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Review: Port B 『個室都市 東京』 @ 池袋西口公園 (演劇/インスタレーション)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/11/22
『個室都市 東京』
池袋西口公園
2009/11/15-22. 24h open (11/15: 12:00-; 11/22: -12:00).
構成, 演出: 高山 明. 空間設計・デザインアドバイザー: 塚本 由晴 (アトリエ・ワン). 映像監修: 宇賀神 雅裕.

去年、使用されなくなった図書館の建物を使った「演劇的インスタレーション」作品『荒地』を観た [レビュー] カンパニー Port B が、 新たなインスタレーション作品を発表したので、体験してきた。 『荒地』は主に音声を使ったインスタレーションのみだったが、 この作品は Port B がよく手がけている「ツアー」形式とのハイブリッド。 作品は、池袋西口公園に設けられたプレハブ仮設の『個室ビデオ店』でのDVD鑑賞の後、 「ツアー」での雑居ビルのパブ・スナックらしき店舗跡を使った『出会いカフェ』でのパフォーマンス体験となる。 「ツアー」はオプションだが、オプション込みで体験してきた。 スタイリッシュな『荒地』の方が好みだが、 『個室都市 東京』で歓楽街のような所で生きることを少しは感じることができたようにも思う。

まず『個室ビデオ店』でDVDを借りて個室に入って1時間程観た。 DVDに収録されているのは、池袋西口で撮影された5分程度のインタビュー映像だ。 それぞれ違う人のインタビューが収録されたDVDが数百本、貸し出し用に用意されていた。 インタビューの内容は、「朝食に何を食べましたか?」「今何が欲しいですか?」のようなもの、 「誰かに愛されていると感じますか」「守るべきものがありますか」のようなものから、 「どうしてネットカフェ難民がいると思いますか?」「難民をどう思いますか?」のようなものまで。 インタビューのテンポは、熟考しながらインタビュアーとゆっくり話すというよりも、 矢継ぎばやの質問にどんどん答えていくもの。 聞いていても、何かを考えさせられることなく、人の内面を見るようでもなく、上滑りしていくよう。

そんなインタビューを10人分程観た後は、ツアーだ。 ツアーといっても観客がぞろぞろと移動するわけではない。 個室ビデオ店からの火災避難訓練と個室ビデオ店員に言われ、 一人で案内地図を頼りに西口の地下街を抜けて『出会いカフェ』へ行った。 そこで、ハーフミラーの向こうにいる「相手」を指名し、 その「相手」と2人で小部屋へ入り会話した。 その会話とは『個室ビデオ店』で観ていたインタビューだ。 ビデオの中の人に向けられていた質問が、自分へ向けられることとなる。 予想はついていて、店で待ちながら自分ならどう答えるか考えていたのだが、 いざ自分に向けられるとばっとは答えられなかった。 しかし、それにしても、自分に質問を向けられたからといって、 問題意識がわき起こってくるようなものでは無かった。

個室ビデオ店を利用したことも無いし、 出会い喫茶 (カフェ) という業態も名前を聞いたことがあった程度。 実際の店内の様子との違いは判らないけれども、 インタビューの問いについて考えさせられたというよりも、 そういう場の雰囲気を体験したこと自体が興味深かった。 一方、インタビューについては、むしろ、『個室ビデオ店』の個室でビデオを観ながら、 もしくは『出会いカフェ』の小部屋で「相手」と話しながら、 そういった問いが余所事のように感じられた。 問われているような物事から、そもそも疎外されているような。 そして、その疎外感と『個室ビデオ店』や『出会いカフェ』の空間の雰囲気の組み合わせが、 印象に残った作品だった。

このような観客が個別に体験する形態の作品なので、 舞台上演やスクリーン上映と違い、多くの観客を捌くことができない。 「ツアー」が体験できる最終日21日の夕方に行ったこともあり (結局、22日午前の「ツアー」が追加となった)、大変な混雑で非常に待ち時間が長かった。 作品の形態上、待たされるのは仕方ないかとは思う。 しかし、もし再演することがあったら、整理券を配って個室に入ることのできる時間が予め判るようにするなど、 待ち時間を有効に使えるような工夫をした方が良いのではないだろうか。

ところで、この作品は フェスティバル/トーキョー 09秋』 参加作品なのだが、仮設の『個室ビデオ店』の隣に、やはり参加作品の 『おやじカフェ』 があったので、待ち時間を使って体験してきた。 コンテンポラリーダンスのダンサー・振付家の 伊藤 キム のプロデュースのカフェで、 一般公募の「おやじ」の店員が、30分おきに 伊藤 キム 振付のパフォーマンスを見せるというもの。 確かに客いじりもあったけれども、パフォーマンスの時以外は比較的普通のカフェ。 もう少しハプニング的要素が強かと予想していたのだが、 パフォーマンスの時と普通の店員の時の区別ははっきりしていた。 といっても、それなりに楽しめたけれども。