Awesome Tapes From Africa は、アフリカのカセット音源を発掘し、インターネットで配信しつつCD再発も手がけるアメリカのレーベル。 アフリカでは、1980年代初頭までのアナログレコードの時代の後CDへの移行が進まず、 1990年代にかけて地元で音楽を流通させる主要なメディアがカセットテープとなった。 また、1980年代ば以降といえば、打込みやサンプリングを利用した音作りのデジタル化が進展した一方で、 world music ブームの下でアフリカのポピュラー音楽が欧米向きに制作されるようにもなった時代でもある。 そんな1980年代以降にアフリカ現地で流通した音源に焦点を当てて再発を進めているレーベルとも言える。
自分が Awesome Tapes From Africa のことを知ったのは The Wire (Issue 340, June 2012) の記事で。 それ以来時々、インターネットで公開されている音源を聴いてみたりしていた。 しかし、量が多く玉石混交ということもあり、あまり聴き進められずにいた。 そんな所に Awesome Tapes From Africa 主宰 Brian Shimkovitz を迎えてのイヴェントを知り、 その音源のハイライトをまとめ聴きし、それも大音量で楽しむ良い機会かと、足を運んでみた。 また、ブログ配信やCDでのようにデジタル変換した音源を使うのではなく、カセットテープを使ったDJプレイということで、 そのプレイがどんなことになるのかという興味もあった。
Brian Shimkovitz のDJタイムは21時から約1時間半。 体力温存もあって丁度始まる頃に会場入りしたのだが、フロアはぎっしり人が詰まっていて、DJブースに近づくまで暫くかかってしまった。 自宅のオーディオで聴いていた印象もあり、カセットテープなのでスカスカな音だろうと予想していた。 しかし、思い切り低音をブーストして、すっかりフロア仕様の音になっていた。 シャリっとした高音はまだしも、確かに中音域が潰れて歌声などは聴き取り辛かったが、 カセットテープでこんなにグルーヴィな音が出せるのかと驚いた。 ハイファイではなく、ダンスフロア向けに加工されたかのような音だ。 ピッチコントロールできるカセットデッキを使っていたか判断しかねたが、 クロスフェードする程度で、BPMを合わせて曲を繋ぐようなことはしていなかった。
個々の曲やジャンルを特定できるほど詳しくはないが、 アフリカの特定の地域に絞ることなく、サブサハラアフリカの音楽を広く取り上げていたようだった。 前半はハチロク (八分の六拍子) のリズムを持つ曲が多くかかり、アナログレコード時代のアフリカン・ポップスを電気的に強化したかのよう。 後半になるにつれ electro hip hop や dub の影響を強く感じるものが増えていった。 低音を極端にブーストしていたせいか、ほとんどリズムだけの minimal techno のように感じる時もあった。 アフリカには現地語での rap や reggae も多いはずだが、それが無いのは Shimkovitz の好みだろうか。 ラストには Awesome Tapes From Africa のリイシューの中でも注目度高い ガーナ の Ata Kak をかけて、フロアを盛り上げていた。
このイベントに合わせて Awesome Tapes From Africa Exclusive Mix For Japan 2015 (Harukoma, HK004CD, 2015, CD-R) がリリースされたので、会場で入手した。 トラック名のクレジットも無いリリースだが、イベントでプレイされたとおぼしき曲も含む11曲30分余という内容だ。 自宅で再生してもフロアで聴いた音に比べて物足りないが、Awesome Tapes From Africa の再発を音源の良いテイスターだ。
それにしても、震えるような低音で浴びるように音楽を聴くのも久しぶり。 その音が気持ち良く、約1時間半、踊り続けてしまった。 1990年代から2000年代前半頃まで、時々だがクラブへ踊りに行っていた。 そのサウンドといい、明るい雰囲気といい、1990年代前半に時折足を運んだ reggae のクラブを思い出した。 オールナイトが辛く、立ち続けているのもキツくなって、クラブから遠ざかっていたが、 終電前の2時間程度であれば、たまに足を運ぶのも楽しいかもしれないと思ったイベントだった。