ベルギー・東フランデルン州ヘント (Gent, VOV, BE) を拠点に活動する ダンスカンパニー Les Ballets C. de la B. の2006年作 VSPRS は、 バレエというよりコンテンポラリーダンス、それも、ダンスシアター的な作品だ。 題名にも採られているように、音楽はバロック音楽 (Baroque music) の Marian Vespers (comp. Claudio Monteverdi, 1610) を jazz rock 的にアレンジしたものだったが、 あまりその音楽の印象は強くなく、むしろ、 精神医学者 Arthur van Gehuchten が1905年に制作した 痙攣や歩行困難などの身体の機能不全を伴う難病患者の短編映画に触発された作品 ということで、 痙攣するような動きや床の這いずり回るような動きを中心に構成されていたことが 印象に残った作品だった。
機能不全な身体というテーマのせいもあってか、 舞台の上であまり大きな動きが感じられず、残念ながら、少々単調に感じられた。 しかし、ダンサーが動けない、というよりも、 舞台に大きく置かれた雪山のようなセットが空間を強く既定しまい、 ダンサーたちの動きで空間が出来ていくのではなく、 すでにある空間の中でダンサーが演じるようになってしまったという面が 強くなってしまったせいのようにも感じた。
しかし、個々のダンサーの動きは悪いわけではなく、 特に最も小柄な女性ダンサーの動きには目を奪われた。 軟体芸やアクロバットのような動きで床を柔軟に動き回るだけでなく、 雪山のようなセットによじ登り吊り輪のような空中パフォーマンスすら見せてくれた。 これはサーカスのバックグラウンドを持つ人に違いないと観ていたら、 バレエの踊りもちゃんと見せてくれた。 非常によく体が動く人で観ていて飽きなかった。 前半に見せた、この女性ダンサーと白シャツの男性ダンサーによる 片手倒立などを交えた軟体アクロバットのような duo も面白かった (残念ながら、公式サイトの情報ではこの2人のダンサーの名前は特定できなかった)。 このような動きは、 1月に観た Zero Degrees (レビュー) での、Sidi Larbi Cherkaoui の動きを思い出させられた。 Cherkaoui が踊っているかと思った程だ。 Les Ballets C. De La B. が得意とする振付なのだろうか。
そういう動きの面白さがあっただけに、 Zero Degrees のようなミニマルな舞台美術で、 その動きをもっと映えさせた方が楽しめたかもしれないと思った。 そういう点はとても残念だった。
ちなみに、音楽はベルギーの jazz rock のグループ Aka Moon の3人と、 ベルギーの古楽アンサンブル Ensemble Oltemontano を中心とする編成による ライブ演奏だった。 (ちなみに、Aka Moon は Rosas の In Real Time の音楽も手掛けていたグループだ。) それも期待していたのだが、 ダンスの動きがあまりダイナミックでは無かったこともあり、 生演奏ならではの、ダンスと演奏の絡みが楽しめたという感じでは無かった。 悪くは無かったが、それも少々残念だった。