Noir” のような 軽めのリズムにゆったりとした clarinet のフレーズが乗る 地中海風の folk/roots 風味の曲も耳を捉える。 こういった曲では低音抜きで電子音のアクセントを添えても良さそうに思うが、 新編成ので演奏も良い。
Sclavis が参加した新録新作がもう一作、 Franz Koglmann のレーベル Between The Line からリリースされている。 スイス (Switzerland) の4tet KOJ が サイレント映画 Die Bergkatze (Ernst Lubitsch, 1921) に付けた音楽だ。 Eric Satie の曲 (“Au Bordel”) も演奏しており、 saxophone / violin / piano / tuba というKOJの編成もあって、 こちらは classical な色が濃い。 また、サイレント映画の音楽らしく戦前の swing や tango のような展開を聴かせるときもある。 Sclavis 色濃いという程ではないが、低音に tuba を使っている所など少々面白い所もある作品だ。