1960年代に活動を始めた現代美術作家 河口 龍夫 の回顧展だ。 これだけまとめて観るのは1998年の水戸芸術館での個展以来だが、 そのときの印象はあまり残っていない。 コンセプチャルな面の強い作品だが、 時間や抽象的な概念を扱いつつも、 その抽象概念操作の関連ドキュメンテーションを展示するのではなく、 あくまでそれをどう造形作品として示すのか、その造形への拘りが良い展覧会だった。
展覧会は、作品が扱っている主要なテーマに沿って、「言葉」「時間」「生命」の三部構成。 そんな中では、「言葉」や「時間」の部の、それも1970年代の作品が最も楽しめた。 特に良かったのが、1973年のパリ青年ビエンナーレ (Biennale de Paris) に出展されたという 「関係 — エネルギー」 (1972)。 床に疎らにいかさか無造作に、蛍光灯や石、銅の棒などが並べられ、 蛍光灯や電熱線が光り、時折タイマーの音が控えめにジリジリと鳴るという。 その造形の妙もあって、エネルギーの造形作品化というコンセプトを越え、 例えば 大友 良英 らによる旧千代田区立練成中学校屋上でのインスタレーション 『休符だらけの音楽装置』 [レビュー] の 祖形の一つを見るようだった。 その他、単純な立体をパズルのようなピースで作った1977年の作品や、 虫眼鏡で太陽光線を集めて木の板を焼くことで太陽の動きを記録した「太陽の道」 (1975) など。
1980年代末になると、鉛や蜜蝋といった素材へのこだわり、 舟、小屋やベッドといったより象徴的な造形が出てくる。 鉛使いなど、シンプルな Anselm Kiefer のよう、と思うところも。 それも悪くないのだけれども、そう感じるのも、 1970年代からの流れを追って観ているからかな、と思う所もあった。