森美術館による若手アーティスト紹介する企画 MAM Project の7回目の展覧会は、 ロンドン (London, UK) を拠点に活動する オランダ (Nederlands / Netherlands) 出身の作家の展覧会。 2点の短編ビデオ作品が上映されていた。 その作品は、液滴感、透明感を重視したオブジェの映像に物語のナレーションを付けたもの。 映し出されている映像は、物語を直接的に説明するものではないが、 少々食い違うメタファーのような関係にある。 "Kilowatt Dynasty" (2000) はそれほどではなかったが、 "Placebo" (2002) は、物語とは関係なく液滴感のような質感が面白い一方、 その映像が観客を物語へ引き込むようで、その微妙な距離感が面白い作品だった。
"Placebo" の映像に映し出されているのは、針金の枠で作られた病室のオブジェだ。 その針金枠は透明な液体に浸され、 それとは混ざらない白いペンキ状の液体で膜が貼られている。 それで壁や床、天井、ベッドが形作られている。 ペンキ状の液体は垂れ落ち、膜は不安定に揺らめき泡立つように流れ落ちていく。 重力方向か90度回転され横向になっていることも、 横風に煽られているかのよう。 そんな、白い液体や膜の質感と動きを捉えた映像は、それだけでも面白い。 そして、その映像に添えられた淡々とした女性のナレーションが物語るのは、 看護師の女性が病院内を徘徊していると噂される偽医者と不倫の後、 自動車事故で2人とも重態となり病院で寝たきりになっているという物語の、 主人公による独白だ。 主人公の女性の不確かさ、相手の正体不明さを省みるナレーションが添えられると、 白い膜が崩壊していく映像が心理的な崩壊感を象徴しているかのようで、 その映像から物語に引き込まれていくような感もあった。
一方、液体に半ば浸されたガラスのオブジェの映像を使った "Kilowatt Dynasty" は、 "Placebo" ほど映像に動きが無く面白く無かったこともあるのか、 残念ながら、添えられたナレーションによる物語が頭に入ってこなかった。
森美術館 MAM Project の展示が良かったので、 新作 "Deadline" (2007) を展示しているこちらも観てきた。
"Deadline" は作家の西アフリカ4週間滞在の取材・体験に基づいて制作された作品だ。 粗い表面と石の彫刻と、バッグ等で使用される鱗状の表面を持つ紐が、 この作品の基調となる質感だ。 最後の方に人形が出てくるのが、森美術館で観た2作品も含めて異質な印象を受けた。 ナレーションは西アフリカで聞いた100年程昔の話と現在の話が織りまぜられたもの。 ナレーションが聞き取り辛い英語だったのは、アフリカ訛だったのかもしれない。 映像が少々ステロタイプなアフリカのイメージにハマっているような気もしたが、 その映像の質感は "Kilowatt Dynasty" (2000) よりは良かったが、 "Placebo" (2002) 程ではないようにも思った。
Wolbers は、非常にコントロールされた照明・撮影で 実写にもかかわらずコンピュータ・グラフィックスのような映像を作り出している。 Matthew Barney の Cremaster シリーズ (関連レビュー) あたりからではないかと思うのだが、 アートの文脈での映像作品は、編集技法に凝ったりメタを指向するよりも、 質感へのこだわりを感じさせる作品が多くなっている。 そんな中でこの Wolbers の作品は この質感へのこだわりを突き詰めており、そこがとても良い。
ギャラリーの方の話によると、 これほどのコントロールされた撮影にはとても時間を要するそうで、 "Deadline" の18分程の映像の制作に2年程の時間をかけているとのこと。 あと、"Placebo" は水中で白く着色した油を使って撮影したそうだ。
(2008/04/30追記)