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Review: Oval: Calidostópia!
2013/04/14
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(self-release, no cat. no., 2013, DL)
1)Oval + Agustín Albrieu: “Featurette” 2)Oval + Dandara: “Blinky” 3)Oval + Aiace: “Credit Roll” 4)Oval + Maité Gadea: “Glossy” 5)Oval + Andrés Gualdrón (feat. Dandara): “Stealth” 6)Oval + Hana Kobayashi: “Koral” 7)Oval + Emilia Suto: “Oh!” 8)Oval + Aiace: “Alpen” 9)Oval + Hana Kobayashi: “Beige” 10)Oval + Andrés Gualdrón (feat. Dandara): “Bassic Halveplane” 11)Oval + Emilia Suto: “Grrr” 12)Oval + Maité Gadea: “Habitat” 13)Oval + Dandara: “Stop Motion II” 14)Oval + Agustín Albrieu: “Legendary” 15)Oval + Hana Kobayashi: “Credit Line” 16)Oval + Andrés Gualdrón: “Savvy Aeropuerto”

CD等のデジタル媒体特有のノイズのテクスチャを使った glitch と呼ばれる electronica を 1990年代半ばから制作し続けているドイツ出身の Markus Popp のプロジェクト Oval (1990年代は3人組だった) の新作は、 2〜3分程度の短い歌を16曲収録した全部で40分程度のアルバムだ。 南米各地 (コロンビアのボゴタ、ベネズエラのカラカス、アルゼンチンのコルドバ、ウルグアイのモンテビデオ、ブラジルのサルバドールとサンパウロ) の Goethe Institute と Cultural Foundation of the State of Bahia (バイーア州文化基金) の後援による非商業的なプロジェクトの成果ということで、無料でデジタル配信されている。

このブラジル・バイーア州サルバドールで制作されたアルバムでは、南米各地から7人の歌手をゲストに迎えている。 ゲスト歌手の出身国は次の通り: Agustín Albrieu (アルゼンチン), Dandara Modesto (ブラジル), Andrés Gualdrón (コロンビア), Maité Gadea (ウルグアイ), Aiace Felix (ブラジル), Hana Kobayashi (ベネズエラ), Emilia Suto (ブラジル)。 Markus Popp がリリース済はもちろん未リリースの素材を大量に持ってサルバドールへ赴き、 ゲストの歌手と10日間の “blind-date-esque studio session” した (相手に関する予備知識を持たずににセッションに入った、ということだろうか)、 その成果がこのアルバムだという。

Oval のデビュー作 Wohnton (Ata Tak, 1993) が歌入りだったことを考えると原点回帰とも言えるが、 ドラムスのブレイクやエレキギターを弾はじいたような音など楽器音のサンプリングを多用している所など、 むしろ、活動再活発化以降の O (Thrill Jockey, 2010) に収録されているようなトラックに歌を乗せたよう。 実際、“Blinky”, “Glossy”, “Koral”, “Beige” は明らかに O の同名曲がベースになっている。 しかし、聴き比べると、そのまま歌を乗せただけではなくトラックもかなり作り変えていることが判る。

フィーチャーされている歌手はこのアルバムで初めて知った人ばかりだが、 classical な soprano で歌う Emilia Suto 以外は、 ブラジルのMBPやアルゼンチンの現代的なフォルクローレ歌手を思わせるもの。 “Blinky” や “Stop Motion II” でのドラムスのサンプリングの切れ込み方も、 Dandara のゆったりながら強い歌い方の間合いと合っており、生の掛け合いのよう。 Aiace ゆったりした歌声に弾けるような音の断片も guitar の爪弾きのような “Credit Roll”、 ポツポツと引いているようなソフトな音色のシンセサイザーをバックにちょっと囁くように歌う “Koral” も耳を捉える。 ゲスト歌手たちのちょっと憂いを感じる情感が籠った歌声や少々アトモスフェリックになった歌声が、 Markus Popp による断片化された音響に微かに残る感傷と響き合った作品になっている。

公式サイトによると、このアルバムは単なる一時のセッションではなく、ライブなど次の展開も考えているよう。 このアルバムが良かっただけに、次の展開が楽しみだ。

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