ミュンヘン (München, DE) を拠点に1985年に jazz/improv のレーベル JMT を設立、1995年にJMTの活動を終えた後、Winter & Winter を1997年に設立し、 レーベル A&R として精力的に活動を続けてきた Stephan Winter。 JMT時代には Steve Coleman ら M-Base や Tim Berne、Hank Roberts や Joey Baron などNY Downtownを拠点に活動するミュージシャンによる コンテンポラリーな jazz/improv を積極的に紹介してきていま下が、 Winter & Winter に入り、ルネサンス期から現代に至る classical に幅を広げ、 また、映画の無いサウンドトラックとでもいう AudioFilm のようなコンセプチャルな企画を継続するなど、 独立系らしい個性の強いリリースを続けてきています。
Winter は音楽や映像を使ったインスタレーション作品も手がけているのですが、 2017年の作品 Poem of a Cell の展覧会が日本で開催されました。 このような作品を観るのは初めて。 JMT の頃から現在の Winter & Winter も、そのリリースを好んで聴いてきたので、 Stefan Winter はその音楽の向こうにどんなイメージを見てるんだろうという興味もあって、 21日晩のライブパフォーマンス付きの映像上映 (上演時間約2時間半) を観てきました。 ロビーには田中 多加志による青竹を使った立体インスタレーションと映像のスチルが展示され、 ホールのステージから見て右手の壁に竹のインスタレーションに縁取られた3枚のスクリーンに映像が投影されました。 生演奏はステージ上で行われましたが、時折、そして、エンドロールの際は、スクリーン前に降りてきました。
作品に関する予備知識をほとんど持たずに臨んでいたので、人物の写り込みが少ない抽象的な映像かと予想していたのですが、 明確なストーリーは無いものの、 Noriko Kura [倉 紀子] による “Living Painting” をメインにフィーチャーした、かなり官能的な映像でした。 着色した水や油 (絵具風) を全身にかぶりつつ、フィールドに「アクションペインティング」するかのようなパフォーマンスを多く捉えていました。 ヌードの時もありましたが、主に体のラインが出る白いロング丈のワンピースドレスでのパフォーマンスで、 それが色に染まっていく様子や絵具様の油が流れていく様を捉えていく様は少々フェティッシュにも感じられました。 後半になると、Stefan Winter 自身も “Living Painting” に加わります。 ロケ地はいくつかあったようですが、東アフリカ・ザンジバルでのロケが多く、その浜の美しさが印象的。 明るい昼の海はもちろん月夜の月光を反射する海を遠景の静的な画面で捉えた映像と、フェティッシュな画面が、コントラストとなっていました。 その一方で、廃墟のような建物内も、“Living Painting” の舞台としてマッチしていました。
作品の副題は「愛とエクスタシーの三連祭壇画」。 ユダヤ教のタナハ (Tanakh) の “Song of Songs”、 キリスト教の Mechthild of Magdeburg の “The flowing Light of the Godhead”、 イスラム教の Rabi'a of Basra の “Unity with the Devine” の3つのテキストに基づいていて、 アブラハムの三宗教における神秘主義的な神への愛とエクスタシー的な神との合一がテーマとなっているよう。 しかし、アブラハムの三宗教と直接的な関係がなさそうな日本人アーティストの “Living Painting” をメインにフィーチャーしたり、 特に三宗教の展開の主舞台とは言い難い (イスラム教の周縁かもしれませんが) ザンジバルを主なロケ地としたりと、 テーマと映像との関係に判然としないものを感じたのも確か。 むしろ、テキストを聞き取れずに映像だけ見ていると、もっと世俗的なエロティックな愛、それも普遍的なものというより私的な嗜好を強く感じました。
音楽については、流石に映像作品に付いている音楽を全てライブに置き換えるのは不可能ということで、ライブは jazz/improv 的な部分のみ。 Classical なアンサンブルやザンジバルでの Tarab 楽団の演奏は、録音が生かされていました。 オリジナルの映像作品に参加していないミュージシャン2人、Akimuse と 井野 信義 は On the Path of Death and Life (Winter & Winter, 2013) 繋がりでしょうか。 生演奏ではない状態でのインスタレーションを観ていないのですが、 CD 3枚に分けてリリースされたインスタレーションのための音楽と聴き比べると、 ライブでは歌の jazz vocal 的なニュアンスが強くなるなど、ライブ版ならではの音楽になっているように聞こえました。 あくまでも映像が主役と感じさせる演奏でしたが、 Mikkel Ploug (guitar)、Sissel Vera Pettersen (vocals) とのトリオ Equilibrium で知られる clarinet 奏者 Joachim Badenhorst の演奏を生で聴かれたのは、良かったでしょうか。