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Review: 『僕らのミライへ逆回転』 (Michel Gondry (dir.), Be Kind Rewind) (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/11/05
2008 / USA / 101min. / colour
Directed by Michel Gondry.

1990年代に music video の監督として知られるようになったフランス人監督 Michel Gondry によるコメディ映画だ。 舞台はニューヨーク (New York, NY, USA) 郊外の街 Passaic, New Jersey、 DVD化に付いていけない老人や下層住民を相手としている ジェントリフィケーションでの取り壊し寸前の古ぼけたビデオ・レンタル店だ。 磁化した常連客のせいでレンタル用ビデオの中身が消えてしまった事故をきっかけに 制作したチープにリメイクしたビデオ映画が客に受けて、 ビデオ店をとりまく街のコミュニティが再生する、 という、その顛末をコミカルに、そして少々感傷的に描いた映画だ。 ちなみに、チープにリメイクした映画ビデオを 客に「スェーデン製」とでまかせでごまかそうとしたことにちなんで、 そのようにリメイクされたことを "Sweded" と映画内では呼んでいる。

映画を観る前から、 YouTube の公式チャンネル で公開された "Sweded" 映画や、 この映画に影響を受けて様々な人たちによって制作された "Sweded" 映画の映像を観て、 それをとても面白く思っていた。 そして、"Sweded" な映画やその制作シーンを楽しみに映画館へ足を運んだ。 確かにそういうシーンもそれなりにあったけれども、 全体としては、昔ながらの人情味のある都市下層コミュニティを舞台に 貧しいがならの地元密着型のDIY主義を謳う人情コメディという面が強いものだった。 確かに、"Sweded" なビデオが街に受け入れられる過程があまりに簡単で葛藤が無く 御都合主義的と感じた。 しかし、Hollywood 映画の大作主義・商業主義に対するオルタナティヴとしての 地元密着型のDIY主義というのもよく判るし、 ジェントリフィケーションで消えようとしている街への感傷を含む人情噺も好きだ。 Mos Def 演じるお人好しな主人公のキャラクターもツボにはまった。 充分に楽しんで、そしてエンディングでは思わず涙して観ることができた映画だった。

しかし、映画の中で最も印象に残ったのはやはり "Sweded" がらみの所。 特に、様々な映画の代表的なシーンを "Sweded" したものをワンショットで繋いだ所が、 強烈な印象を残した。 "Sweded" のアイデアを次々と繰り出してくるところはもちろん、 それをトリッキーな繋ぎでワンショットで撮っている所が凄い。 Gondry 監督が Massive Attack feat. Tracey Thorn, "Protection" の music video で見せた、 セットとカメラの動きをパズルのように組み合わせた複雑なワンショットを 連想させられた。 Gondry の music video との関連といえば、 車窓の風景とビートが同期する The Chemical Brothers, "Star Guitar" の music video と、 構想時に作った果物やフォーク、本、グラスなどで作ったモデル (The Works of Director: Michel Gondry (Directors Label, 2003, DVD) 所収) が、ちょうど "Sweded" と逆の関係にあるというのが、とても興味深く感じられた。