フランスの曲馬団 Zingaro が4年ぶりに再来日した。 今回の演目 Battuta は、 ルーマニア (Romania) のジプシー (Gypsy) / ロマ (Roma) の弦楽団/ブラスバンドをフィーチャー。 Zingaro というカンパニーの名前 (Zingaro はジプシー/ロマの呼称の一つ) そのものの、 ジプシー騎馬サーカスが楽しめた。 あまりにベタ過ぎで味わい深みに欠けるようにも感じたが、 4年前の公演では「上演中の拍手をご遠慮下さい」というアナウンスなど もったいぶり過ぎな所もあったので、 拍手や笑い声でテント全体が盛り上がる雰囲気が楽しめたのはとても良かった。
空間の作りは前回とほぼ同じ。 柔らかめの赤土の中央の一段低くなった円形のスペースと、 その回りの馬が疾走する硬めの土の半径10m程の円形コースだ。 今回は中央に落水の柱が立っていた。 ジプシーのブラスバンド (Fanfare Shukar de Moldavie) と 弦楽団 (Taraf de Transylvanie) は、 サークルを挟んで向かい合うよう作られたピットに陣取っていた。
Battuta のテーマはジプシー。 イスタンブール (Istanbul, TR) で制作した作品ということで、 トルコからバルカンにかけて分布するジプシーのイメージを作ったのだろうか。 明確なストーリーという程のものはなく、 ジプシー風の生活や結婚式、花嫁の略奪と思わせるようなものをネタにして、 曲馬の技を見せていくというものだ。 半径10メートル程の円形コースを疾走しつつ見せる技は迫力満点だ。 それも、一度に6頭入ってほとんど馬間を空けずに疾走したり、 三頭がほぼ横密着して並走したり。 それだけでも高度な技だろうに、その上でさらに曲乗りをするのだ。 技も多彩なので、そういう技を見ているだけで十分に楽しめるショーだ。
しかし、こういう技は前回も見ていることもあり、前回ほどのインパクトは無かった。 むしろ馬車を使ったシーンでの馬車の造形 (Citroën 2CV を馬車仕立てに!) や、 疾走する馬車の上で繰り広げているユーモラスな寸劇など、 高度な技というより細かい仕込みの妙を楽しんだりした。 道化っぽい髭をはやした老人風のいでたちの男性と、着ぐるみの熊のやりとりも、 客席にまで乱入したり。こういうお笑いのシーンもサーカスらしかった。
前回は、中央のサークルを使い、 ドレッサージュ (Dressage) というか華麗なステップ捌きのソロがあったのだが、今回は無し。 こういうのをブレイクに入れて緩急を付けても良かったのではないか、とも思った。 中央に水の柱を作った演出は、そういう技を見せない埋め合わせだったのかもしれない。 また、Zingaro のトレードマークにもなっているガチョウも、 今回は模型だけで生きたガチョウの出演が無く、ちょっと寂しく感じた。
弦楽団は Taraf de Haïdouks、ブランバンドは Fanfare Ciocărlia を 思わせるようなジプシー風のもの。 騎手たちのいでたちや馬車の造形も合わせて、ジブシー風の雰囲気を作り出していた。 ただ、弦楽団とブラスバンドを場面によって音楽を切替えて使い、 一緒に演奏することはほとんど無かった。 楽団に客席通路を練り歩かせたりする演出を期待していたのだが、 最後にブラスバンドがサークルに下りただけで、あとはずっとピットで演奏していたのは、物足りなかった。 白馬に花嫁姿の女性馬をならず者風の4人の男が追いかけるシーンで、 映画 Undergrund (Emir Kusturica (dir.), 1995) のテーマ “Kalasnjikov” は ベタ過ぎではないかとは思ったりもした。 ジブシー楽団への期待が大きかっただけに物足りなく感じる点がいろいろあったが、 楽団の生演奏で高度な曲馬を見せる騎馬サーカスというだけで十分に楽しめたのも確かだ。