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Review: Marco Cappelli: Extended Meetings II (live) @ Koendori Classics, Shibuya, Tokyo
2013/03/23
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Extended Meetings II
公園通りクラシックス, 渋谷
2013/03/24, 19:30-22:00
1st set “Les Liaisons Dangereuses”: Marco Cappelli (extreme guitar), 小川 紀美代 [Kimiyo Ogawa] (bandoneon); 2nd set “Strings Get Tangled Up Again!”: Marco Cappelli (extreme guitar), 鬼怒 無月 [Natsuki Kido] (guitar), 秋山 徹次 [Tetuzi Akiyama] (guitar).

Marco Cappeli はイタリア・ナポリ出身の guitar 奏者。 改造 guitar を演奏し、 ニューヨークの jazz/improv/avant-garde シーンのミュージシャンとの共演も多く、 主に contemporary classical のレーベル Mode からリリースをしている。 この程度のバックグラウンドしか知らず、前回5年前の来日も観ていなかったので、 明確な旋律やリズムの無い即興演奏のライブになるのだろうと予想していた。 しかし、意外にも、前半はナポリの民謡などを取り上げた folk 色濃い jazz/improv。 強面な改造 guitar も駆使しつつ、ときにフォーキーで繊細な演奏も聴かせる、その振れ幅も楽しめたライブだった。

Cappeli の用いた guitar は2本。1本は classical guitar を改造したもので、 通常の6弦とホール上近くで交わるよう、8コース8弦がボディに斜めに張られていた。 もう一本は、ボディの無いネックだけの6コース6弦ギター様のものに、 ボディの形を縁取ったような細い鋼材のフレームをボディにあるべき位置に、 そして、T字のフレームをヘッドに付け、 そこに共鳴を意図したかのようなスプリングが付けられたものだった。

前半は bandoneon との duo で、使ったのは改造 classical guitar のみ。 まずは、小川 紀美代 の持ち曲3曲。tango ではなく Argentine zamba ということで、 folklore 的な雰囲気からふっと外れる時もあるような演奏も良い感じ。 続いて、Cappelli がタッピングを駆使して済んだ繊細な音色ながら多様な響きを聴かせるソロ。 そして、最後に Eugenio Bennato の在籍したナポリのフォーク・リバイバルのグループ Nuova Compagnia di Canto Popolare が取り上げた19世紀のナポリの歌 “Vulumbrella” を取り上げた。 Cappelli の演奏は、付加した弦も使っていたが 改造 guitar という特異性をことさら強調するようなことはなく、 ループは駆使するもののディレイやディストーションの類は使わず、 むしろ、繊細に地中海を想起させるような folk 色濃いフレーズを繰り出していた。 そんな guitar に bandoneon が合わさるあたり、 Simone Guiducci Gramelot Ensemble や Enzo Favata Jana Project などを連想させられた。 こういう演奏を予想していなかったので、その意外性を含めてとても楽しめた。

後半は guitar 3本による即興で、ある意味で予想していたような演奏。 しかし、秋山 こそ electric guitar で歪んだ音を繰り出していたが、 鬼怒は electric guitar は使わず classical と folk の2本の acoustic guitar を駆使しして繊細なフレーズを引きまくっていた。 acoustic のみの鬼怒の演奏というのは初めて観たかもしれない。 Cappelli も中程で自作ギターを持ち出しスティックで叩いて音を出したりもしていたが、 その強面する形状から想像されるような激しいノイジーな音はほとんど出さず。 むしろ、その弦を弾く時の音色やフレーズ使いは classical guitar を弾いている時に近く、 その見た目とのギャップも面白かった。 さすがに、前半に比べると抽象的な即興だったが、 ノイジーな electric guitar の音も澄んだ guitar のフレーズにコントラストを作り出し、 ふっと folk 的なフレーズが浮かび上がってきたりと、捉え所が多く楽しめる演奏だった。

アンコールは Cappelli のソロ。 具体的な曲名は判らなかったが、どこかで聴いたことがあるような folk 的なテーマ (“Vulumbrella” と同じくナポリの民謡なのではないかと思う) を使ったソロをさっと聴かせてくれた。

ライブの後にウェブサイトをチェックしても、 CDのリリースは即興関係のものばかりで、ナポリの民謡を録音したアルバムなどは無い模様。 folk 的な演奏を充分に楽しんだけれども、 ライブでしか聴くことができない Cappelli の folk 的な面を知ることができたという点でも、 足を運んだ甲斐があったように思う。