カナダ (Canada) 出身で ベルリン (Berlin, DE) とグリンゴロッド (Grindrod, BC, CA) を拠点とする 作家2人の展覧会だ。 Cardiff のサウンドインスタレーション “The Forty-Part Motet” (2001) と Cardiff & Miller のビデオ作品 “Night Canoeing” (2004) が展示されていたが、そのうち前者が印象に残った。 “The Forty-Part Motet” は 16世紀イギリスの作曲家 Thomas Tallis による motet (ルネサンス期のポリフォニー) Spem In Alium (c.1570) に基づく作品だ。 40個のスピーカーが長円状に並べられ、そこからくり返し Spem In Alium が流されていた。 この motet は、5声を8組合わせるという少々変わった構成の全40声の多声 motet で知られる。 その曲を各パートごとに録音したものを40個のスピーカーでそれぞれ再生していた。 あるパートだけが歌っている時は、あちこちから歌声が上がっているように聞こえる。 全パートの声の響きに包まれるように感じる時もある。 サラウンドな立体感とは異なる音空間を感じるのが面白かった。 だた、メゾンエルメスのモダンな建築空間ではなく、 ヨーロッパの前近代の建築にインスタレーションした方がハマる サウンドインスタレーションのようにも感じた。
合わせて、最近観た美術展の中からいくつかについて、軽くコメント。
宮島1点、Navarro 3点、Turrell 3点の光を使った作品の小規模な展覧会。 Turrell はインスタレーションではなくホログラム (Hologram) 作品だった。 Turrell の展覧会はインスタレーションの印象が強く、 ホログラム作品をちゃんと観たのは初めてかもしれない。 反射型ホログラムの “reflection light work” 2点と、 透過型ホログラムの “transmission light work” 1点。 具体的な物体の立体像ではなく、楔型や薄板のような光の塊を写している所が Turrell らしい。 中では、視点を写すと光の薄板が大きく翻るかのように見える “reflection light work” が面白かった。
シルクスクリーンのプリントをインクの色を変えながら100回以上刷重ねることによって作られた作品。 柄のようなものを刷っていないのだが、細かいドットが高さ数ミリにまでなっており、 それが絨毯かベルベットのようなテクスチャを作り出している。 「古き頃、月は水面の色を変えた」は、そんなプリントをパッチワーク状に大きく床に並べたもの。 規則的なドットで一様な色合いのものと ドットの不規則さがうっすら模様を浮き上がらせているものを対比させていたが、 鏡のような池の水面にそよ風でさざ波が立ったかのように感じられる所が良かった。 カナブンのような甲虫の表面にこのプリントを施した「徒花」は、 玉虫色を意識したのかもしれないが、そういう美しさは感じられなかった。 むしろ、どうやってプリントした、もしくは、甲虫の表面に貼り付けたのだろう、ということが気になった。
木陰のような場所を写した少し露出過剰なモノクロ写真を 細かいストライプでハーフトーン処理したものだ。 そして、そのストライプは差し込む木漏れ日のよう。 確かに、写真のハーフトーン処理だけならコンピュータで機械的にできるだろう。 しかし、これは木版だ。 ストライプに微妙なノイズが乗っており、それが画面を淡くゆらめかせている。 そこに単なるハーフトーン・ストライプ以上の味わいを感じた。
去年の 北城 貴子 [レビュー] といい、 INAXギャラリー ギャラリー2の 紹介する平面作品は、自分の好みであることが多い。 うまくノイズを拾って写真的な具象を抽象化し、光を表現しているような所が 気に入っている。