Archie Pelago はニューヨーク・ブルックリン (Brooklyn, NY, USA) を拠点に dance music の文脈で活動するトリオ。 生演奏を基本としており、この90分のセットでは Zach Koeber が cello を、Greg Heffernan が sax を生演奏しつつ自身の laptop も使い、 そうして出て来た2人の演奏を Dan Hirshorn がライブでミックスしているという。 dance music と機能するだけのビート感もあれば、 sax や cello のフレーズも断片的ながらキャッチのある旋律を持ち、 live electronics を駆使した jazz/improv としては抽象度は低い。 オープニングなど dubwize だし、 Brandt Brauer Frick を思わせる生演奏 minimal に cello のソロが乗るような展開もあれば、 Four Tet か Kieran Hebden & Steve Reid のような明るい生音の folktronica のようになる時もある。 抽象的な展開ではノルウェーの Bugge Wesseltoft 等に聴かれるような jazz/improv からのアプローチに近くなる。 聴いたこともないような試みという程ではないが、 その音作りといい展開といいセンスの良い jazz/improv 的な生演奏の dance music を展開している。
RA Podcast への参加は、自身のレーベル Archie Pelago Music からの2nd シングルリリース直前、 ということで、自身のレーベルのプロモーションという色合いもあったのだろう。 Sly Gazabo の方はRA Podcast でのセッションに比べてビート感は控えめで、短い曲として作っているように感じられる。 wood percussion のひょうきんな音が印象的な “Avocado Roller” や 流麗な cello のフレーズが活躍する “In The Room” のような明るく軽快な曲が良い。 Breezy Whey / Backflight は むしろDJユースを意識したようなアップテンポな曲で、cello より sax がソロ楽器として活躍している。 ストレートな4つ打ち techno な “Breezy Whey” より、ギクシャクしたリズムの “Backflight” の方が面白い。
その後、最新のシングルは自身のレーベルではなく、NYのレーベル Styles Upon Styles から。 5曲入りでスタイルも様々で一筋縄いかない内容だが、 percussion のトライバルなビートにソフトな sax がたなびく表題曲 “Hall Of Human Origins”、 1990s半ばの drum'n'bass を思わせるビートに cello が乗る “Joyce Drop“ が良い。
過去の音源を網羅的に聴いているわけではないが、遡ってこれらのシングルを聴いている。 こうして聴くと、自身のレーベルを立ち上げての Sly Gazabo から格段に良くなっているように聴こえる。 特に2011年のリリースは、synth の音色にしても少々あか抜けない感もある。 しかし、女性歌手をフィーチャーした “The Fabric” の 疎なテクスチャを織りなすような sax のフレーズと、チープながら細かいビートのコントラスト、 ハイトーンなスキャットと cello が緩いビートに乗る裏面の “Solar Plexus” が良い。
こうして聴いていると、一連のシングルよりも、RA Podcast での90分のセッションの方が遥かに良い。 数分で1曲をまとめるレコードよりも即興で展開していくライブを得意とするグループなのかもしれない。 そういう意味でも、ライブで観てみたいグループだ。
ところで、Archie Pelago のようなグループが出て来た背景について調べていて、 今年の頭に Pitchfork に “The New Electronic Brooklyn Underground” というブルックリンのアンダーグラウンドの新世代を特集する記事があったことに気付いた。 取り上げられているレーベルは次のとおり: L.I.E.S. (Long Island Electrical Systems), Mister Saturday Night, UNO, Mutual Dreaming, Tropical Computer Sound System / Lectric Sands, W.T. Records, Let's Play House。 Archie Pelago は Mister Saturday Night レーベルのミュージシャンとして紹介されている (Mister Saturday Night はアナログのみでDLのリリースが無いので未聴だが)。 音楽の主要な情報源が The Wire 誌や The Guardian の culture 欄、Rough Trade Shop など、 イギリスのメディアばかりで、どうしてもアメリカの動向には疎くなりがち。 しかし、やはりニューヨーク、特にブルックリンには面白そうな動きがあるのだと、Archie Pelago を通して気付かされた。