Andrey Kiritchenko [Андрій Кириченко] は1990年代半ばから ウクライナ東部のハルキウ (Харків, UA; ハリコフ [Харьков]) を拠点に活動する electronic music / sound art のミュージシャンだ。 2000年にレーベル Nexsound を設立、 また、2005-2007年の間はフェスティバル Detali Zvuku を開催するなど、 ウクライナはもちろん、中東欧の実験的な electronic music シーンのキーマンでもある。 そんな Kiritchenko の最新リリースは、ウクライナの folk/roots の4人組 Ojra とのコラボレーション。 民謡的な女性の歌声とアコースティックな楽器の音色、 electronica 的な電子音、それぞれのテクスチャを生かしたアルバムだ。
歌われているのは、全てウクライナ東部の伝統的な民謡 (folk songs) だ。 Ojra の女性歌手 Breslavets の歌声は、民謡的にビブラートかかったり裏返ったりする声で、詠唱を聴かせる。 violin や recorder 風の木管楽器、folk 的な percussion の音は、 歌の旋律を判り易くなぞるというより、フレーズを散りばめテクスチャを作るかのよう。 Kiritchenko の electronics も、ビートを刻む時も無いわけではないが、 テクスチャにもう一つの色を加えるような使われ方が中心。 その結果は、Morr Music あたりからリリースされそうな electronica (indietronica) の 東欧 folk/roots 版とでもいう感じの音だ。 最も耳を捉えたのは、folk/roots 寄りの曲というより、electronica 寄りの曲、 IDM 的なリズムがゆったりした曲に乱入する “Volyky” や、 逆に electonica な音に詠唱や violin、笛の音が取って代わって行く “Na Yordantsi” だった。
Andrey Kiritchenko や Nexsound は 中東欧の independent/alternative の専門のショップ Tamizdat で扱っていたこともあり、 2000年代前半からそれなりに聴いてきたけれども、 音のテクスチャを聴かせるような物が多く掴み所の無さを感じていたのも確か。 folk/roots の音の枠組みを得て、今まで聴いた中で最も取っ付き易い作品だ。