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Review: Musica Elettronica Viva: MEV 40 (1967-2007); Various Artists: Music From The ONCE Festival 1961-1966
2009/07/21
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Musica Elettronica Viva
(New World, 80675-2, 2008, 4CD)
CD1: 1)Spacecraft (1967) 2)Stop The War (1972) CD2: 1)Stedelijk Museum, Amsterdam, Pt. 1 (1982) 2)Kunstmuseum, Bern (1980) CD3: 1)Stedelijk Museum, Amsterdam, Pt. 2 (1982) 2)New Music America Festival (1989) CD4: 1)Ferrara, Italy (2002) 2)Pass. Pike (2007)
Alvin Curran, Frederic Rzewski, Richard Teitelbaum, Karl Berger, Allan Bryant, Steve Lacy, George Lewis, Garrett List, Carol Plantamura, Gregory Reeve, Ivan Vandor.

1967年にローマ (Roma, IT) にいた 現代音楽 (contemporary classical music) の文脈で活動するアメリカ人ミュージシャン Alvin Curran、Frederic Rzewski、Richard Teitelbaum の3人を核に結成された グループが Musica Elettronica Viva (MEV) だ。 1960s年代末のカウンターカルチャーを背景として、 非正統的な安価な自作の電子楽器を使った即興演奏をするグループとして、 1970年代半ば頃まで活発に活動している。 このアンソロジーは MEV 結成40年を記念して編まれたもの。 1970年前後の音源を集めたものではなく、 各ミュージシャンが正統なキャリアに戻った後も時折行っているライヴの音源が多く集められている。 1970年前後の演奏は The Sound Pool (BYG, 529 326 / Actuel 26, 1970, LP) などで聴くことができたが、 このアンソロジーでそれ以降の歩みを聴くことができる。 また44ページのブックレットも充実している。 MEV 登場の背景やその後のミュージシャンの歩みについてのテキスト、写真がまとめられている。

通して聴くと、初期の混沌とした音から、次第に旋律も感じられる聴きやすいものになっていく。 電子音源の進歩も感じられる。 特に、1980年以降の Steve Lacy (soprano saxophone) の参加により、 かなりとっつき易い音になったことが判る。 Lacy や Garrett List (trombone) らが参加して電子音も洗練されたものになった、 ニューヨーク (New York, USA) の Knitting Factory でのライヴ “New Music America Festival” (1989) や Lacy が参加した最後の MEV となった “Ferrara, Italy” (2002) などは、 Lacy や Anthony Braxton が Hat Hut (hatOLOGY) レーベルなどからリリースしている electronics を含めた演奏に連なるものと言っても良いだろう。 そして、これらの演奏の方が聴いていて楽しめた。 もちろん、1970年前後の混沌とした演奏も歴史的に興味深いとは思うけれども。

MEV の最初のコンサートは、1967年3月のローマでの現代音楽のフェスティバル Avanguardia Musicale 2 でだったのだが、 その live electronics に焦点を当てたフェスティバルの全てのコンサートは the Sonic Arts Union (David Behrman, Alvin Lucier, Robert Ashley, Gordon Mumma) による演奏に捧げられていた。 ある意味で the Sonic Arts Union は MEV の先駆であり、また、 the Sonic Arts Union のカウンターとして MEV が登場したと看做すこともできるだろう。 そんな the Sonic Arts Union 関連の1960年代の活動をまとめたアンソロジーが 5年余前リリースされているので、併せて簡単に紹介。

(New World, 80567-2, 2003, 5CD box set)
Composers: Robert Ashley, George Cacioppo, Gordon Mumma, Roger Reynolds, Donald Scavarda, David Behrman, George Crevoshay, Philip Krumm, Pauline Oliveros, Robert Sheff, Bruce Wise.

ONCE Festival は1961年から69年にかけて、アメリカ中西部 (Midwestern US) の ミシガン州アナーバー (Ann Arbor, MI) で開催された現代音楽のフェスティバルだ。 ONCE にはアナーバーの Univ. of Michigan の教員や学生が多く寄与していたが、 大学とは独立した活動だった。 ONCE を始めたのは Robert Ashley、George Cacioppo、Gordon Mumma、Roger Reynolds、Donald Scavarda の5人。 ONCE の活動が終息しはじめた1967年に、 Alvin Lucier と ONCE で活動していた David Behrman に、 Ashley と Mumma が合流した音楽家集団が the Sonic Arts Union だ。

このアンソロジー box set は、 ONCE 関連イベントでの1961-66年の録音をCD5枚に収めたもの。 CDケース大の138ページの本には、 1960年代のアナーバーの現代音楽シーンの展開についてのテキスト、 フェスティバルの写真やプログラムのリスト、作品の図形譜の抜粋などの図版も豊富に収録されている。

ONCE の活動は、楽器の生演奏と磁気テープ音源の融合、 即興とまではいかないものの図形譜による非決定的要素の導入、 映画やダンス、パフォーマンスを合わせた形での分野横断的なコンサートが特徴だったようだ。 そんなコンサートの様子の写真は本に載っているが、 もし残っているのであれば動画で見てみたかったようにも思う。 磁気テープ音源の使い方は特に初期のものなど今から見ればローテクだが、 当時はこう音ものを作ること自体が手間がかかったのだろうなあ、と、 パーティーのざわめきが次第に音響になっていく Robert Ashley: The Fourth Of July (1961) を聴きながら思ったりもした。

ところで、1964年の ONCE Festival では、 jazz の文脈のミュージシャンである Bob James Trio with Eric Dolphy が参加し、 ONCE chamber ensemble と共演している。 その様子の写真は本に載っているのだが、その録音は収録していない。 Eric Dolphy の発掘音源集 Other Aspects (Blue Note, CDP 7 48041 2, 1987, CD) で、その時の演奏から1曲 “Jim Crow” を聴くことができる (ジャケットのクレジットは1962年ニューヨーク録音となっているけれども)。 しかし、この box set のブックレットによると、 Christian Wolff や Philip Krumm の曲も演奏したよう。 それを聴いてみたかったところだけに、少々残念だ。

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