Turner Prize 2005 の Shortlist で知られるスコットランド (Scotland) の作家 Jim Lambie の個展だ。 床にテープを貼り詰めたインスタレーションなど 彼らしいとは思ったが、少々物足りなく感じる展覧会だった。
今回の個展でも、一階と二階のギャラリー空間と廊下、そして階段の床を テープで貼り詰めていた。 白黒の縞模様を基調としたものだが、壁のラインに沿って規則的に貼るものではなく、 波模様もしくは不規則にモップをかけた後のような扇状の模様が床を覆っていた。 去年の夏に『メルティング・ポイント』展で観たときは、 広いギャラリー空間にテープのストライプが遠近感や平衡感覚を狂わされるような 感覚を作り出していた。 今回の展示における白黒のコントラストの強い縞も、陰影を目立たなくしており、 同様に感覚を狂わせる所があった。 私邸だった洋館を改装した今回の原美術館の空間は壁や天井が近く、 狂った感覚が補正されがち。 それでも、テープの縞に覆われた階段は、 登るのが不安になるような所もあり、面白かった。
その一方で、床や天井の立体作品や壁の平面作品は、あまりピンとこなかった。 削られた面を下に床に置かれたコンクリートのキューブは、テープの波間に沈むよう。 確かに、コントラストの強いテープ縞によって狂わされた視覚の水面に 浮かんでいるようであり沈んでいくようにも見える所が面白かった。 しかし、それが、アナログレコードを固めたものである必然があまり感じられなかった。 ミニマルにコンクリートキューブでやった方がスマートに見えたかもしれない、 とすら思ってしまった。
ちなみに、Jim Lambie は1980年代半ばに indie pop グループ The Boy Hairdressers のメンバーとしても活動しており、 今回の展覧会のタイトルも post punk グループ Joy Division が1979年にリリースした 1stアルバムのタイトルと同じだ。 しかし、そのアルバムの内容を思わせるような作品ではない。 作品のタイトルにもイギリスの indie 寄りの pop/rock からの引用と思われるものがあったが、 そのオマージュという程でもなく、ポップな言及に近いもののように感じた。
ミュージアム・カフェ Cafe d'Art の展覧会出展作品イメージケーキは、 美術館入口すぐのギャラリーの天井に設置されていた、 いくつかの手鏡を棒でつないで、鏡以外の部分に目の写真を貼りつめた 立体作品をイメージしたバルサミコ酢のムースだ。 酢の酸味はほとんど飛んでいたが、バルサミコの香りから酢を味が感じるようで、 ちょっと不思議な味だった。