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Review: 『チェチェンへ —— アレクサンドラの旅』 (Александр Сокуров (dir.), Александра; Aleksandr Sokurov (dir.), Aleksandra) (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/01/04
2007 / Россия (Russia), France / 92min. / 35mm / colour.
Directed by Александр Сокуров (Aleksandr Sokurov)

1970年代末から活動し、共産政権崩壊後の1990年代半ば以降注目されるようになった ロシア (Россия / Russia) の映画監督 Александр Сокуров (Aleksandr Sokurov) の新作だ。

オペラ歌手 Галина Вишневская (Galina Vishnevskaya) 演ずる老婦人 Александра (Aleksandra) が チェチェン (Нохчийчоь (Noxçiyçö) / Чечня / Chechnya) のロシア軍駐屯地に 将校孫を訪ねた3泊4日間を描いた映画だ。 チェチェンの首都グロズヌイ (Грозный / Grozny) にある ロシア軍の Ханкала (Hankala) 基地でロケが行われている。 確かに駐屯地からの出撃シーンはあるが、 主人公の老婦人が戦闘に巻き込まれたりすうようなスリリングなシーンは全く無い。 戦争の悲惨さ無意味さを雄弁に主張するような反戦映画ではない。 画面もソフトフォーカスでセピアかかっており、まるで半ば夢を見ているかのよう。 このように淡々と静かに描く撮り方も、いかにも Sokurov らしい映画だった。

そんな中で最も印象的なシーンは、 駐屯地近くのバザールで出会ったチェチェン人の老婦人の家に招かれるシーン。 その家というのは、砲爆撃で大きく破壊された集合住宅の中の崩れずに済んだ部屋なのだ。 また、その家から駐屯地への帰り道で 送ってくれたチェチェン人青年と Aledsandra との会話が、 この映画の中では最もはっきりしたチェチェン戦争へのコメントであるように感じられた。 青年の「解放してほしい」という訴えだけでなく、 Aleksandra の「行きたい所は」という問いかけに 「メッカとサンクト・ベテルブルグ」と青年が応える所など。

しかし、原題にはチェチェンという言葉はなく、 映画の中でも舞台がチェチェン戦争だとは、はっきりとは描かれない。 その抽象的な描き方もあって、例えば、先日観た映画 Waltz With Bashir [レビュー] と同じく、レバノン戦争時のレバノンのイスラエル軍駐屯地と パレスチナ人やレバノン人の話としても通じるようにも感じられた。 チェチェン戦争固有の文脈に関わる問題というより、 もう少し普遍的な戦争に関わる問題に向かい合うような映画に感じられた。