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Review: 『メルティング・ポイント』 @ 東京オペラシティアートギャラリー
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/08/12
東京オペラシティアートギャラリー
2007/07/21-10/14 (月休;月祝の場合は翌火休;8/5休), 11:00-19:00 (金土11:00-20:00)
Jim Lambie, 渋谷 清道 (Kiyomichi Shibuya), Ernesto Neto

スコットランド (Scotland, UK) 出身の Jim Lambie、 日本の 渋谷 清道、 ブラジル (Brazil) の Ernesto Neto の3人を合わせたグループ展は、 空間全体を使って観客を包み込むようなインスタレーションを集めた展覧会だ。

会場を入ってすぐのギャラリーは Turner Prize 2005 の Shortlist となった際の展示にも似た Jim Lambie のインスタレーション。 壁に並行なラインで金銀白黒4色のビニールテープを床に貼り詰めたインスタレーション Zobop (Gold, Silver, White, Black) (2007) は、その不自然にコントラストの強い縞に遠近感や平衡感覚を狂わされたような感じで、 ギャラリーに入ると軽くくらっとする。 壁や天井にまで貼りつめていない、というのも、足元だけ流動しているような感じになって良いように思う。 その上に置かれた身の回りのものをモチーフとした立体作品はそれほど面白いは思わなかったが、 床のコントラスト強いインスタレーションのおかげで影が感じられず、 置かれているというより、 GCっぽく浮いたように配置されてるように見えるのが面白かった。 そういう点では、立体作品も置かれている方が良いようにも思った。

余談だが、Jim Lambie は1987年に 53rd & 3rd からシングル Golden Shower (53rd & 3rd, AGARR 012, 12″, 1987) をリリースした indie pop グループ The Boy Hairdressers のメンバーだった。 このグループは、 Norman Blake (BMX Bandits, Teenage Funclub)、 Francis MacDonald (BMX Bandits, Teenage Funclub)、 Joe McAlinden (BMX Bandits, Groovy Little Numbers, Superstar) が在籍したグループとして伝説的に知られる。 CD86: 48 Tracks From The Birth Of Indie Pop (Castle / Sancturary, CMEDD1420, 2006, 2CD) に、"Golden Shower" が収録されている (当時の indie pop についての関連発言)。

しかし、一番気に入ったのは Ernesto NetoIt Happens In The Horizon Of Events, Garden / Acontece No Horizonte De Eventos, Jardim) (2001/2007)。 (人の身長にも依るが) 肩くらいの高さと顔の真中ほどの高さに水平に 2枚の布がギャラリー半分に強く張られている。 布には所々に人が頭を突き出せるほどの丸い穴が空けられており、 また2枚の布は、所々、布の円筒で繋がれている。 円筒の丸い口は開けられているので、太い円筒であればそこから頭を出すこともできる。 また、下段の布には所々小石がまとまって置かれ、それが微妙な起伏も作っている。 "It Happens In The Horizon Of Events, Garden" という題もあって、 布の起伏は宇宙空間とその重力による歪みを、穴や円筒はブラックホールを連想させられる。 布の下に人が入って穴や円筒から頭をひょこひょこ突き出したりしている様子が 観られればユーモラスで面白そうだと思ったのだが、 客が少かったうえ、自分以外の客があまりそういうノリではなかったのが残念だ。 自分は頭を突き出して遊んだが、その様子は外から観られないからだ。 もしくは、一緒に行った人と一緒に布の下に入って 離れた穴や筒から頭や手を様々に突き出し合って遊ぶのも面白いかもしれない (自分は1人で行ったの実際にやったわけではないが)。 そういう観客の遊びの余地が感じられる所も、この作品が気に入ったところだ。

ところで、この Neto の作品には「それは地平で起こるできごと、庭」という邦題が付けられているが、 作品の形状といい「それは事象の地平面で起こる、庭」の方が適切だろう (事象の地平面 ⇒ ja.wikipedia.org)。 「事象の地平面」という用語を知らなかったにしても「それはできごとの地平でおこる、庭」だろうし、 おかしな邦題が付けられているのは、残念だ。

ちなみに、Ernesto Neto 関連レビュー: 2001年2004年2006年

Jim Lambie と Ernesto Neto の印象が強過ぎたこともあるが、 白を基調としてレース編みのような繊細な造形物を掲げる 渋谷 清道 のインスタレーションは、いまいちピンとこなかった。

インスタレーションの他にも壁懸けで展示できる小さな作品もいくつか展示されていたが、 インスタレーションに対する参考資料というかオマケという印象は否めなかった。

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