TFJ's Sidewalk Cafe > Cahiers des Disuqes >
Review: John Cage: 49 Waltzes For The Five Boroughs (DVD)
2009/07/20
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Mode, 204, 2008, DVD[NTSC/0])
A complete video realisation by Don Gillespie, Roberta Friedman and Gene Caprioglio in 1994-95.

1977年10月6日に Rolling Stone 誌に発表した John Cage のコンセプチャルな作品を Cage の死 (1992年) 後の1994-95年に映像として実現したものが、DVDでリリースされた。

ニューヨーク市 (New York City) の5つの区 (borough)、 ブロンクス (Bronx)、ブルックリン (Brooklyn)、マンハッタン (Manhattan)、クイーンズ (Queens)、スタテンアイランド (Staten Island) の地図の上に描かれた49のくの字の色付き折れ線として作品は構成されており、 後に楽譜として出版された際に49の3つ組の地点の住所が示されている。 147の地点の物音を楽譜に示された組み合わせに従って聴くという、 4′33″ (1952) にも似た チャンスオペレーション (chance operation) の作品だ。

このDVDに収録されているのは、147地点で撮られた音声入りの映像を、 楽譜で示された49の3つ組の順に並べた映像作品だ。 各地点の映像は、固定カメラではなく、 監視カメラのように一定速度で左右に首をふるようにパンさせたもの (いわゆる surveillance shot)。 このカメラの動きが、 その地点の何処を観るかという撮影時の恣意性が薄めていた。 各地点の場の雰囲気に合わせて撮影方法を変えることない surveillance shot の単調な撮影の映像の連続は、 Edward Ruscha: Twentysix Gasoline Stations (1962) のようなコンセプチャルな風景写真のシリーズを観ているかのよう。 街角の物音に耳を傾けるというよりも、そんな映像が楽しめた作品だった。 映像抜きで街角の物音だけ2時間余り集中して聴くとしたら、それはかなり困難なことだったろう。

自分はニューヨークへ一度旅行で行ったことがあるだけで、 この作品で出てくる場所がどんな場所か判る程の土地勘は無い。 土地勘がある人が観たら、もっと面白く感じるのではないかとも、観ていて思った。 そういう意味でも、この作品の自分の住んでいる街、東京のヴァージョンの映像作品を観てみたい。 実際、この作品の楽譜の表紙には、 「チャンスオペレーションを通して147の住所のリストを集め、 さらにチャンスオペレーションで49の3つ組に並べることによって、 他の都市 (もしくは場所) への写しかえを行ってもよい。」 と書かれている。 これに従ってさまざまな街のヴァージョンが作られていったら、 そして、様々な街のヴァージョンを比較して観ることができたら、 それも面白いように思う。