TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Marina Abramovic & Babette Mangolte, Seven Easy Pieces
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/05/06

イメージフォーラム・フェスティバル 2007 の プログラムLとして上映された作品から。

Performed and Scripted by Marina Abramobic. Filmed by Babette Mangolte.
color, 93min, 2007.

Marina Abramovic は旧ユーゴスラビア (Yugoslavia) の (現セルビア (Србија / Serbia) の) ベオグラード (Веоград / Belgrade) 出身で1960年代末からパフォーマンス作品を中心に発表してきている女性アーティストだ。

2005年11月9〜15日の7日間、Abramovic はニューヨーク (New York, NY, USA) の Guggenheim Museum で 7つのパフォーマンス作品を一日1作品ずつ一日7時間に渡って演じた一連のパフォーマンス Seven Easy Pieces を行った。このパフォーマンスは Susan Sontag に捧げられたものである。 この映像作品はこの一連のパフォーマンスを約90分にまとめたドキュメンタリだ。 舞台裏の様子等は全く扱わず、彼女のパフォーマンスと観客の反応だけを捉えている。 ちなみに、上演した作品は以下の7つだ。

  1. Bruce Nauman, Body Pressure (1974)
  2. Vito Acconci, Seedbed (1972)
  3. Valie Export, Action Pants: Genital Panic (1969)
  4. Gina Pane, The Conditioning, first action of Self-Portrait(s) (1973)
  5. Joseph Beuys, How to Explain Pictures to a Dead Hare (1965)
  6. Marina Abramovic, Lips of Thomas (1975)
  7. Marina Abramovic, Entering the Other Side (2005)

最終日の自身による新作を除いて、1960年代末から1970年代前半にかけての 自身を含む様々な作家によるパフォーマンス作品の再演だ。 Bruce Nauman や Vito Acconci の作品などテキストで読むか写真を見たことがあるようにも思うのだが、 再演のビデオとはいえ、こうして動く映像で観ると印象の強さが全然違う。 こういう過去の作品の再演映像のおかげで、 現代アートにおけるパフォーマンス作品のいい勉強になったように思う。 彼女の選択した作品が特にそうだったのかもしれないが、 現代アートにおけるパフォーマンス作品というのは、 演劇やダンスと構造が違って、 彫刻に発するコンセプチャルな立体作品、インスタレーションの延長というか、 そこに作家自身の身体を置いたものといった方がいいものだなぁ、と実感した。

また過去の作品の再演は Abramovic の作品の影響源を観るようでもあった。 特に、床下でマスターベーションしながらマイクで観客に語りかける Acconci の作品における セクシャリティや親密さといったテーマや、 鉄枠の上で横になってロウソクの火に炙られる Pane の作品における 時間展開の無さや自傷的な感じは、Abramobic の作品とも通じるように感じられた。 10年前に観たパフォーマンス Cleaning The House (世田谷美術館, 1997) (レビュー) というのも、なるほどこれに連なるものだなぁ、と。

ドキュメンタリのハイライトは6日目、自身の作品 Lips of Thomas (1975) だろうか。 腹にカミソリで星型に傷を付けていくシーンは正視し難かったが、 赤い星は当時のユーゴスラビア政権の象徴だろうか。 1975年の作品だが、まるで1990年代のユーゴスラビア解体後の一連の内戦や Nato の空爆による 「痛み」を体現しているかのようにも見えたのが、とても興味深かった。

一連の印象な強烈な作品を6作品観た後のせいか、 最後の新作は無難に感じられ印象も薄くなってしまった。 今後の展開が感じられないという点で少々物足りなく感じたが、それは仕方ないだろうか。

[sources]