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Review: 『藤森建築と路上観察』 @ 東京オペラシティアートギャラリー
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/05/06
東京オペラシティアートギャラリー
2007/4/14-7/1 (月休,4/30開), 11:00-19:00 (金土11:00-20:00)

第10回ベネチアビエンナーレ建築展 (10th International Architecture Exhibition, Biennale di Venezia) 帰国展として企画された、建築家 藤森 照信 の展覧会だ。

藤森の展覧会といえば、約10年前に 『藤森照信の野蛮ギャルド建築展』 (ギャラリー間, 1998) (レビュー) があった。 その展覧会では、当時まだ竣工したばかりだった タンポポハウス (藤森照信邸, 国分寺, 1995) とニラハウス (赤瀬川原平邸, 町田, 1997) という、植物が植えられた建築をメインに取り上げていた。 展示の前半「藤森建築」はその続編とでもいうべきものだ。 1998年の展覧会では「野蛮ギャルド」と謳っていたが、 さすがにこの言葉はもう使っていないようであった。

『藤森照信の野蛮ギャルド建築展』でもそれらしき雰囲気はあったが、 「植物を植えられた」という部分が後退したせいか、 建築の構造というよりも壁や屋根、柱、床などの表面の仕上げに対する徹底的なこだわり、 というものに巧く焦点が当たった、面白い展覧会になっていた。 その仕上げに対するこだわりというものは、工業製品が生む均質な表面の排除だ。 植物を植える、というのは、そのうちの一つに過ぎない。 それも、広いギャラリー空間を利用して、非均質な塗壁仕上げや木材加工、 高さ数メートルはある土の塔など、実物が多く展示されている。

植物を植える仕上げの説明では、植物の維持が難しくうまくいっていない、といった内容が書かれていて、 それが植物を植えることから非均質な仕上げへとシフトした一因かもしれないとも思った。 その他の所でも、泥による壁面仕上げの説明で「落ちることがある」と書かれていたり、 かならずしもうまくいっていない点についても率直に書いてあるのが、面白かった。 むしろ、そういう率直な記述に、合理的な設計とは異なる不条理なこだわりや、 その不条理なこだわりを実現するための試行錯誤などが浮かびあがってくるように感じた。

ギャラリー間での展覧会ではビデオが多く、 それも少々受け狙いに感じられて興醒めするところもあった。 しかし、実際の物が展示されていたせいか、ぐっと説得力が増したように思う。 それから10年の実作を通して様々な「特殊仕上げ」を実践してきているということも、 説得力を加えているかもしれない。 そういう点で楽しめた展覧会だった。

展示の後半「路上観察」は、 1986年に彼が中心メンバーの1人となって立ち上げた路上観察学会に関する展示だ。 もちろん、路上観察学会以前の『トマソン』なども取り上げられている。 1980年代後半これらに関する本や雑誌記事をかなり好んで読んでいたので思入れが無いわけではないが、 展示はそれほど面白いとは感じなかった。 当時の雑誌記事や本からなる展示でかなり回顧的に感じたし、 雑誌・本というメディアに合わせた活動だったのかもしれないとも思った。 それに、20年以上経って、こういった視点はすっかり大衆化している (例えば、デイリーポータルZのネタの 多くに同じ様な視点を感じることができる)。 そういう点では、立ち上がりの時期の雰囲気を感じさせる回顧的な展示にならざるを得ないのかな、とも思った。

[sources]