所沢市にゆかりのある美術作家の発案により始まった自主企画のグループ展。 ビエンナーレで継続して開催する計画のようだが、 『引込線』は第一回ではなくプレという位置付けのようだ。 会場は鉄道車両工場の使用されていないスペースを使用したもの。 屋根付きの倉庫・工場といった高さ10m弱で20m×40m程度のスペース2面に 平面、立体のいずれも含む28点の作品が展示されていた。
スレートや合成樹脂の波板を使った薄汚れた壁がノイジーな上、 天井の透明な波板からの自然光と工場用の照明だけということもあり、 平面作品は背景のノイズに埋もれがちで、あまり良い展示環境でないと感じられた。 こういう展示環境に合っていると感じたのは、 チェンソーで削った木を並べた 戸谷 成雄 「ミニマルバロックIV「双影景」」 (2008) や 高さ10cm程で微妙にテクスチャと高低をつけた3m四方程の鉄枠を床置きした 多和 圭三 「景色 —境界—」のような、 post-もの派 的な作品だった。
最も印象に残ったのは、手塚 愛子 「skim - tbv」 (2008)。 幅1.2m 長さ6.5m の白い布に 水を受けるように合わせた両手の形の線描を刺繍したもの。 その線のあちこちからほつれたかのように糸が垂れ下がっているのだが、 それが、両手から流れ落ちた液体のよう。 刺繍に使われた糸の色が、水を思わせる青系統の色でも血を思わせる赤でもなく、 ショッキング・ピンクだというのも、 意味を持たせずに形の面白さに意識を集中させるような所があり、良かった。 少々暗めの空間の中に、白地にショッピングピンクという色が浮き立っていた。 もう一点「織物をほどく- peel」 (2008) も9m×3mということで迫力は楽しめた。
会場が工場ということもあり、 その空間を生かした大がかりなインスタレーション作品もあるかもしれないと期待していた。 手塚 愛子 であれば 「薄い膜、地下の森」 (スパイラルガーデン, 2007; レビュー) のような作品のような。 しかし、実際の展示は、 美術館や普通のギャラリーでの展示を前提とした作品を並べたという感じ。 これも「プレ」ということもあるのかもしれないが、 ごぢんまりした展覧会という印象も受けた。これは、少々残念だった。