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Review: Phew × Takahashi Yūji (live) @ WWW, Shibuya, Tokyo
2011/05/29
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
WWW, 渋谷
2011/05/28, 19:00-22:00
Phew (vocals), 高橋 悠治 [Takahashi Yūji] (piano, reed organ [学校用足踏みオルガン]); opening act: Sachiko M (electronics).

contemporary classical の文脈の他、1980年前後の 水牛楽団 での活動で知られる 高橋 悠治 の伴奏で 1970年代末の Aunt Sally で活動を始めた女性歌手 Phew が歌う、というライブ。 今までにも既にありそうだが、初顔合わせという。 音弄り等も最小限、即興的な展開もほとんど無しで、MCでの歌の説明もなし。 Bertolt Brecht の歌や 水牛楽団 のレパートリーだった抵抗歌などに、 Eric Satie や Antônio Carlos Jobim も織り交ぜ、 シンプルな伴奏で淡々と歌って聴かせる約1時間半のライブだった。

The Doors: “The End” をオリジナルの英語で歌うなど何曲かの例外はあったが、 Brecht ソング等のドイツ語の歌はドイツ語で、それ以外の歌は日本語で歌った。 レパートリーの多くは抵抗歌だったが、力強く歌い上げるような歌い方ではなく、 声に決然とした強さを秘めながらも少々たどだどしく感じるように途切れ途切れに歌う。 奇を衒ったようなアレンジも無く淡々と。 その結果、抵抗歌にしては内省的、内なる敵に対峙するように聴こえた。 日本語はもちろん、ドイツ語の声の響きが Phew の声色に合っていて、 “Solidaritätslied” 「連帯の歌」などドイツ語の歌の方が力強く感じた。 〆の “Kinderhymne” 「こどもの国歌」では ドイツ語のオリジナルで歌い始めて、後半は日本語で歌ったのだが、 ちょっとハッとさせられるような所が良かった。 個人的な好みもあると思うが、結局、最も楽しめたのは Brecht/Weill & Eisler の歌だった。

学校用足踏みオルガンが grand piano の隣に置かれ、 前半、Brecht の歌2曲 (“Mutter Beimlein” 「バイムレン母さん」と “Grabschrift” 「墓碑銘」) で それを伴奏に使ったのが、とてもハマっていて良かった。 Brecht の歌でこの足踏みオルガンがもっと活躍するのかと期待したのだが、 アンコールでもう一回使っただけだったのは残念。

あと、アンコールで歌った Eric Satie 作の valse chantée “Je Te Veux” 「あなたが欲しい」も、 Phew の声にフランス語の響きが意外と合っていて、 情念的な歌詞もぐっとクールに自省に向かうようで、とても良かった。 こういう歌も、もっと聴きたくなった。 確かにオープニングで歌った “¡El Pueblo Unido, Jamás Será Vencido!” 「不屈の民」 のような歌も好きだけれども、 Brecht/Weill & Eisler や Eric Satie や 同時代20世紀初頭の cabaret songs などにもっと焦点を絞った選曲で聴いてみたい。

最後に、参考までに、会場で配られた曲目リスト (アンコールは含まず) を。 中盤、リストから少々外れたような気もするが、ちゃんとチェックはできなかった。 始めと終わりはリスト通りに歌った。 アンコールで歌った歌は、有名な Eric Satie: “Je Te Veux” 以外は判らなかった。

不屈の民 “¡El Pueblo Unido, Jamás Será Vencido!” (S・オルテガ/キラパジュン 訳:高橋悠治) / 民衆に訴える Klage an das Volk (高橋悠治/F・シューベルト) / バイムレン母さん Mutter Beimlein (K・ワイル/B・ブレヒト) / 墓碑銘 Grabschrift (K・ワイル/B・ブレヒト) / しだれ柳 Rozszumiały Się Wierzby Placzące (W・アガフキン/R・シレンザク) / おやすみなさい (高橋悠治/石垣りん) / 働く母親のための4つの子守唄 Vier Wiegenlieder (H・アイスラー/B・ブレヒト) / 白いハト (ガンマチョン) / ぬかるみの兵士たち Die Moorsoldaten (R・ゴーグエル/J・えっさー, W・ラングホッフ 編曲 H・アイスラー) / 連帯の歌 Solidaritätslied (H・アイスラー/B・ブレヒト) / グノシエンヌ#1#2#3 Gnossiennes (E・サティ/詩の朗読:山本陽子 遺稿から) / モヂーニャ〜フェリシダーヂ Modinha - AFelicidade (T・ジョビン) / 耕す者への祈り Plegaria a un labrador (V・ハラ) / 平和に生きる権利 El Derecho de Vivir en Paz (V・ハラ) / パレスチナの子どもの神さまへの手紙 (高橋悠治) / アラビヤの唄 Sing Me A Sng Of Araby (F・フィッシャー/堀内敬三) / ジ・エンド The End (The Doors) / こどもの国唄 Kinderhymne (H・アイスラー/B・ブレヒト)

オープニング・アクトは Sachiko M。 倍音成分少なめのシンプルな音を組み合わせて鳴らし続けるパフォーマンスは相変わらず。 少し頭を動かすだけでホール内にうなりが発生しているのが判るが、 こういう音は、人が詰まったフロアで立ち尽くして聴くよりも、 人の疎らなギャラリー空間をふらふら歩きながら聴いた方が楽しめるのではないか、と、 つくづく思う。

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