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Review: Курёхин (Kuryokhin) (DVD)
2009/07/26
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Курёхин (Kuryokhin)
(Бомба-Питер (Bomba-Piter), DVDMAN019-08, 2008, DVD[PAL/0])
1)documentary film Курёхин (Kuryokhin; dir. Владимир Непевный (Vladimir Nepevny), 2004) 2)music video “Вот Сверчок, Вот Стручок” (from Детский Альбом; dir. Владимир Непевный) 3)video fragments of Поп-Механика (Pop-Mechanic; 1980-1990s) 4)photo gallery Курёхин

Сергей Курёхин (Sergey Kuryokhin; 1954-96) は、 旧ソ連のレニングラード (Ленинград, СССР)、 現ロシア・サンクトペテルブルグ Санкт-Петербург (Sankt-Peterburg), RU) を拠点に活動したミュージシャンだ。 1970年代にアンダーグラウンドな rock、jazz のグループで piano/keyborards 奏者として活動を始め、 特に1980年代に入ってから、イギリス Leo Records のリリースで聴かれる jazz 関連の演奏、 rock グループ Аквариум (Akvarium / Aquarium) への参加、 そして、自身のプロジェクト Поп-Механика の活動などにより、 ペレストロイカ期のソ連のアンダーグランド音楽シーンの中心的なミュージシャンの一人となった。 このDVDは、Курёхин 死後の2004年に制作された彼に関するドキュメンタリー映画 Курёхин (Kuryokhin) のDVD化だ。 ロシア語の映画だが、日本語を含む7カ国後の字幕が付いている。 リリースはサンクトベテルブルグのインディー・レーベル Бомба-Питер (Bomba-Piter)。 underground/alternative な rock をリリースしているレーベル Manchester Files を 傘下に持ち、jazz/improv 関連のライセンスリリースも多い。

映画 Курёхин (Kuryokhin) は約40分と短いもので、 映画俳優を含む彼の多彩な活動を網羅的に追っているものとは言い難い。 といっても、ドキュメンタリー映画脚本に夫人の Анастасия Курёхинa (Anastasia Kuryokhina) が参加しており、 生前時のインタビューやプライベート時と思われる映像も多く使われ、 ソ連時代の雰囲気も伺われる興味深い内容になっている。 このドキュメンタリーを観て最も印象的だったのは、 Курёхин の自己認識では jazz ではなく rock に音楽的アイデンテティを置いていたということ。 日本を含むソ連外では Leo Records など jazz/improv の文脈を通して紹介されたこともあり、 少々意外だった。 しかし、それを知った後に、 Поп-Механика のパフォーマンスの映像を観ると、 確かに rock 的というか、アメリカのグループ The Residents にも近しい表現にも感じられた。 また、rock と jazz の両方の文脈での活動から、 当時のソ連では jazz も rock もアンダーグラウンドとして近い文脈にあったのだろうか、 と、想像していた。 しかし、このドキュメンタリーによると、明確な棲み分けはあって、 むしろ Курёхин の活動が例外という感じであった。

この短い映画で焦点を当てている Курёхин の活動は、 プロジェクト Поп-Механика だ。 また、ボーナストラックとして、映画中で断片的に使われている Поп-Механика の映像が50分も収録されている。 このDVDで初めてその様子を捉えた映像を観たのだが、 予想以上にハプニング、パフォーマンス的なものであったことに気付かされた。 そのパフォーマンスは新たな表現形式を作り出して研ぎすますというより、 様々な文脈の表現を意外な形で組み合わせたりパロディにしたりするようなもの。 Modernist 的な前衛というより、Surrealist 的な表現と言っていいだろう。 正直、Leo やロシアの Solyd といったレーベルからリリースされた録音を聴いてきて、 それなりに興味深いものの、その音楽をとても良い感じることはほとんど無かった。 しかし、このDVDを観て、パフォーマンス的な面白さがメインだったのだな、と納得した。 Курёхин の面白さを知るには、多くの録音を聴くよりも、 まずこのDVDでパフォーマンスの様子を観た方が良いだろう。 そういう意味も、画質は良く無く、 いつどこのパフォーマンスの録画か不明であるという問題もあるが、 Поп-Механика の映像が 映画本編よりも長い50分も収録されているというのは、非常にありがたい。 むしろ、そちらに見所の多いDVDだった。

ちなみに、このDVDに続いて、Курёхин の音楽を聴くのにお薦めのアンソロジーを挙げるとしたら、 Sergey Kuryokhin: Divine Madness (Leo, CDLR813/816, 1997, 4CD box set) だ。 1980-86年という Курёхин のクリエイティヴピークとでもいう時期に焦点を当て、 その音楽の進化を捉えているからだ。 1984年の最初期の Поп-Механика や、 rock のミュージシャンを多く加えた1986年の Поп-Механика、 Аквариум の Борис Гребенщиков (Boris Grebenshchikov) との Subway Culture (1983) などの、ポイントとなる録音が収録されている。