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Review: Salome Kammer: Kabarettlieder mit Salome Kammer (live) @ Europa-Saal des Goethe-Instituts Tokyo
2013/06/23
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
『サロメ・カンマーの歌うカバレット☆ソング』
Europa-Saal des Goethe-Instituts Tokyo
2013/06/18, 19:00-21:00
Arnold Schönberg: Brettl-Lieder: “Galathea”, “Gigerlette”, “Der genügsame Liebhaber”, “Mahmung”, “Arie aus dem Spiegel von Arkadien”; Rudolf Nelson: “Mir ist so mulmig um die Brust”; Friedrich Hollaender: “Wenn ich mir was wünschen dürfte”, “Ach lege deine Wange”; Kurt Weill: “Barbara Song”, “Das Lied von der Seeräuber-Jenny”, “Bilbao Song”, “Die Ballade von Mackie Messer”; Hugo Ball: Sechs Laut- und Klanggedichte: “Wolken”, “Katzen und Pfauen”, “Totenklage”, “Gadji beri bimba”, “Karawane”, “Seepferdchen und Flugfische”; Leonard Bernstein: La bonne cuisine: “Plum Pudding”, “Queues de Bouef”, “Tavouk Gueunksis”, “Civet à Toute Vitesse”; Benjamin Britten: Cabaret Song: “Tell me the truth about love”, “Funeral blues”, “Johnny”, “Calypso”; Kurt Weill: “I'm a stranger here myself”, “Tschaikowsky”, “Lonely House”, “Song of the Rhineland”.
Salome Kammer (voice), Rudi Spring (piano).

Salome Kammer は俳優として活動を始めながら、 1990年代以降主に contemporary classical の文脈で活動するドイツの女性歌手。 共演の多い piano 奏者 Rudi Spring はもちろん Michael Riessler らをバックに Cathy Berberian に捧げた Salomix-max (Wergo, 2008) のようなリリースがある。 今回の初来日での東京でのコンサートは、Rudi Spring の piano 伴奏のみで 20世紀前半のカバレット文化に関わる歌を歌うというもの。 Ute Lemper の Berlin Cabaret Songs (Decca, 1996) のような 戦間期のドイツのカバレットに焦点を絞ったものではなく、広めの選曲は アルバム I Hate Music - But I Like To Sing (Capriccio, 2007) がベースになっていたようだ (このアルバムは未聴だが)。 時折曲の説明も交えつつ、発声の技巧をことさら強調することもなく、 むしろ、流石俳優出身と思わせる豊かな表情や身振り。 出だしこそ静かだったけどども、次第に歌の途中でも客席から笑い声がこぼれるようになり、 和やかに盛り上がったコンサートだった。

最初に歌ったのは Arnold Schönberg の Brettl-Lieder (1901) から5曲。 1901年、ベルリンにドイツ初と言われるカバレット Überbrettl [Wikipedia] がオープン。 まだ駆け出しだった Arnold Schönberg は、一時、そこの音楽監督を努めていた。 その時に作った歌が Brettl-Lieder で、全8曲出版されている。 聴くのは初めてで、 Kammer の話によると本人にとてっは黒歴史だったようで死後まで出版されなかったとのことだが、 “Arie aus dem Spiegel von Arkadien” のようなオノマトペを多用したユーモラスで可愛らしい歌を Schönberg が作っていたのか、と。 この後は、Rudolf Nelson と Friedrich Hollaender によるカバレット・ソングに、 Kurt Weill の Brecht ソングと、王道の選曲で前半は終了。

後半の冒頭は、Dadaist Hugo Ball による1916年の音声/音響詩6編を伴奏なしで。 これはもちろん、これが発表されたのがチューリヒの Dadaist の拠点 Cabaret Voltaire ということで、カバレット繋がり。 有名な “Karawane” や “Gadji beri bimba” など何らかのインタープリテーションを CDで聴いたことがあるものもあったけれど、6編まとめてそれも生で聴くのは初めて。 今聴くと素朴な感もあったけれども、身振り等を含めて、その雰囲気を楽しんだ。

この後は、「国際的」にカバレット文化の広がりを示すような選曲。 ブロードウェイ・ミュージカル West Side Story (1957) で知られる (もしくは、指揮者としての方が有名かもしれない) アメリカの Leonard Bernstein が フランス語の料理レシピに曲を付けた La Bonne Cuisine: Four Recipes for Voice and Piano (1948) と イギリスの作曲家 Benjamin Britten の Cabaret Songs (1937-1939)。 Bernstein がレシピを歌にするような言葉遊び的な曲を書いていたのか、と、そんな意外さも感じさせる選曲だ。

そして、最後はアメリカに亡命して、ニューヨーク・ブロードウェイでミュージカル音楽を手掛けるようになった時代の Kurt Weill。 米国亡命後にそういう活動をしていたことは知っていたけど、 Weill で聴いていたのは Brecht 物ばかりでミュージカル作品は初めて。 歌詞を書いているのが Ira Garshwin (George Garshwin の兄) だったりで、ちゃんとした仕事をしていたのだなあ、と。 ドイツに対する皮肉がきいた “Song of the Rhineland” も良いが、 ロシアの人名の独特の響きを使った言葉遊び的な “Tschaikowsky” (いずれの曲も Ira Garshwin 作詞) が Kammer の資質に合っているように感じた。 Leonard Bernstein 取り上げたことと併せて、 カバレットとブロードウェイ・ミュージカルの繋がりを意識したかのような選曲だった。 この後は、残念ながら何という歌かはわからなかったけれども、アンコールも2回歌ってくれた。

テーブルを囲む席でワインを飲みながら聴くコンサートということでカバレットの雰囲気の演出もあったけれども、 Arnold Schönberg のカバレット・ソングや Kurt Weill のブロードウェイ・ミュージカルなど 自分にとっては馴染みの無い意外な選曲で、そこが面白いコンサートだった。

Salome Kammer の今回の来日、 関西ではびわ湖ホールで カバレット物だけでなく Luciano Berio や John Cage も歌う 声楽リサイタルを開催していた。 カバレットも良かったけれども、東京でもこういうリサイタルをやって欲しかった。