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Review: Jon Balke (live) @ Baroom, Aoyama, Tokyo
2025/10/18
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
“Piano with Spektrafon” Sound in Motion, Silence in Layers
Baroom (青山)
2025/10/05, 18:00-20:15.
Jon Balke (piano, Spektrafon, keyboards), 福盛 進也 [Shinya Fukumori] (drums), 白石 雪妃 [Setsuhi Shiraishi] (書 [calligraphy]).

1970年代のArild Andersen Quertetの以来ECMへ様々なグループでのリーダー作を残してきているノルウェーのピアノ奏者 Jon Balke の来日公演です。 前半は、今年リリースしたソロアルバム Skrifum (ECM, ECM2839, 2025, CD) でも用いられた自ら開発したライブ・エレクトロニクス・システム Spektrafon を使ったピアノソロ。 休憩を挟んで後半は Spektrafon は用いず、代わりにキーボードを加え、Balke と福盛とデュオで演奏しつつ、白石がライブ・ペインティングならぬライブ書をするというものでした。

Jon Balke の Spektrafon のHMIはタブレットで、ピアノの譜面台を外し、チューニングピンがあるあたりに置いて演奏していました。 その演奏の様子から想像するに、音声入力をフーリエ変換したスペクトルをリアルタイムでタブレットに表示していて、その画面を撫でると、撫でられた部分の周波数成分が撫でられた大きさに応じて増幅される、というシステムのようでした。 実際の音の変化は、倍音成分が増えてサワリのような響きが増えるというより、リバーブがかかるというか残響が大きくなるよう。 そんな音の変化が際立つような、音の間合いを聴かせるような疎なフレーズを、ソフトなタッチで聴かせます。

福盛 進也、白石 雪妃 を迎えた後半は、白石 のライブの書に目が行きがちでした。 白石の書は文や文字を書くのではなく抽象的なもの。 黒使いは控えめで、薄い青炭や、銀泥、金泥も用い、 穂丈が20cmくらいありそうな細筆を使った草書のようなストローク、穂径が10cmくらいありそうな太筆を使った強くシンプルなストロークに、ドリッピングを交えました。 対称性を崩すように床に広げた3本の白い紙の上だけでなく、 着ていた裾を摺る丈のシンプルな白のノースリーブワンピースドレスへも、書いていました。 最初にほとんど水のような薄墨を使い太筆で描いた円が綺麗でと思っていたのですが、 それが次第に乾いて、最後の方ではほとんど消えてしまうという、 そのような書いたものが消える効果も使っていました。

Jon Balke の演奏も、福盛 のドラムと呼応するように、強いタッチの使いや手数の多い時もあり、起伏のある展開になりました。 また、Balke が度々立ち上がってピアノ越しに白石が書く様子をよく見ていて、 ストロークに合わせて分かりやすくフレーズを繰り出すことはありませんでしたが、 まるで書かれる書に着想するかのように音出しをしていました。

前半の Balke の強調されたピアノの残響や、後半の Henri Michaux なども連想される白石の書のイメージもあって、 静かで落ち着いた展開の中に時折幻想がふっと湧き上がるかのような、そんな約2時間のライブでした。